【アメリア】判例翻訳プロジェクト解説

有志で協力して社会的意義のあるコンテンツを翻訳『翻訳プロジェクト』

 
?.アメリカの判例とは
1.アメリカの判例を学ぶ理由・訳す理由

訴訟社会のウソとホント

現代のアメリカという国を語るときに最もよく冠せられる形容詞が、「訴訟社会」や 「訴訟王国」という表現です。とくに一昔前、日本企業がアメリカへ進出するにあたりPL(製造物責任)法などで訴えられる恐ろしさを述べる文脈で繰り返し使われていました。そして、それを如実に物語る事例として頻繁に言及されたものに「濡れた猫を乾かそうとレンジに入れて死なせた上にメーカーを相手どり訴訟を起こして勝っ たオバアさんの話」というエピソードがあります。この通称「猫チン事件」は、日本でも驚くべき実話としてさまざまな論説で紹介され、PL訴訟などに対する備えを説く上で大きな影響を与えてきましたが、不思議なことに、この話についてはこれ以上詳しいことが伝わっていません。つまり、「○○対●●事件」と裁判の具体名で語られたことがない。いつも、「こんなことが本当に起こる国なのだから」といった紋切り型で済まされてしまうのです。

実際にはこの事件に該当する判例は存在せず、今では、この話が一種の「都市伝説」または「寓話」であることが知られています。「知られています」といっても、すべての人に知られているわけではなく、いまだにこれを「事実」と信じている人もたくさんいるようです。事実無根であるのにここまで話が広がるのは、巷の出版物に「本当にあったコワイ話」の類が多く存在することと同根の事情でしょう。しかし、「本当にあったコワイ話」のほとんどは、相手が幽霊だったりして「本当になかった話」だからこそ深く知る必要がないのですが、アメリカの裁判では本当にコワイ話がたくさんあります。相手は人間、そしてその話にはアメリカの法律や裁判制度という現実のカラクリが隠されているわけです。

たとえば、やはり有名な、コーヒーをこぼしてヤケドしたおばあさんがマクドナルド相手に起こした訴訟の話は実話(Liebeck vs. McDonald's Restaurants, 1994)で、最終的に何十万ドルという賠償金の支払いがマクドナルドに命じられました。このように「判例」として残されているならば、その裁判でどのような事実認定がなされ、どのような法律問題が議論されたのかを検討することができます。おばあさんの立場からも、マクドナルドの立場からも、いったい、法廷ではコーヒーによるヤケドをどのように考えるのか、ということを学ぶことができるのです。「これ、本当にあったらしいよ」と話を伝播させるだけでは、人々の心に無用な期待や不安をもたらすだけでしょう。

判例による理論武装

そもそも、英米では、制定法中心の大陸ヨーロッパや日本の法体系とは異なり、コモン・ローという判例法の体系を持ち、判例こそが法制度をささえる土台や基礎として機能しています。つまり、英米の法律は、過去の判例との継続性の中で、新しい判例を次々に生み出しながら発展してきたわけです。もちろん、議会で制定された法律や憲法も法体系に大きく寄与していますが、あくまでも英米法の基礎は初期の時代に発達した手続きや原則に従った新しい事件の判決です。この新しい事件と過去の判例との継続性を保つ上で重要なのは類似の事件を研究することで、裁判官は、個々の事例の相違点をしっかりと考慮しながらも、類似の事件は同様に判決されなければならないという「先例拘束」の原則に従った判断を下さなければなりません。

ただし、膨大な判例の中には矛盾したものがいくつも出てくるので、弁護士としては、いかにして自分の側に有利な判例を見つけるかが大きなポイントとなるのです。したがって、アメリカのロー・スクールなどでは、抽象的な法理論よりも判例を学ぶことが重視され、実際の判例の問題点を抽出することに精通するよう教育されます。そうした現実的な知識を蓄えた弁護士が法廷に立つのですから、日本の企業がアメリカの法廷で争うときも、それに見合った情報武装と心がけが要求されるということです。

もちろん、法律を学ぶ立場の人や国際ビジネスの現場にいる人だけでなく、アメリカのビジネスや社会の実像をつぶさに知ろうと思う人であれば誰でも、アメリカの判例を具体的に検討する必要があります。それらは、アメリカという国で何が起きているか、またはこれまで何が起きて来たかを知る上で、最高の記録として読むこともできるのです。

