【アメリア】Flavor of the Month 91 藤田 弘美さん
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Flavor of the Month
<第91回>  全5ページ


人の温かさを感じる仕事、それがメディカル翻訳!

濱野 :かくして、5年ほど前からプロとして順調にご活躍ということですね。ところで、数年前には全滅だった翻訳会社のトライアルが、2010年には見事に合格。もちろん、学習効果もあると思いますが、この期間にご自身がいちばん変わった点、または転機はなんだと思いますか? 

藤田 :長い長い子育ても先が見え始め、自分の年齢を自覚したことでしょうか。泥んこの野球着の洗濯と、5時起きの弁当作りはありましたが、翻訳に対する気合は以前とはちがいました。振り返ってみて、自分の力を過信していたころは必ず失敗が訪れていたような気がします(笑)。5年前は、「もしかしたら合格するかも」などという思いは微塵もありませんでした。ただ、トライアルには全力を尽くし、これ以上できないというところまでやった感がありました。

濱野 :「これ以上できないところまでやった」と言い切れるのは、すさまじい努力あってのことだと思います。ご友人の一言から始まった藤田さんの翻訳人生ですが、学習や仕事を続けられた要因はなんだったのでしょうか? 途中であきらめようと考えたことはなかったのでしょうか?

1年に一度は息抜きで訪れる長野

藤田 :根底には、東京時代に出会った友人から翻訳の話を聞いたときの“ビビビ感”があるのだと思います。私は単純なので(笑)、あの“ビビビ感”を信じたからこそ、これまでやれてこられたような気がします。また、看護師の資格がありながら、それを活かせていませんでした。ですから、看護学校で学んだ医学知識を翻訳という形で活かせたらいいな、と。そんな思いがあったのも確かです。

濱野 :直感をそこまで信じられたのは、きっと運命だったんでしょうね。藤田さんを翻訳の世界へと導いたそのご友人とは、まだ交友は続いているんですか?

藤田 :彼女とはメールと年賀状での近況報告を細々と続けていましたが、つい最近、再会を果たしました! いま、彼女は通訳者として忙しく活躍しています。お互い刺激し合い、高め合えるような存在――まさに「腹心の友」ですね。

濱野 :刺激し合える仲間、いいですね。えてして翻訳という仕事は、孤独になりがちですし……。ではずばり、藤田さんにとってメディカル翻訳の魅力とはなんでしょう? 

藤田 :ずばり、おもしろい!! 医学の対象は“人”です。メディカルの翻訳をしていると、患者の治療のために力を注ぐ医師や医療従事者の姿、患者の苦しさや喜びを感じることがあります。たとえば、新生児集中治療室(NICU)での疼痛のケアについての講演内容の記事を翻訳したときのことです。疼痛のメカニズム、疼痛に関する論文からの引用、精神面に及ぼす影響など専門的な内容が延々と続くのですが、終盤に差しかかると、言葉一つひとつに新生児への講演者の愛情が満ち溢れているのが感じられるんです。訳しながら、涙が止まりませんでした。
 また、これとは別のときですが、NICUの新生児において、採尿時の痛みから解放するために軽いタッピングやマッサージによる一連の刺激を与えるという内容があって、医療従事者の愛情を感じ、ほのぼのとした気持ちになって訳したこともありました。翻訳の学習を始めたころも、メディカル翻訳には温かさを感じると思っていたのですが、その気持ちはいまも同じです。

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