【アメリア】みんなで作るインタビュー9・中島英述さん LLC紹介編
 
  みんなで作るインタビュー


 [紹介編]
読み物  
・中島英述さんへの質問を送ってくださったみなさん、ありがとうございました!みなさんからの質問にお答えいただいた「インタビュー編」です。








 第9回 中島英述さん
 
<第9回> 紹介編インタビュー編   全2ページ


初めまして。私は訳詞家を目指す31歳の主婦です。よく、訳詞家になるには音楽関係の仕事をしている方やコネをつかって訳詞をやっていると聞きますが、やっぱり初めは音楽会社に就職しないと訳詞家になれないのでしょうか? また、私は音楽雑誌の翻訳家も目指しているのですが、訳詞家をしながら音楽雑誌の翻訳家になるのは難しいでしょうか? 最後に、特定のartistの訳詞(interview)をするためには、どうしたら良いのでしょうか? 教えていただけたら嬉しいです。(miyukiramaさん)

音楽関係の仕事をする必要はまったくありません。仕事の取り方は人それぞれだと思いますが、僕の考え方では、基本的に「当って砕けろ」です(笑)。レコード会社も「いい訳」を継続的にしっかりと納品してくれる人なら、けっこうチャンスを与えてくれます。翻訳家になるのも、こういう道筋を通ったからなれる、というものではないように思います。逆に「なる!」と心に決めて、そのためにどうすればいいか、という考え方こそが必要ではないでしょうか。今すぐ自分の好きなアーティストの所属するレコード会社に電話して、「訳詞をやっているものです。一度、仕事をください!」と直訴しましょう。翻訳の実力以外にも、そういう度胸が必要です。

ただ、度胸でこじ開けた穴も、仕事の質が悪ければすぐに閉じてしまいます。そこが勝負です。僕もそんな経験を何度もしました。訳詞と音楽雑誌の翻訳を同時に行うことは可能ですし、素晴らしいことです。特定のアーティストの訳やインタビューも、実力次第で可能です。コネのことを心配する必要はありません。みなさんが考えられているより、門戸は開かれていると思いますよ。ただ、仕事を依頼する側の立場で考えた時、自分に依頼する理由があるか? と自問してみるといいでしょう。僕も、いつもそんなことを考えています。お互い、頑張りましょう。


現在でもご自分で音楽活動をなさっているということですが、お仕事とはどのように両立させているのでしょうか。(うずまきさん )

音楽のスケジュールというのは、通常、数カ月前に決まります。従って、翻訳はそれ以外の時間にやっています。稀に重なってしまうこともありますが、その場合はリハーサルを欠席する、あるいは現場のパソコンで仕事するなど、さまざまな緊急手段で乗り切っています。僕のようなフリーランスの場合、仕事をしないでぶらぶらしている時間を徹底的に減らすことが何より大切になります。

したがって、忙しければ忙しいほど、嬉々として活動しています。不思議ですが、時間があるからといっていろいろなことができるかというと、そうでもありません。忙しい時ほど、空いた時間を使ってさまざまなことが効率的に行えたりします。翻訳と音楽の組み合わせが、今少しずついいものになっていると感じています。

英語はライナーノーツを読みながら習得されたのですか?(musashiさん)

独学です。『紹介編』にもありますが、中学や高校の文法問題集をやり直すことは効果がありました。あとは、近所に住んでいるアメリカ人やオーストラリア人と友達になって、訳詞のチェックをしてもらったり、会話を教わったりしました。それから、インターネットで友達を作り、彼らと文通しながら、表現を直してもらいました。特別な英語教育を受けていない僕のような人間でも、独学である程度までは話し、読み、書くことはできるようになります。


ただし、それだけでは英語の中に「生活」がありません。特に訳詞の場合、言葉が作者の生活や環境からうまれる場合が多いので、やはり海外での生活体験は大きな武器になると思います。
好きな内容の文章なら、夢中になれますよね。その意味で、ライナーノーツはいい教科書でした。それは今も、変わりません。

 
思い出に残る訳詞やエピソードはありますか?(雅さん)


訳詞ではなく、歌詞の話になります。
僕はドクター・フィールグッドというイギリスのバンドが大好きです。彼らのファースト・アルバム「Down By The Jetty」の中に「All Through The City」という曲があります。内容は、彼女を探してずっと街中を駆け回る、というものなのですが、初めて作者であるウィルコ・ジョンソンが育った街を訪れた時、歌詞の内容がぶわっと僕の中にイメージとして広がりました。歌詞に出て来るJettyというのは桟橋のことですが、そこにはテムズ河に突き出した世界一長い桟橋がありました


「街中捜し回って、朝方、この桟橋の先で彼女を見つけたんだ……」それがこの桟橋なんだな、と思うと、何十年も前にこの街で活動していた彼らの姿をはっきり見ることができたような気がしました。歌詞は作者の視線であり、心の窓です。窓自体について訳すのではなく、その向こうの景色を表現しなきゃいけないんだな、と桟橋の上で実感しました。


実務翻訳と両方なさっているということですが、音楽関係の翻訳だけに絞ることは難しいですか? 中島さんご自身は、いずれは音楽関係の翻訳だけでと考えておられるのですか?(サムライさん)


翻訳に関して、分野を限定するつもりはありません。得意分野が音楽で、その分野での知識や経験が多少あるため、中心になっているのだと思います。しかし、残念ながら、今までに音楽関連の翻訳だけで生活されている方にお会いしたことがありません。みなさん、他の分野、あるいは他の仕事をお持ちです。僕の場合、以前に化学メーカーに勤務していたことから、化学に関する翻訳を行うことがあります。しかし、現実問題として知識や経験の足りなさを実感しています。


どの分野でも同じですが、日進月歩の業界の中で翻訳を行うためには、日頃からの情報収集や勉強が欠かせません。翻訳自体の勉強というよりも、業界の動向や最新技術にアンテナを張っておく必要があります。また実務翻訳と歌詞の対訳は、まったく違う種類の翻訳です。前者には社会に貢献しているとう実感があり、後者にはものを生み出す魅力があります。知識欲や興味が自分を先導してくれる時、その行く先に、自分のテリトリーがあると思っています。


訳詞にとりかかる前に、どれ位その音楽を聞き込むのですか?(花椒さん)
基本的に、レコード会社からは音のサンプルをもらい、取りあえず数回は聴き通します。そこで、例えば一人称をどう訳すかを決めるなど方針を固めて、音と歌詞のイメージに重ねながら訳していきます。この部分は、まるで自分が歌詞を作っているような気分で、もっともわくわくするところです。
そして出来上がったらしばらく時間を置いて、あとで曲を聴きながら対訳を読みます。そこで自分が英文歌詞とサウンドによって得たイメージや感触が、対訳によってしっかり表現されているかどうかを確認します。聞き込むというより、積極的に感じる、といった方が事実に近いでしょう。そして、その感じ方が、訳者にとって勝負になると思っています。


 
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