しかし、われわれ日本人がアメリカの判例を読もうとしても、そこには大きな壁があります。それは、英語であること、大量であること、さまざまな専門知識・背景知識が要求されることなどさまざまですが、たとえこれが経験ある翻訳者により仕事として訳出されてもそれが一般の人々の目に触れることはほとんどありません。インターネット上では社会的意義を考えた個人の努力でボランティア的に訳出された判例が数多く存在しますが、できるだけ多くの判例をできるだけ多くの人間の知恵を出し合いながら翻訳すれば、そこには個人の営為では得られない知識の集積が見られるでしょう。

この判例翻訳プロジェクトは、広範にわたる判例翻訳データベースの作成と、例翻訳に関する知識の充実を目指すものです。


2.アメリカの判例の学び方・訳し方

アメリカには「六法全書」がない

アメリカの映画などを観ていると、判例というものがアメリカの司法制度の中でいかに重要な位置を占めているか、そのイメージがつかめます。日本の映画に登場する弁護士なら「民法第○○条の○項にはこうある」といった台詞を言うところで、アメリカ映画の弁護士は「○○判例集○巻○○ページに出ている判例は、これこれしかじかの事件で、こんな判決が出ている」と自説の裏づけを述べるのです。

ここに登場する「判例集」というのは、日本の「六法全書」のように、英米法を学ぶ上、論じる上でもっとも基本的な資料であり、判例を語るなら、どの判例集にあるのかを明示しなければ何の説得力もなくなってしまいます。しかし、六法全書と比べて厄介なのは、これらの判例集が実に膨大な数存在し、座右に一冊置いておけば簡単に望む情報が調べられるようなものではない点です。

アメリカの判例集には、法律に基づいて刊行されている公式判例集(official reports)と私企業が刊行する非公式判例集(unofficial reports)があります。これらの元になっているのは基本的にはどちらも同じ判決書なので、公式だから権威があり、非公式だから権威がないというものではありません。むしろ、連邦の下級審や一部の州の裁判については公式判例集がないので、ウェスト(West)社の発行するナショナル・レポーター・システム(全米判例体系:National Reporter System)という連邦と州の両方を網羅する膨大な非公式判例集が最も中心的な資料となっています。

かつては手作業で自分の望む関連判例を探していたため、限られた時間の中で壮絶な作業を強いられたようですが、今日ではダイジェスト(digest)とサイテーション(citation)という二つの補助システムが発達し、経験のある人々にとってはずいぶん探しやすくなっています。ダイジェストは判例要旨を問題ごとに分類したもの、サイテーションは判例や法令の変遷を引用目録で示したもので、それぞれアメリカン・ダイジェスト(American Digest)とシェパーズ・サイテーション(Shepard'sCitation)が主要なものとして使用されています。

アメリカン・ダイジェストとシェパーズ・サイテーションは、どちらもナショナル・レポーター・システムと関係付けられているので、事実上、ナショナル・レポーター・システムの判例集が標準となっているのですが、現在、オンラインデータベースの発達などとともに一部の州では特定の判例集に依存しないサイテーションの方式が採用されています。

オンラインで法律情報を検索できるデータベースの主なものとしては、LexisやWestLawといった有料のDB、FindLawのような無料のDBがあります。この他にも、裁判所やロー・スクールなどのサイトでは判例情報を無料で提供しているところもあるので、非常に便利になりました。ただし、判例集の情報とオンラインデータベースの情報との間に細かい違いがある点などが指摘されているので、論文などで引用する場合は注意が必要です。


判例の引用は判じ物?

論文や判例の中に引用される判例の表記は、原告を前、被告を後にして訴訟当事者の名前「○○v.●●」(控訴審の判例では逆の場合もあります)が書かれていますが、それだけでなく、なにやらその後に判じ物のような英数字が並んでいるのが一般的です。「ジュリスト」のような日本語の判例集でも英米の判例に関する参考書でも通常は英語でそのまま表記されていて、「詳しく具体的に書いてある」ということだけは分かっても、実際はどのような情報が示されているのかは分かりにくいでしょう。

たとえば、次のようなものです。

ACADEMY OF MOTION PICTURE ARTS AND SCIENCES v. CREATIVE HOUSE PROMOTIONS, INC. (9th Cir., 1991) (944 F.2d 1446)

