恋愛映画、SF映画、戦争映画も手掛ける映像翻訳者、天野優未さん Flavor
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<第128回>  全3ページ
仕事のなかで学ぶ

加賀山 :お仕事はご自宅ですか?

天野 :そうですね。ほとんど家から出ない日もあります。

加賀山 :かかる時間は1本につき1週間とか2週間なんでしょうか。

天野 :作品によってぜんぜんちがいますね。乗りに乗ったときには100分でも3、4日でできることもありますし、120分が3週間かかることもあります。調べものの量もちがいますし、子供向けのアニメなどでは、たとえ大人がふつうにしゃべっているような場面でも、子供にもわかる日本語を使うことといった特別な要求があって時間がかかります。

加賀山 :吹き替えの仕事はなさらないのですか? 同じ映像分野なので、字幕と両方手がけるかたもいらっしゃいますが。

天野 :字幕だけです。文字数が決まっているところが私には合っています。吹き替えは映像と合わせるタイミングもむずかしいし、長さも比較的自由ですから、自分の裁量でいろいろ決められる人に向いてそうですね。あるいは、音楽とか演劇ができる人に。ポイントは、「文字」から「音」への変換ができることです。私にはそれはむずかしい。
 ただ、吹き替えの場合、声優さんや音響監督さんと話し合って、みんなで仕事を進めていくのは魅力だと思います。

加賀山 :スキルアップのために、ふだん勉強しているようなことはありますか?

天野 :特別な勉強の時間はありませんね。むしろ仕事中のほうが学ぼうという意識が高まっているので、仕事で1本でも多く訳したくなるほうです。ただ、いくらか余裕があるときには、映画を日本語と英語の両方の字幕で見たり、日本のアニメを英語の字幕で見たりします。
 漫画を読むのも参考になります。絵とことばの両方を使う点で、似たメディアですから。絵で説明できるところは、ことばで説明しなくてもいい、逆もしかりということで、字幕と共通するところがあります。

加賀山 :今後取り組みたい分野などありますか?

天野 :いまはドラマの仕事が多いんですが、ドキュメンタリーにも興味があります。キリスト教とか、歴史や考古学とか、人文学的、文化的な分野ですね。
 そういうドキュメンタリーの場合、字幕だけでは情報不足になることが多いのです。これからの可能性として、たとえばDVDの字幕に何種類かあって、選べるようになってもいいですね。従来の字幕だけでなく、説明つきの字幕とか。

加賀山 :便利そうですね。出版翻訳はいかがですか?

天野 :いまは字幕の仕事で手いっぱいです。ただ、今後機会があれば、書籍の翻訳もやってみたいなと思います。
 あと、映像翻訳会社でやっていたチェッカーの仕事ももう一度してみたい。とくに、日本のアニメを英語にした作品のチェックですね。日本の慣習や考え方がうまく英語に反映されているかどうか。字幕の場合、情報量に制限がありますから、言っていることはまちがいではないけれど、ほかの取り方もできて誤解されるという落とし穴があるのです。訳した人はうまく省略できた気になっていても、ほかの人が読むと別の意味に取られてしまう可能性もある、といった場合ですね。

加賀山 :訳した本人は気づきにくい。

天野 :そうなると、第三者から指摘を受けて初めてわかるというケースがほとんどです。ですので、韓国ドラマの字幕などでは、韓国語がわからない私がチェックしたほうが日本語に集中できて、いろいろ問題点を発見できたことがありました。私の字幕も、できれば英語を聞かないかたにチェックしてもらうほうがいい。英語を聞かずに、日本語の字幕だけで理解できることが大切なのです。

加賀山 :これから映像翻訳をめざすかたに、アドバイスをいただけないでしょうか。

天野 :いまはネットがありますから、元手がなくても仕事を探して始められますし、失敗したところで大きな損失はありません。最初の取っかかりを見つけるのは少したいへんですが、自分のポテンシャルを見出してくれる会社があれば、そこから仕事は広がっていきますから、あきらめずにいろいろな可能性を試してみてください。

■ネット社会に見事に適応して、自分の道を切り開いてこられたかただと思いました。みんな、わかってはいるけれどなかなかこんなふうに行動に移せないんですよね。失敗しても成功しても自分がしたことだから気持ちがいい、ときっぱりおっしゃっていたのが、とても印象的でした。

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