【アメリア】Flavor of the Month 52 岩木 貴子さん
読み物
Flavor of the Month
<第52回>  全5ページ


得意なはずの国語。でも自然な日本語が書けない・・・・・・

坂田:4年間の留学を終え、日本に戻ってきて、どうしましたか?

岩木:日本に帰ってきて、いざどうすれば翻訳家になれるんだろうと考えたときに、私は海外で英文学は学んだけれども、翻訳の勉強は一切していないという初歩的なことにはたと気づき……。それからようやく、いろんな雑誌を買ってきて読んだのですが、やはり翻訳学校に行かなければと思いました。でも、その時点で東京ではなく長野に来てしまっていたので、「しまった! 長野には翻訳学校がないぞ!」と。なんだか間違いの連続ですね(笑)。

坂田:学校に通いたいけれど、通うのは難しい。それでどうされたのですか?

岩木:通信講座しかないなと思いました。最初に受けた通信講座が、半年間勉強して優秀な成績で終了すれば翻訳家デビューできる、とうたったもので、「なんて素晴らしい講座なんだ! よし、これを半年やってデビューしよう」と考えました。またしても、まったくの勘違いです。そんなに簡単なわけがないのに。半年やっても優秀な成績を修めて華麗なデビューを飾るなんてことはできませんでした。

坂田:4年間留学して英語力はついているだろうし、翻訳の勉強を少しすれば大丈夫だと思ったのですね。初めての翻訳の勉強はいかがでしたか?

岩木:留学から帰ってきてすぐに受けたコースで、「あぁ、英語のままじゃいけないんだ」ということに気づきました。すごく原文に引っ張られてしまって、訳文が日本語として不自然だったのですが、そのことに自分では気づいていなかったのです。小さい頃からずっと国語は得意科目だったので、日本語は大丈夫だろうと思っていたんです。英文学さえ勉強すれば翻訳家になれると。それでアイルランドで英文学を勉強して帰ってきたわけですが、今度は肝心要の日本語がおかしくなってしまっていることが、翻訳の勉強を始めてようやくわかりました。大誤算でした。

坂田:留学中は、すべて英語で読んで、考えていたわけですよね。

岩木:はい。頭が切り替わっていなかったんでしょうね。私の訳文は訳文とも呼べないようなものでした。それに気づくだけは気づいたのですが、とにかく言葉が思い出せないので、改善しようにも何をしたらよいやら、まったく五里霧中でした。それに、最初に受けた通信講座では、赤字が入って返ってきた訳文に、「こう訳さなければいけない」というようなコメントがあって、それに納得がいかなかったんです。質問票を送ったこともありますが、納得いくまで何度もやりとりするわけにはいかず。その頃は、そんなものなのかなと思っていましたが……。その後、さまざまな講座を受けて、翻訳にこう訳さなければならないというルールはない、ということがわかってきました。

坂田:翻訳講座は、かなりの数を受けたのですか?

岩木:はい。デビューを目指した最初の講座で目論見が外れて、それでも翻訳家になる夢は諦める気になれず、また別の通信講座を受講しました。それも確か、よい成績を修めればデビューできる、という宣伝文句のものだったと思います。その後も、通信講座をいくつも受け続けました。英訳のコースとか、分野を絞ったコースとか。約2年半で、通算6講座受けて、その後、通学講座の受講を始めました。

坂田:その間、お仕事もなさったのですか?

岩木:はい、ラッキーなことに、通信講座を受けていた会社から、英訳のお仕事を少しずついただけるようになりました。最初は文芸翻訳しか考えていなかったので、そういう講座しか受けていなかったのですが、途中から早く仕事につなげるために実務系の講座も受講するようになり、実務の仕事も始めることができました。

坂田:そうですか。それはよかったですね。お仕事も少し始めて、通信講座を2年半受け、その後、通学講座に切り替えたのはどうしてですか?

岩木:フェロー・アカデミーのマスターコース『ロマンス』を受講したのですが、最後に東京で直接講義があって、それに参加したんです。初めて人前で自分の訳文を読んだんですが、それが、なんというか新鮮な出来事で。穴があったら入りたかったです。日頃から自分で音読していればよかったんでしょうが、私はそうしたことがなくて、この時が初めてでした。自分の訳文を他のかたがたの訳文と客観的に比較することの重要性を思い知りました。それから、ほんの一時間あまりの授業でしたが、先生から受けとる情報量が格段に違うと感じました。通信は、受けたい講座は受け尽くしたという感もありましたし、思い切って通学講座を受けることにしました。

坂田:現在は、田口俊樹先生のミステリーゼミを受講されているんですよね。

岩木:はい。2年目になります。どの通学講座を受けようかと迷ったときに、田口先生のゼミの紹介文に「翻訳にルールはない」とあったんです。以前、通信講座で、「こう訳しなさい」とコメントされて憤慨したことがあったので、これはいいなと思って決めました。授業中にとても活発に意見交換がされるのですが、先生が一生徒の言うことでも真剣に耳を傾けて、ちゃんと検討してくださるので、それが本当にありがたいです。

坂田:では今は月に2回長野から通っているのですね。

岩木:はい、高速バスで通っています。授業のときは2日間仕事ができなくなるので、負担にはなるのですが、2年間1人で勉強してきた私にとっては、仲間がいるというのが嬉しくて、授業の後の飲み会は皆勤賞なんです。あと、言葉にうるさい人々と日本語で会話するというのもひさしぶりのことで、そういう場は私にとってここしかなかったので、楽しくてしょうがなかったです。
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