これらの9th Cir., 1991とか944 F.2d 1446といった情報は何を示しているのかというと、9th Cirは「第9巡回区連邦控訴裁判所」で、944 F.2d 1446は「連邦下級審判例集第2シリーズ第944巻1446頁」ということになります(2dとあるのは「第二版」という意味ではなく、ナショナル・レポーター・システムの各判例集がある巻数に及んだ段階でSecond Series「第2シリーズ」としてまた第1巻から数え始める方式をとっていることによるもの)。

一般的に判例の引用で示される情報は、「事件名」「登載判例集の情報(名、巻数、頁数)「判決の年」「裁判所名(判例集名で特定される場合は省略されます)」といったもので、これらを全部そのまま表記したら長くなりすぎることもあり、通常は略語が使用されているわけです。

以下に、主な判例集の略語を挙げて起きましょう。


United States Reports
U.S.
Supreme Court Reporter
S. Ct.
United States Supreme Court Reports, Lawyer's Edition
L. Ed.
United States Law Week
U.S.L.W.
Federal Reporter
F.
Federal Reporter, 2nd Series
F.2d
Federal Reporter, 3rd Series
F.3d
Federal Supplement
F. Supp.
Federal Rules Decisions
F.R.D.
Bankruptcy Reporter
B.R.
Atlantic Reporter
A.
Atlantic Reporter, 2nd Series
A.2d
California Reporter
Cal. Rptr.
California Reporter, 2nd Series
Cal. Rptr. 2d
New York Supplement
N.Y.S.
New York Supplement, 2nd Series
N.Y.S.2d
North Eastern Reporter
N.E.
North Eastern Reporter, 2nd Series
N.E.2d
North Western Reporter
N.W.
North Western Reporter, 2nd Series
N.W.2d
Pacific Reporter
P.
Pacific Reporter, 2nd Series
P.2d
Pacific Reporter, 3rd Series
P.3d
South Eastern Reporter
S.E.
South Eastern Reporter, 2nd Series
S.E.2d
South Western Reporter
S.W.
South Western Reporter, 2nd Series
S.W.2d
South Western Reporter, 3rd Series
S.W.3d
Southern Reporter
So. [BB] S. [ALWD]
Southern Reporter, 2nd Series
S.2d


?.アメリカの裁判とは
1.アメリカの裁判の特徴

陪審制
−−法廷は劇場?

アメリカの裁判が映画によく登場するのは、アメリカが「訴訟社会」だからというだけでなく、アメリカの法廷という空間がすぐれて「劇場的」だからという理由もあるでしょう。丁々発止と繰り広げられる検事と弁護士、あるいは双方の代理人による弁論がなによりも観る者の心を熱くする(あくまで映画の場合ですが)わけです。そして法廷を劇場的にしている理由の最たるものは、そうした弁論を厳しくチェックする一般の人々の存在、すなわちご存知の陪審制にあるとおもわれます。陪審裁判は裁判への国民参加を理念とする合衆国憲法によって保障された制度で、民事事件では、原告が陪審裁判を要求する権利があり、被告はそれを拒否できないことになっています。

しかし、アメリカの裁判といえば必ず陪審制によるわけではありません。民事裁判、刑事裁判のどちらについても、裁判官による審理(judge trial)と陪審員による審理(jury trial)があり、陪審による審理が必要でない場合には、裁判官の判断だけにで略式判決(サマリージャッジメント;summary judgment)を出すことがあります。もともと、陪審員は素人ですから、 法律の専門的事柄については判断できないはずです。したがって、法律問題(たとえばある特定の行為が特定の犯罪に相当するかどうか)について判断するのは裁判官で、事実問題(たとえば被告がその特定の行為をしたかどうか)について認定するのは陪審ということになります。

また、陪審の下した判決が万能かというと、そうではなく、JMOL(陪審の評決と異なる判決;judgment as a matter of law)という判決もあります。これは、陪審が出した評決とは反対の判決をすることで、陪審の評決が間違いと言える場合(つまり、合理的な通常の陪審ならそのような評決を下すはずがない、と裁判官が判断した場合)には、陪審の評決が原告に有利なものであった場合は被告に有利な、被告に有利なものであった場合には原告に有利な判決をすることもあるのです。

もちろん、陪審の評決がきちんとした証拠と正しい法的基準に基づいていれば、JMOLは認められません。また、JMOLは陪審の評決が不利である当事者からの申し立てに応答して裁判官が出すことができますが、その当事者は審理に入る前に、サマリージャジメントの申し立てをして却下された場合に限られます。

