【アメリア】Flavor of the Month 18 高崎 麻世さん
読み物
Flavor of the Month
<第18回>  全4ページ


第18回

仕事の経験がまったくない一主婦だった私 アメリアWebサイトの“字幕チェッカー適正テスト” をきっかけに夢の映像翻訳に一歩近づけました
  高崎 麻世さん
Asayo Takasaki


映像翻訳は画があるから簡単かな?甘い考えはすぐに崩れ去りました。


坂田:本日は、アメリアWebサイトの「コンテスト&テスト」コーナーにある字幕チェッカー適性テストをきっかけに、現在はACクリエイト株式会社で吹替翻訳のチェッカーの仕事をなさっている高崎麻世さんにお越しいただきました。こんにちは。よろしくお願いします。

高崎
:こんにちは。こちらこそよろしくお願いします。

坂田:お仕事の話は後で伺うとして、まずは翻訳を始めた経緯を教えてください。

高崎:大学は語学とは全く関係ありませんでしたし、海外に住んだこともありませんし、強いて言えば本が好きだったことが理由でしょうか。子どもの頃からよく本を読んでいて、高校時代には太宰治や遠藤周作など、日本文学を好んで読んでいました。でも、結婚してからは全く読まなくなって……。それが、下の子どもが幼稚園に入って時間ができた時に、たまたま入った書店で気になる本を見つけたんです。

坂田:気になる本というと?

高崎:今から10年ほど前のことです。パトリシア・コーンウェルの“検屍官シリーズ”がベストセラーになっていた頃で、書店でも目立つところに平積みにされていました。そこに書かれていた“検屍官”の「屍」という字が「死」ではなくて「しかばね」という字だったのがすごく印象的だったんです。

坂田:“検死官”ではなく“検屍官”ですね。

高崎:はい。それまでミステリーはほとんど読んだことがなかったのですが、それが妙に気になって、読んでみたくなったんです。

坂田:実際に読んでみたご感想は?

高崎:「こういう小説が世の中にあるんだ!」という感じでした。面白くて、そのシリーズは何冊か続けて読みました。文庫の最後にある解説を読んでいると、女探偵が活躍する小説がいろいろあるということが書いてあって ― サラ・パレツキーとかスー・グラフトンとか。そういう小説を芋づる式にどんどん読むようになったんです。

坂田:シリーズものは特に、読み始めると止まらないですよね。

高崎:こんなことを言うと、ミステリーファンに怒られるかもしれませんが、早川書房から出ているスー・グラフトンの“女探偵キンジー・ミルホーン・シリーズ”の背表紙が赤だったんですね。それで、「赤は女性作家のシリーズなのかも」と勝手に思い込んで、同じく赤い背表紙だったローレンス・ブロックの作品を次に読んだんです。「あぁ、男の探偵がいるんだー」って思いました。ミステリーに関しては、それほど無知だったんです……。こうしていろいろと読むうちに、ミステリーって面白いな、翻訳ものって面白いな、と思うようになって、何となく翻訳をやってみたいという気持ちが芽生えていったんだと思います。

坂田:実際に翻訳の勉強をはじめたのはいつ頃ですか?

高崎:それから3年後ぐらいでしょうか。子どもが小学校に入ったので、思い切って翻訳学校に通ってみようと決心して、資料を集めました。その中に、ローレンス・ブロック作品の訳者である田口俊樹先生の名前を見つけたんです。それがフェロー・アカデミーで、「ここに決めた!」って。

坂田:翻訳の勉強をしたいという思いを3年間温めて、いよいよスタートですね。

高崎:ただ、翻訳の勉強を始めようと決めたものの、何をやるかはまだ決めていなくて……。

坂田:ミステリーが面白かったので、文芸翻訳を目指されたのではないのですか?

高崎:本は好きでしたが、たくさん読むようになってまだ2〜3年でしたので、すぐに文芸翻訳とは思いませんでした。まず、結婚が早く、会社に勤めた経験がなかったので、ビジネス翻訳は無理だろうと切り捨てました。文芸か映像かで迷って、結局、映像に決めたのですが、これもまた映像翻訳の方に怒られるでしょうが、本を一冊訳すのは長くて難しそうだけど、映像のほうが画があるから簡単だろうと思って……。

坂田:では、映像のクラスに通いはじめたわけですね。

高崎:はい。1年目は初心者を対象にした安瀬高志先生のクラス、2年目、3年目は吹替翻訳中心の矢田尚先生のクラスに通いました。勉強を始めてから気付いたのですが、私、昔からテレビドラマが好きだったんですよね。「チャーリーズ・エンジェル」とか「スタスキー&ハッチ」、子どもと一緒に「フルハウス」なんかをよく見ていたんです。だから吹替翻訳には親しみが感じられて、勉強していてもとても面白かったです。

坂田:“比較的簡単かな”と思って映像翻訳のクラスを選んだとおっしゃいましたが、その点はいかがでしたか?

高崎:やはり、そんなに甘くはなかったです。1年目のクラスでは映画1本を丸1年掛けて、それも全部ではなく部分的に訳したのですが、通常、翻訳者の方は1〜2週間ぐらいで訳すわけですよね。なんて大変な仕事なんだろうと思いました。

坂田:私も定例トライアル<映像>にチャレンジしてみたことがありますが、映像翻訳の場合、セリフひとつひとつをきっちりと訳していくだけではダメで、前後を読むというか、ストーリー全体を見渡したうえで日本語のセリフを作っていかなければならないわけですよね。それが頭ではわかっていてもなかなかできない。どれくらい勉強したら習得できるものなんでしょう。高崎さんはいかがでしたか?

高崎:私は、いまだに習得していないような気がします。授業では矢田先生によくこんなことを言われました。「映画のシナリオというのは完全に計算されて作られている。このセリフに対してこう、次にこう、その次はこう、と、一見意味のないように思えるセリフでもすべて、ストーリーがうまく展開していくように緻密に計算されているのだから、ちゃんとそこまで考えて訳しなさい」「一カ所を見ないで、全体を見なさい」と。この言葉は今でもよく覚えています。
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