字幕も吹替えも。在宅フリーランスの映像翻訳者、高井清子さん Flavor
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<第125回>  全5ページ
視聴方法も表現方法も変わる

加賀山 :翻訳の学習はどのように?

高井 :脚本を何本か訳したときに、仕事の幅を字幕・吹替に広げるなら、そのやり方を学ばなければならないと思い、専門学校にかよいました。SST(字幕制作ソフト)の使い方もそこで学びました。自分でソフトを買ってインストールするのですが、さっそく韓国ドラマの日本語チェックの仕事があって、役に立ちました。

加賀山 :具体的にどういうふうに使うのですか?

高井 : 字幕の編集から、そのまえのハコを切ること(台詞やナレーションを1枚の字幕ごとに区切っていく作業)も含めて、昔は制作会社とのあいだで何度かやりとりして進めていたことが、すべて翻訳者の手元でできるようになったんです。

加賀山 :仕事が翻訳者に全部おりてきちゃったと……。

高井 :そうですね。昔は双方じっくり時間をかけて作業していたわけですが、いまはあっという間にデータが送られてきて、納期は短くなる一方です(笑)。とはいえ、翻訳中にいつでも字幕が映像に載った状態で確認できるのはとても助かりますね。
 先生方にはよく、スクリーンで実際に見て字幕がどう載っているか確かめなさいと言われたものですが、いまは視聴の方法も変わり、スクリーンではなく自宅のディスプレイで見ることも増えています。

加賀山 :番組の途中で止めて、用事がすんだあとで再開することもありますし。

高井 :視聴のしかたがそうなってきていますね。劇場で見ていると、途中で「あっ、あそこを見逃した、もう一度見たい」ということがありますけど、いまはその気になればいつでも見返せる。そういう意味では、昔のほうが真剣に見ていたかもしれません。一方で、いまはくり返し視聴できるため、皆さんのチェックも厳しくなっています。同じ作品で吹替の台詞と字幕のちがいも確認できますから。

加賀山 :出版翻訳でも、ときどきネットに厳しい声があがることもあります。

高井 :それで無難な方向にばかり進むと、ことばの豊かさがだんだん失われていく気がしますね。ネット配信の番組では、ギャグ満載のコメディや、いまどきのゲイカルチャーを扱ったようなものもあるのですが、その場かぎりではない作品に日本語のどういうことばを使って、どこまで表現するかというのは、むずかしい問題です。

加賀山 :翻訳に時代の流れをどう取り入れるかという問題でもありますね。

高井 :時代とともに、字幕の表示方法も変わってきています。昔は1行目をめいっぱい使って2行目に移りましたが、いまは単語の切りのいいところで切って次の行に移ることが増えています。慣れてくるとそちらのほうがいいような気もして。
 映画自体も昔は全般にゆったりしていましたが、いまは台詞の途中でもカットがどんどん切り替わるスタイルが多く、そうなると字幕も短くしなければついていけません。その反面、ネットの影響もあるのか、字幕の1行の文字数がかなり長いものを見かけることも増えてきました。字幕のスタイルがどう変わるかは、若い人たちがこれから洋画に何を求めるかにもよりますね。

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