日本でも大正時代に陪審制度がありましたが、現在、その効力は停止状態(事実上は、廃止のようなものですが)にあり、事実認定も法律問題も裁判官が行う審理だけが行われています。しかし、とくにえん罪事件や否認事件に熱心に取り組んできた弁護士などが陪審裁判の導入を強く訴えていることから、司法制度改革の一つとして、将来的に陪審制度に似た裁判員制度が導入されようとしています。

答弁取引と和解
−−決着は白か黒とは限らない

陪審制度がきわめてアメリカに「特徴的」であることは確かですが、裁判全体に占める割合からすると、陪審審理が行われるのはきわめて「例外的」でもあります。陪審裁判で処理される割合は連邦刑事事件の数%、連邦民事事件全体の1〜2%という統計が出ています。

しかし、このことをもって、アメリカの裁判における陪審制度の重要性を低く見るのは誤りで、この数字自体は、アメリカの裁判がもつもう一つの大きな特徴に関係があると考えるべきでしょう。それは、アメリカの裁判では、事実審理にいたる前に多くの事件が終結を見るということです。つまり、刑事事件においては答弁取引、民事事件においては和解などの審理前手続きにより、事件が終局してしまうわけです。

アメリカは日本と違って白黒をはっきりさせるとよくいわれますが、他方でアメリカには日本より現実的な解決を優先させる国民性もあります。事件が裁判手続きに持ち込まれる数は気が遠くなるほど多いけれど、必ずしも事実審理の手続きで解決するとは限らないという点も、「訴訟社会アメリカ」の見逃せない現実でしょう。

懲罰的賠償--人民が「悪者」を懲らしめる制度

法廷が劇場だとすれば、民事裁判においてそこで繰り広げられるドラマを劇的に締めくくる要素の一つに、陪審の決定する懲罰的賠償の金額があります。映画でも、「悪者」である大企業を相手どった公害訴訟などで弁護士の弁論が感動を呼び、陪審が原告勝訴の評決を下しただけでなく実際の損害金額を大きく超えた懲罰的損害賠償金(punitive amage)を高らかに告げる勧善懲悪のクライマックスはお馴染みの場面です。判例のところで述べたPL法訴訟が企業にとって「コワイ話」になっているのは、その「懲罰」が大きな理由になっているのでしょう。PL訴訟や公害訴訟のように一般市民対大企業という構図になる訴訟では、「観客」である陪審が大企業に厳しい態度をとる傾向があります。

ただし、懲罰的賠償金は、公序良俗の見地から、実際に被った損害賠償額(compensatory damages)の3倍(treble damages「三倍賠償」)を限度として、判事が評決額を大幅に減額して判決を下すことができます。マクドナルドのコーヒー事件でも陪審は百万ドル単位で賠償金額を決定しましたが、判事がそれを減額して何十万ドルという賠償金の支払いを命じたのです。 日本人にはこうした「人民による懲罰」という法律も思想もないので、陪審制が復活してもただちに懲罰的賠償が命じられることはないでしょう。この制度が「訴訟社会」アメリカのもっとも顕著な特徴といわれる所以です。

2.アメリカの裁判の手続き

A-1.刑事訴訟の手続き--「告発・逮捕」から「公訴の提起」まで

アメリカの刑事訴訟手続きは、多くの日本人にとって映画や小説を楽しむ(あるいは訳す)ために学ぶものですが、アメリカへ旅行や留学に行ったときなど、実際に犯罪に巻き込まれたときのためにも流れを頭に入れておいた方がよいでしょう。

1.告発・逮捕

a.令状逮捕(arrest with warrant)(軽罪等)・告発(charge)→逮捕(arrest)→ブッキング(booking)
b.無令状逮捕(arrest without warrant)(軽罪等)・逮捕→ブッキング→告発
c.無令状逮捕(重罪等)・逮捕→ブッキング→取調べ(interrogation)→告発

原則として、何らかの犯罪に関する告発がなされた場合は、告発者(たとえば犯罪の被害者)が宣誓供述書(affidavit)を裁判所に提出して逮捕状(warrant of arrest)を発布してもらう必要がありますが、警察官が直接犯行を目撃していた場合には直接裁判所に行って逮捕状を取ることもあります。逮捕状によらず犯人を逮捕するのは、警察官が自己の面前またはその他の場所で犯罪行為が行われたことを信じるに足る相当な理由(probable cause)がある場合です。重罪については、多くの場合、無令状による非現行犯逮捕がなされているようです。

