出版翻訳でご活躍、訳書50冊以上の辻早苗さん Flavor
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<第111回>  全5ページ
出産を機に実務翻訳の仕事を開始 タイ在住中に出版翻訳がメインに

濱野 :辻さんが翻訳に興味を持つようになったのは、いつ頃からだったのでしょうか?

:もともと本を読むのが大好きで、小学校中学年の頃にアルセーヌ・ルパンやシャーロック・ホームズに夢中になり、その後もずっと翻訳文学ばかり読んでいました。そのうちに英語にも興味を持つようになり、高校3年生のときにアメリカに1年留学し、大学は英語科に進学しました。

濱野 :まさに翻訳者になる運命だったのかもしれません。その頃から、すでに翻訳者を目指していたのですか?

:いえ。翻訳の世界に漠然とした憧れはありましたが、具体的に何か動き出すという考えにはまだ至らず、大学卒業後は精密機器メーカーに就職しました。出産を機にその会社を辞めたあと、在宅で英語を使った仕事がしたいと強く思うようになりました。そんなとき、実務翻訳者を募集する求人広告を新聞で見つけ、応募してトライアルを受けたところ、運よく翻訳者として登録していただけることに。それ以降、コンピューターのソフトウェアやハードウェアのマニュアル翻訳などを引き受けるようになりました。

濱野 :翻訳学習の経験がないのにトライアルに合格するというのは、すごい。翻訳の仕事に通用する英語力や日本語力をすでにお持ちだったということですね。その後、出版翻訳へとシフトする契機はなんだったのでしょうか?

:子育てをしながら実務翻訳を続けていたのですが、仕事が安定してくると、もともと好きだった小説の翻訳もやりたいと思うようになってきました。そう考えていた頃、『翻訳の世界』という雑誌をたまたま書店で見つけて定期購読をはじめ、出版翻訳の添削課題に応募するようになったんです。今で言えば、アメリアの定例トライアルのようなものですね。毎月のように投稿していたら、翻訳家の先生から勉強会に参加しないかとお声をかけいただいて……。月1回ほど開かれる勉強会に通っているうちに、ハーレクイン作品を扱う編集プロダクションのトライアルを受ける機会を得ました。

濱野 :その当時は、まだ実務翻訳と並行されていたのですか?

:はい、実務の仕事もまだ続けていました。ただ、ハーレクイン作品のお仕事をいただくようになって2年ほど経ち、やっと軌道に乗ってきたかなというときに、主人の転勤でタイに住むことに……

濱野 :いきなり海外ですか? それは大きな転機ですね。

:いまとはちがって、インターネットが普及しはじめたばかりの頃の話なので、ハーレクインの仕事の依頼が続くかどうか心配でした。実際にタイに住みはじめると、当初の予想とは裏腹に、実務の仕事のほうが減っていき、少しずつ出版にシフトしていきました。実務翻訳はやはりスピードが求められるので、海外在住というのが当時はハンデだったんですね。まだダイヤルアップ接続の時代で回線も安定せず、ファイルをやり取りするのも一苦労でしたから。5年ほどタイに住んでいるあいだに仕事は出版のみになり、帰国後も現在まで出版翻訳だけを続けています。

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