【アメリア】Flavor of the Month 21 ハーパー保子さん
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Flavor of the Month
<第21回>  全4ページ


プロの翻訳者として大事なこと それは、自己管理とコミュニケーション


坂田:いちばん最初の翻訳の仕事はどのような内容でしたか?

ハーパー
:初仕事は美術カタログの英和訳でした。英会話学校時代の上司の奥様が翻訳会社でコーディネーターをしておられて、こういう仕事があるからトライアルを受けてみないかと声をかけてくださいました。

坂田:初仕事はうまくいきましたか?

ハーパー:初仕事の美術カタログについては、今でも思い出すと冷や汗が出ます。いったん納品したものの、段落の処理が原文に対応していなくてやり直しになったり、「不明点はのちほどお知らせします」と連絡したまま、なぜか明日でいいだろうと勝手に決めて出かけてしまい、「どうなりましたか!?」とメールが来たり……。どうしてそんなことをしたのか、ほんとに恥ずかしい限りです。訳文のできがどうとかいうよりも、仕事をする上での心構えとか常識が欠如していました。

坂田:今となっては当たり前のことでも、最初はミスをするものなんですね。

ハーパー:これを書くと仕事が来なくなってしまいそうでこわいのですが、今までで最悪の失敗は今年の前半、自己管理がまったくできなかったことです。その時期はたまたま仕事の依頼が重なって、本来なら混乱しないようにしっかりスケジュール管理をするべきだったのに、来るものは拒まずで全部抱えこんでしまい、スケジュールを埋めることが快感になってしまったんです。当然、もっと混乱してしまいました。そして、その混乱に拍車をかけたのが健康管理の失敗です。昨年の秋から約1年間は杉の木に囲まれた町に住んでいたのですが、たかをくくって持病の花粉症の予防を怠ったせいで、春先に延べ1カ月ほど寝こむことになりました。半年間、締め切りに間に合わないかとヒヤヒヤしたり、校正原稿が戻ってきたら訳し洩れがあったり、請求書まで先方の指示が守れていなかったり、散々でした。ある日ふと我に返り、今は余裕をもたせたスケジュールで一つひとつの仕事を丁寧にこなしています。念のため。

坂田:では、そうした失敗を経験したことのあるハーパーさんにお尋ねします。フリーランスで翻訳の仕事をするときに、翻訳に関すること以外に大切なことは何ですか?

ハーパー:なにしろ大失敗のあとですから、自己管理が何よりも大事だと思っています。それと、最近は精神面の健康管理も大切だと感じるようになりました。以前は急ぎの仕事だったりすると特に、煮詰まってきて進まなくなってもとにかくパソコンにへばりついていました。今はそういうときには1時間中断して散歩に出たりしています。そうすると、その1時間は充分取り戻せるぐらい効率が上がるものです。それから、学習中にはA4用紙数枚の原文を何週間もかけて練り上げ、自分なりの100点レベルに仕上げて悦に入っていましたが、仕事だとそういうわけにはいきません。時間の制約があるなかで、70点、80点でも見切りをつけて納品しなければなりませんから、やはり精神的にタフでなければと思います。今はまだ、後ろ髪ひかれながら泣く泣く手放してしばらくメソメソ、という感じで、これからの課題ですね。

坂田:自宅で仕事をする人にとって、自己管理はfいちばん大事で、かつ難しい課題でしょうね。

ハーパー:もう一つ、翻訳は基本的には一人でコツコツやる仕事ですが、一つの仕事が終わるまでにはけっこうたくさんの人とかかわりますので、コミュニケーションがきちんととれるように心がけています。自分の知識や調査力には限界がありますから、翻訳者仲間や友人知人に助けを求めるのはしょっちゅうですし、自分もできるだけ役に立ちたいと思っています。出版社や翻訳会社の担当者にも、なるべくじゃまにならないように気をつけながら、疑問点を相談したり経過報告を入れたりしています。もちろん一方通行ではいい仕事はできないので、先方もきちんとコミュニケーションをとってくださる方だと嬉しいです。「この仕事はこういうところをポイントにしてほしい」という指示がいつも明確で、ご自分が洋書を発掘しているサイトを楽しそうに教えてくださったりする編集者がおられるのですが、そういう方のまわりには「この人のためならちょっと無理してもがんばろう」という翻訳者がたくさんいるのではないかと思います。あと、在宅翻訳者は家族との関係が仕事のやりやすさに影響してくるので、翻訳という仕事を理解してもらうよう、こちらも日ごろのコミュニケーションが大切だと思います。

坂田:では、最後の質問です。今後、翻訳者としてどのように仕事をしていきたいですか。

ハーパー:厳密に実務翻訳といえるかどうかわかりませんが、出版以外の仕事も声をかけていただいていて、来年はもう少しそちらの比率を増やしたいです。これからゲームの企画書やプレスリリースの仕事をいただく予定なので、まずはその方面の勉強から始めます。『バイオハザード』など気に入ったゲームは英語のセリフを覚えてしまうほどやりこむのですが、ゲーム全般に詳しいわけではないので。仕事のじゃまになるからと、ずーっと我慢していたプレイステーション2を買う口実がついにできてしまいました。

坂田:新しい分野にチャレンジですね。

ハーパー:出版のほうでは、この1年でおもに健康関連、スピリチュアル関連の実用書をやらせていただき、今後もさまざまなジャンルの実用書を軸にしていきたいと考えています。また、俳優や監督の自伝といった映画関係の本、自己啓発書などの仕事も、今後2、3年で増やしていければと思っています。もし仕事が途切れることがあっても、持ちこみ企画や【Biz-Amelia】の活用に時間をまわせると思えば、今度は焦ることはなさそうです。

 
    ■目標に向かって一歩一歩着実にステップを上がってきたハーパー保子さん。今回のインタビューで私が感じたのは、行き詰まったとき、躓いたときに、立ち止まって自分自身を振り返ることの大切さです。ハーパーさんは決して傲ることなく、いつも謙虚にみずからを振り返ることができたからこそ、上手に軌道修正ができて、その結果、目標を達成することができたのではないでしょうか。
今後、ますますのご活躍を期待しています!
 

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