被疑者を逮捕した後は、まず警察署へ連行し、住所氏名の確認(人定)、写真の撮影、指紋採取、身体検査などのブッキング(身柄登録。被疑者の逮捕を記録する手続き)を行った後、留置所に収容します。

この後、重罪の場合は、被疑者に対する取調べ(通常は24時間の制限あり)が行われることがありますが、これは非現行犯逮捕の場合に自白を得ることが主な目的です。

最初に私人から告発がなされた逮捕以外では、ブッキング(および場合によっては取り調べ)が終了した段階で警察官が被疑者を裁判所へ告発するかどうかを決定します。警察官が被疑者を告発するためには、被疑者を治安判事(agistrate)のところに引致し、被疑者についての情報を記載した告発状(complaint)を裁判所に提出しなければなりません。

2.起訴前手続

a. 冒頭手続き(イニシャル・アピアランス;initial appearance)→予備審問(preliminary hearing)
b. 冒頭手続き→保釈(bail)

逮捕された被疑者が最初に裁判所に出頭する手続を冒頭手続きといいます。ここでは、治安判事が被疑者に対する容疑事実について審理するのですが、その際、逮捕について相当の理由があったかどうかも検討されるわけです。この冒頭手続きの段階で、多くの被疑者は保釈されます。被疑者が保釈してもらうには一定の保釈金を裁判所に納める必要がありますが、たいていの被疑者はそれだけの経済力がないので、ボンズマン(bondsman)と呼ばれる民間の保証業者(bondingagents)に保釈金の何%かに相当する手数料を支払い、代って保釈金を納めてもらうことになります。この保釈金の借りを踏み倒して逃げた被疑者を追いかけて捕まえるのが、映画でおなじみのバウンティ・ハンターです。保釈が認められなかった被疑者はジェイル(jail)に収容されることになります。

ジェイルは、地方自治体(多くはカウンティ)が運営していて、未決の被疑者や被告人や短期刑の受刑者などを収容する場所です。ジェイルを管理しているのは警察官ではなくシェリフ(sheriff)なので、警察官はシェリフの許可を得て被疑者に話を聞くことになります。重罪の場合、冒頭手続きが終了してからしかる後(およそ2週間以内)、 治安判事により予備審問が開かれます。現実には、予備審問に至らず、この間に不起訴処分や軽罪事件への変更によって終結される事件が多いようです。

予備審問では、被疑者が犯行を行ったと信じるに足りる相当な理由(probable cause)が存在するかどうか(つまり被告人をトライアルに付するだけの証拠があるかどうか)が判断されます。

3.公訴の提起

a. 検察官・大陪審による正式起訴(indictment)
b. 検察官が直接起訴する略式起訴(information)
c. 大陪審の職権で行う告発(presentment)

多くの州では、予備審問の結果相当な理由があると判断されると被疑者は起訴され、裁判を受けることを義務づけられます。ここで起訴する場合に検察官が裁判所に提起するのがinformationと呼ばれる略式起訴状ですが、元来、重罪事件については、予備審問の後、さらに大陪審(grand jury) を経て正式起訴することが必要とされていました。現在でも連邦や東部の一部の州では、重罪事件について大陪審の正式起訴が必要とされています。大陪審(grand jury)はいわば「起訴陪審」で、起訴するに足るだけの証拠があるかどうかを審査する陪審です。非公開で審理が行われ、判事が存在せず、検事が検事側証人に質問するだけで、被告側に有利な証言や証人などは示されません(弁護人は部屋の中に入れません)。

起訴陪審は、審理陪審の陪審員が12名以下なのに対して、16名から23名の陪審員で構成されている(連邦の場合)ために「大陪審」と呼ばれているわけです。大陪審には、検察官が捜査を積極的にしないような事件について、独自に捜査を開始する権限があります。この場合は正式起訴状(bill of indictment)の提出を経ずに告発が行われ、presentmentという告発の書面が裁判所に提出されることになります。

A-2.刑事訴訟の手続き

4.審理前手続    
       
a. アレインメント(罪状認否手続; arraignment)→無罪の答弁 (plea of not guilty)
b. アレインメント→有罪の答弁 (plea of guilty)

起訴状(indictment)または略式起訴状( information)が発せられて起訴が行われた後、ほとんどの場合、被告人側と検察側との間で事件処理についての取引が行われます。これが答弁取引(plea bargaining)といわれるもので、別に裏取引ではなく、裁判所がその採否を決定することになっています。通常、被告人がこの後に行われるアレインメントで有罪の答弁をすることと引き換えに訴えを重い犯罪から軽い犯罪に変えたり、より軽い刑を求刑したりといった条件が提示されます。

