字幕も吹替えも。在宅フリーランスの映像翻訳者、高井清子さん Flavor
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<第125回>  全5ページ

高井 清子さん

第125回

映像翻訳の仕事とその魅力をたっぷり語っていただきました。 高井 清子さん

Kiyoko Takai
偶然のきっかけで映像翻訳の「現場」に

加賀山 :今日は映像翻訳でご活躍の高井清子さんにお越しいただきました。映像翻訳については私も知らないことばかりなので、楽しみです。まず、この業界に入られた経緯からうかがえますか?

高井 :もともと海外ドラマを見て、向こうの文化や服や食べ物に憧れたというのが原点です。
 高校時代から英語が好きだったのですが、大学卒業後に就職した住宅設備機器メーカーで輸入関連の仕事をしながら、もっと英語を勉強したいという気持ちになりまして、翻訳学校の夜学のクラスでノンフィクションを学びはじめました。
 その後さらに英語を学ぼうと思い、会社を辞めてイギリスに語学留学したあと、帰国して、英語を使う仕事を探していたときに、たまたま映画会社にいた大学時代の友人から、映画の脚本を訳してくれないかという声がかかったのです。それがきっかけでした。就職活動もしつつ、ときどきそうして仕事を引き受けているうちに、訳した脚本が80本を超えていました。

加賀山 :脚本というのは、吹替の台本とはちがうのですか?

高井 :ちがいます。ト書きや人物紹介なども入った制作台本のようなもので、映像がまだありません。海外の映画祭などでは、買い付けに行く業界関係者もすべての映画を見られないので、いい作品に目星をつけるために脚本をあらかじめ読んでおきたいということがあるのです。配給会社のなかには、翻訳者を映画祭の会場まで連れてきて、現地のホテルで訳させているようなところもありました。

加賀山 :脚本は字幕や吹替の「前段階」ということですね。

高井 :ですので、実際の映画では台詞が入れ替わったり、アドリブが入っていたりすることもあります。最終的に撮ったものを改めて書き起こし、それを字幕や吹替の原稿として使うわけです。脚本のほかの使い途として、字幕や吹替の仕事をする際に、制作背景がわかる資料として同時に渡されることもあります。
 映画祭だけではなく、日米同時公開でスケジュールが厳しいときなどにも、脚本の翻訳が求められます。フィルムの現物が届くまえに内容をつかんで、宣伝計画に使ったりするのですね。脚本を訳したことから、その映画の劇場用プログラムの翻訳を依頼されるケースもあります。

加賀山 :いまも脚本の仕事は続けられているのですか?

高井 :いまは脚本ではなく、ほとんどが字幕と吹替です。映画市場全体が洋画から邦画にシフトしていますから、脚本で洋画の買付を検討する機会も減ってきました。

加賀山 :とはいえ、海外ドラマなどには、まだかなりおもしろいものもありますよね。

高井 :たしかにいまはネット配信サービスが急成長していて、そちらの仕事が増えています。ネット配信だと、人気ドラマだけでなく少し変わった作品も流せますし、サービス開始時期でとにかくコンテンツの数をそろえなければいけませんから、字幕・吹替の要望が急増しています。

加賀山 :海外ドラマの字幕と吹替はそれぞれひとりのかたが担当されているのですか?

高井 :ひとりでやるのが理想ですけれど、むしろ別になることが多いですね。一方が先にできている場合には、それを見ながら用語を統一したりします。
 しかも最近のネット配信では短い時間でシリーズ丸ごと仕上げることもあり、昔ならたとえば、ふたりでそれぞれ奇数エピソードと偶数エピソードを訳したのに対し、いまは大勢で訳して、ひとりの人がエピソード2と10というふうに、各人の担当部分のあいだが広くあいたりします。途中の回も見なければストーリーについていけませんから、かならずしも仕事の効率はよくありません。
 いまは多くのドラマが、海外の放送に追いつくためにシーズンをさかのぼって訳している感じですから、そのうちこの状況も落ち着くのかもしれません。かつて韓流ドラマが大流行したときに似ています。

加賀山 :ああ、なるほど(じつは『冬ソナ』ファン)

高井 :当時、韓流ドラマやバラエティの字幕・吹替は、台本からの翻訳ではないことが多かったのです。韓国語の聞き取りができる人が番組を直接見て日本語に訳したものをチェックする仕事があって、私もよく依頼されました。韓国語はできませんので、日本語だけを読んで校正するのです。アメリアに登録したのがきっかけで入ってきた仕事だったと思います。

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