実務翻訳をフリーランス、翻訳会社、そして派遣で 守井悦子さん Flavor
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<第129回>  全4ページ
和訳、英訳のコツは?

加賀山 :ふだん翻訳の技術向上のためにしていることはありますか?

守井 :和訳に関しては、手本となる日本語を読む、とくに新聞などの簡潔な日本語を読むようにしています。記事を読んで、役に立つ表現をエクセルにまとめ、自分なりの用語集を作ったりしました。
 英訳に関しては、CNNなどのニュース番組や英字新聞などで拾った表現を書き留めておいて訳に応用したり、コロケーション(ある単語と別の単語のよく使われる組み合わせ)などを自分でまとめたりしています。あと、社内文書の日本語では「検討する」とか「対応する」ということばが頻繁に出てくるのですが、それらに対応する英語の表現はたくさんあるので、そういうものをできるだけ集めてリストにしておき、意味合いに応じて使い分けるよう心がけています。

加賀山 :たしかに、「検討する」は万能の日本語ですね。

守井 : 社内文書というのは、こう書いておけば関係者には通じるだろうという感じで書かれます。会議での発言がそのまま記録されていることもあります。翻訳担当の私たちはその会議には出ていないので、詳しい背景や経緯がわからない場合が多いのですが、英語にするとき主語を省くわけにはいかない――そういった苦労はありますね。もうわからないから目的語はitにしてしまえ、とか。(笑)

加賀山 :おもしろい。今後、取り組んでみたい分野はありますか?

守井 : 派遣は3年がひと区切りですので、次は別の業種を手がけてみたいという気持ちはあります。おそらく金融系にはなるでしょうが。この先もしばらく派遣で働くつもりです。

加賀山 :実務翻訳をこれからめざそうという人に、何かアドバイスをいただけますでしょうか。

守井 : 和訳の場合には、できた訳文をいったん寝かせて、あとで日本語だけ読み返してすっと読めるかどうかチェックすることですね。日本語の訳文だけを初めて読んだ人が、すんなり理解できるかどうか。

加賀山 :それが難しいんですよね。

守井 : そうなんです。自分が訳したものを何年か経って読むと、よくわからない、こうしたほうがよかった、と思うことがあります。

加賀山 :訳したそのときには、自分としては理解していますからね。英訳のほうはどうでしょう。

守井 : 英訳は始めてまだ数年ですので、大したことは言えませんが、一つ感じるのは日本語にとらわれないことだと思います。日本語の語順をそのまま英語に置き換えたのでは、ネイティブに伝わりにくい。原意から離れない程度に、語順や構文などを柔軟に変えていいと思います。ただ、フリーランスの場合には、社内文書の翻訳より直訳調が求められるという事情はあるかもしれません。その場合でも、原文に引っ張られないことが大切です。多少冒険したほうが、ネイティブが読んだときにすんなり頭に入ります。
 あと、和訳と英訳を両方すると、相乗効果がある気がします。どうしてネイティブがこの文章でこういう単語を使ったのだろうと思うことがときどきあったのですが、自分で英訳してみると、ああ、この単語がいちばんしっくり来るなということがわかるのです。たとえば、developという単語一つとっても、すぐに「開発する」とか「発達する」と訳しがちですが、ネイティブはたとえば、計画を「作る」とか「練り上げる」という意味で使っている。そういうことに気づきやすくなりますね。

■企業内の翻訳チームで働くかたのお話を聞いたのは初めてで、翻訳の仕事にもいろいろあるのだなと興味をそそられました。今後も多彩な分野で活躍してください。出版翻訳もどうぞお見限りなく。

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