アレインメントには弁護人も出席し、被告人が起訴状に対して「無罪(innocentではなくnot guilty)」「有罪(guilty)」「不抗争(nolo contendere; 一種の有罪答弁ですが、ここで有罪にされた事実を後の民事裁判で証拠として採用されないとされます)」のいずれかの答弁をすることになります。アレインメントは、トライアルの手続きに含まれるのではなくトライアル前の手続きであって、ここでの答弁が無罪でなければトライアルは始まりません。答弁取引などにより被告人が有罪の答弁を行う場合、被告人は公訴事実を認めたことになるため、裁判は開始しないでそこから量刑の手続(sentencing)にうつるわけです。

5.審理(公判)

a. 冒頭陳述(opening statement)→直接証拠提出(presentation of direct evidence)→反対証拠提出(presentation of redirect evidence)→検察側による冒頭最終陳述(opening final statement)→被告側による最終陳述(final argument)→検察側による最終陳述(closing argument)→陪審員への説示(instruction to the jury)→評決(verdict)→判決(judgment)
     
b. 冒頭陳述→直接証拠提出→反対証拠提出→検察側による冒頭最終陳述→被告側による最終陳述→検察側による最終陳述→陪審員への説示→表決不成立(hung jury)→審理無効(mistrial)→再審理(new trial)

審理では、まず、検察側が冒頭陳述でこれから何を立証しようとしているかについて陪審員に説明し、それを受けて弁護側が冒頭陳述を行います。冒頭陳述の後に行われるのが検察側と弁護側双方の立証(presentation of evidence)です。

検察側証人(多くは警察官です)に対する検察官の直接尋問(direct examination)が終わると、交互尋問制にのっとり被告弁護人が反対尋問(cross examination)を行う形式は映画などでお馴染みの通り。これは検察側が証拠提出を終わるまで他の証人との間で次々と行われます。反対尋問の範囲は、原則として直接尋問に現れた事項に限定されますが、それ以外の事柄についての尋問も例外的には認められます。

こうしたやりとりによって事実審理が終了すると、これまでの証言や証拠を踏まえた上で、相手の主張を論駁し、陪審員に自分たちの主張の正当性を訴えるため、双方が最終陳述を行います。

両者の最終弁論などを経て終了すると、陪審員たちは評決を行うために法廷から離れて別室に移り、評決を出すための評議(deliberation)をしますが、この段階で裁判官により法律問題についての説明、最終説示(instruction; charge)が行われます。

陪審の評決は、原則的に陪審員全員一致によることになっていますが、一部の州では非全員一致評決を認めています。

原則的に裁判所は評決に従った判決を下す義務がありますが、その評決に問題がある場合はJMOL(陪審の評決と異なる判決;judgment as a matter of law; judgment non bstante veredicto)が下されたり、トライアルで提出された証拠から事実認定に検討すべき点がないと判断される場合は無罪の場合に限り指示評決(評決は形式的なものとなり、裁判官の指示の通りとなる)が下されることもあります。

指示評決は、サマリー・ジャッジメントと似ていますが、証拠などの審理を経ている点が異なります。審理無効は、多くの場合、陪審がいくら話しても必要な数の陪審員による同意が得られなかった評決不成立のときに生じるものですが、不正な証言が陪審に治癒しがたい影響を与えたと判断される場合や、陪審員自身に不正なり不幸なりがあった場合にも生じます。この場合には、新たな陪審のもとで再審理が行われることになるのです。


B-1.民事訴訟の手続き

日本人が「訴訟社会」アメリカにおいて訴訟の当事者になる可能性が高いのは民事裁判でしょう。

日本側が連戦連敗といわれる民事陪審裁判でも、実はかなりの勝率をおさめているという統計結果も出ていて、しかるべき言い分と戦略さえあれば、やみくもに訴訟を恐れる必要はなさそうです。

1.プリーディング

a. 訴状送達(service of process)→被告の答弁(response)
b. 訴状送達→被告の答弁→原告の反対訴答(reply)
c. 訴状送達→訴訟の却下(involuntary dismissal)

プリーディングとは、民事訴訟においてトライアル(正式事実審理; trial)の前に争点を明確にするため当事者間で互いに主張書面を交換する手続のことですが、この段階の対応を誤ると訴訟の行方に大きな影響を及ぼします。その手続きは、原告による訴状(complaint)の送達、被告による申立(motion)または答弁書(answer)の形式での答弁、そして場合によってはその後の原告による申立または答弁という流れになっています。

