【アメリア】Flavor of the Month 85 崔 樹連さん
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Flavor of the Month
<第85回>  全5ページ


複雑に絡み合う言語とアイデンティティー。「どっちつかずで、いつも葛藤はあります」

岡田 :バイリンガルの崔さんを培った環境についてですが、子ども時代、ご家庭ではすべて日本語で会話を?

:そうですね。日本の幼稚園へ通いましたから小学校に行くまで韓国語はほとんど知りませんでした。以降12年間は学校では英語と日本語の授業以外、すべて韓国語です。学校では日本語で会話をしてはいけない規則なので、日本語を話すと叱られるんです。

岡田 :そうすると小学校入学当時はかなり戸惑いもあったのでは?

:子どもって意外とすんなりと受け入れられるんですよね。先生もはじめは日本語を少し使いながら徐々に徐々に……だったと思います。周囲もみんな同じような環境の子たちですから、すぐに慣れました。

岡田 :学校だけで完全に語学を修得するとなると、相当勉強しないといけなかったのでは?

:話すことと書くことは違いますから、どちらの言語でもライティングは苦労しました。学校にいたときは韓国語のほうができたかもしれません。でも離れてしまうとどんどん忘れますから、卒業生の中には韓国語がだいぶ錆びてしまった人も少なからずいます。

岡田 :やはり言葉は環境に大いに左右されますね。

:そうですね。うちの子どもは日本の学校に通いましたから韓国語は話せないんです。それでも親の影響で娘が韓国に興味を持ち、交換留学をする予定ですが……。私たちにしても在日3世で、朝鮮学校を出ても日本語も韓国語も中途半端になってしまうことがある。うちの故郷は釜山なんですが、韓国に行くと私たちは外国人なんです。身なりも顔も日本的になっているし、言葉も完全なネイティブとは言えない。そういう意味ではどっちつかずで、いつも葛藤はあります。日本語にしても、翻訳学校に通っている頃、周囲の日本人の桁違いに上手な翻訳に感心することがしょっちゅうでした。

岡田 :なるほど、言葉はアイデンティティーを支配しますから、一筋縄ではいかない深い問題をはらみますね。でも崔さんはそうした日本人翻訳者の方たちから韓国語の意味を聞かれることも多いのでは?

:たしかに質問されることはよくありますね。韓国語って「なぜそこでそういう展開に?」ということがよくあるんです。突然ことわざやたとえが出てくるような突拍子もない展開(笑)。慣れていないとなんのことやらですが、そこをうまくつなぐのが腕の見せ所なんでしょうね。今はなんとか要領やコツも得て、なんとなく先輩たちについていっている感じです。

岡田 :日常会話でも意外な展開のある会話なんですか?

:日常では顕著ではないけれど、コメディではゼッタイ、というほどですね。クセのあるドラマの「クセ」を理解して、登場人物にうまくキャラクター付けをしないといけない。文字通りに訳したらアウトですから。

岡田 :そこのところをクリアされて5、6年ですか?

:いえいえ、まだまだ自信ないですよ。まだまだこれから、もっと勉強しないと。

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