被告は訴状および呼出状(summons)の送達後20日以内(州によって30日〜35日の場合もある)の答弁が要求されます。この期間内に被告が答弁書を提出しなかった場合は、不利な判決が下されたり、欠席判決により敗訴する可能性があります。答弁書の内容としては、訴状内容をもっと明確にすることや被告に不利益になる事項を削除することを申し立てる、原告の請求の主張の全部または一部を否認する、法的根拠欠如(答弁相手方の訴答で主張されている事実が仮にすべて真実であるとしても法律上相手方の主張は成り立たないといった主張; demurrer)や裁判管轄などについて抗弁を提出する、といったものがあります。

また、この段階で被告は、原告に対して反訴(counterclaim)を起こしたり、訴状に記載された共同被告に対して共同被告間訴訟(cross claim)を起こしたり、訴訟外の第三者を訴訟に巻き込むための第三者訴訟(third party complaint)を起したりすることができます。

被告側としては、原告側の訴答や送達方法など形式的要件の不備があれば、それを理由に訴え却下(motion to dismiss)を申し立てることができますが、手続きの最初の段階で主張しないと権利を放棄したものとみなされます。

裁判所は、こうした被告側からの申立に応じる場合だけでなく、裁判所自身の発意によっても訴訟を却下することもあります。

B-2.民事訴訟の手続き

2.審理前手続  

a. 開示のための協議(discovery conference)→ディスカバリー(discovery)→プリトライアル・コンファレンス→答弁または申立

b. 開示のための協議→ディスカバリー→プリトライアル・コンファレンス→サマリー・ジャッジメント(summary judgment)

c. 開示のための協議→ディスカバリー→プリトライアル・コンファレンス→欠席判決

d. 開示のための協議→ディスカバリー→プリトライアル・コンファレンス→和解(settlement)

e. 開示のための協議→ディスカバリー→プリトライアル・コンファレンス→訴訟の取り下げまたは訴訟の却下(voluntary or involuntary dismissal)

ある意味で、日本の企業などの外国企業がアメリカの民事裁判でもっとも苦戦するのがディスカバリー (開示手続き; discovery)だといわれています。これは、トライアルの前に、その準備のため法廷外で当事者が互いに事件に関する情報を開示し収集する手続で、原則として、公正を期すため、当事者はその訴訟で審判の対象となる事項に関連したことのすべてについてディスカバリーをもとめることができます(秘匿特権その他の制限が課せられる場合もありますが)。その膨大な情報の準備や処理が、外国の企業にとっては大変な負担となる場合があるのです。

ディスカバリーの方式には、訴訟の一方当事者から他方当事者に対する書面による一連の質問書(interrogatories)、法廷以外の場所(たとえば弁護士事務所など)で質問に答えさせる証言録取書(deposition)、相手方の持っている書類をすべて提出させる文書類の提出(production of documents or things)などがあります。

ディスカバリーが終了すると、正式事実審理の前に争点を整理したり訴訟上の合意を形成したりする手続きのプリトライアル・コンファレンス(正式事実審理前協議;pretrial conference)が行われます。この期間内に、当事者の求めに応じ、仮の救済方法として一時的な差止命令(injunction)や差し押さえ(seizure)などの手段がとられることがあります。

また、この間にも、重要な事実について真性な争点がない場合に裁判官がサマリー・ジャッジメントを下したり、裁判官の勧めにより和解が成立したり、訴訟が却下されたりして、最終的にトライアルが行われないで事件が終了することが多いようです。

3.審理

a. 冒頭陳述(opening statement)→原告側による立証(case in chief)→被告側による反証(rebuttal)→原告側による再抗弁(surrebuttal)、原告側による冒頭最終陳述(opening final statement)→被告側による最終陳述(final argument)→原告側による最終陳述(closing argument)→陪審員への説示(instruction to the jury)→評決(verdict)→判決(judgment)

b. 冒頭陳述→原告側による立証→被告側による反証→原告側による再抗弁、原告側による冒頭最終陳述→被告側による最終陳述→原告側による最終陳述→陪審員への説示→表決不成立(hung jury)→審理無効(mistrial)→再審理(new trial)

基本的には刑事の場合と同様、交互尋問制による事実審理が行われます。公判における立証責任(burden of proof)は、争われている事実の存否について、証明をしていく責任ないし負担のことですから、これを負うのは原告側で、まず原告側に証拠の提出(presentation of evidence)が求められます。

原告がこの立証責任を果たすことができなければ、裁判所により指示評決が下され、原告側敗訴となるわけです。


C.アメリカの裁判所

アメリカという国は州の独立性が高いので、行政組織でも司法組織でも、連邦と州に同様の組織が存在しますが、裁判所もそれぞれについて別々の体系を持っています。

1.連邦

1)第一審裁判所−地方裁判所(district court)

地方裁判所は第一審裁判管轄権をもち、一般事件を最初に受理し裁判する事実審裁判所(trial court)です。裁判官は原則的に1名で、選挙区割りの合憲性を争う事件では3名となります。多くの州には1つの地方裁判所しかありませんが、大きな州では2つから4つの地方裁判所が置かれています。

2)第二審裁判所−控訴裁判所(Court of Appeals/Circuit Court )

第一審裁判所の判決に不服がある当事者の控訴を受理する裁判所が控訴裁判所です。全米を11の地域(circuit「巡回区」と呼ばれています)とコロンビア特別地区の12の地域に分けて、このそれぞれに控訴裁判所が設置されています。裁判官は3名ですが、重要事件については当該控訴裁判所に所属する裁判官の過半数の賛成が必要です。

3)最高裁判所(U.S. Supreme Court)

連邦の際終審裁判所は、控訴裁判所からの上告事件を扱う最高裁判所です。ここでは、連邦裁判所からの上告だけではなく、 州の最高裁判所からの上告事件も扱います。裁判官は、最高裁長官 (Chief Justice)に8名の陪席裁判官 (associate justice)を加えた9名で、定足数は6名です。

2.州

連邦が三審制をとっているのに対し、州の場合は基本的に三審制ですが、州によっては二審制をとっているところもあります。裁判所の名称も異なる場合があるので注意が必要です。

1)第一審裁判所

第一審として大抵の事件を審理する裁判所が州内の主要都市に設置されています。位置づけとしては地方裁判所ですが、District Courtと呼ばれているとは限らず、ニューヨーク州の第一審裁判所などはSupreme Courtと最高裁判所のような名前がついています。多くの州では、Circuit Courtと連邦控訴裁判所のような名前をつけています。

2)控訴審裁判所

現在、アメリカの多くの州には、第一審裁判所の裁判に不服を申し立てる控訴審裁判所(中間上訴裁判所)が置かれています(名称はCourt of AppealsやAppellateCourtなど、appellateやappealという言葉を含むものになっています)。

歴史的に見れば、州の裁判所では二審制が原則でしたが、最高裁判所に上訴される事件数の増加に伴い、三審制へと移行してきました。

3)最上級裁判所

州の最終審裁判所には、ほとんどの州でSupreme Courtという名前がついていますが、 ニューヨークの場合はこの名前が第一審裁判所についていて、こちらはCourt of Appealsと呼ばれています。

3.裁判管轄

「裁判管轄」とは、それぞれの事件をどの裁判所が裁けるか、という基準のことで、連邦と州の2重構造になっているアメリカの司法制度では、とくにこの裁判管轄が重要になります。

裁判の中での戦いが繰り広げられる前に、当事者同士がお互い自分に有利な裁判所で訴訟を行おうとする綱引きのような戦いが行われるわけです。

(1) 事物管轄権(subject matter jurisdiction)

裁判所がどのような内容(性質)の訴訟を扱えるかという権限のこと。連邦裁判所の事物管轄権は厳しく制限が加えられているので、多くの事件は州裁判所が扱うことになります。

憲法の定める連邦裁判所が独占的に扱うことができる裁判は、1)特許権、商標権、著作権に関する事件、2)海事事件、3)破産事件、4)連邦独禁法事件、5)大使等の外交使節に関する事件 、 6)合衆国が訴訟の当事者である事件です。

また、連邦は、複数の異なる州の市民の間に争われる訴訟(diversity jurisdiction)のうち請求金額が5万ドル以上の場合に州と競合して管轄権を持ち、それ以外の事件が州裁判所の
管轄となります。

(2) 領土管轄権(territorial jurisdiction)

裁判所が具体的にその当事者または訴訟の目的物に対して裁判を行う権限のことです。原告の立場からすれば被告をどの土地の裁判所に訴えられるかということになります。

所在地や住所がどこにあるか、財産がどこにあるか、どこで活動しているかなどの点が考慮され、管轄が判断されるわけです。