【アメリア】体育会系翻訳者の仕事部屋

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体育会系翻訳者の仕事部屋

 
連載第1回 カラダにいい翻訳

翻訳という職業はカラダに悪いことだらけです。じーっと座りつづけ(腰に悪い)、横文字とパソコンの液晶画面を交互に見(目に悪い)、締切が迫るとストレスがたまって食べまくり(胃に悪い)、徹夜になるうえ外出しないので顔も洗わず(肌に悪い)、キーボードを打ちまくり(肩と手に悪い)、人にあまり会わないのでつい辛辣な物言いをしてしまいます(口まで悪くなる)。

ここまでカラダに悪いことをしまくる職業なのですから、翻訳家はなべて青白い顔をし、腰をかばってよろよろと歩き、タバコを吸って咳込んだりする人が多いのではないかと思っていました。あにはからんや、活躍なさっている翻訳家の方々はお会いするといつもお元気そうで、お肌もつやつや、なかには引き締まったナイスバディ(死語)に日焼けまでしている人がいらっしゃいます。みなさん口をそろえて「忙しくてほとんど眠っていない」「きのうは30時間座りっぱなしだった」「タバコの吸いすぎで喉が痛い」なんて(どこか嬉しそうに)おっしゃりながら、通勤電車のサラリーマンよりずっとはつらつと健康そうなのです。

つねづね不思議に思っていたので、そのすばらしい健康体の理由を食い下がってお聞きしたところ、そう、やはりみなさんちゃんと運動や食事に気を遣い、趣味を持つなど息抜きがうまいのです! 仕事のできる人は健康管理もちゃんとできるわけなのね、と納得。翻訳を始めて以来、腰痛、肩凝り、腱鞘炎、胃炎など職業病をすべて経験した私は、それを聞いて40歳を過ぎてから運動を始めました。

でも自慢じゃないが、体育の成績がずーっと10点満点で7 だった私です。右向け右、と号令をかけられて一人だけ後ろを向いちゃう人です。いきなりスポーツジムの会員などになったら、3日後には筋を痛めて寝込むのが関の山です。時間的にあくまで仕事に差し障りなくできて、できるだけお金をかけず、しかも翻訳という職業にふさわしいカラダづくりができる運動……というのですぐ近くの区営プールで毎週開催されている水泳教室に入りました。いまから7年前のことです。

泳いでいるのは平均年齢50歳くらいのおばさんばかり。40代はじめの私なんて若手です。ところが楽勝だとタカをくくったのは大間違い。初日に2時間で1500メートル近く泳がされ、終わったあとは足が上がらないほどふらふらになりました。もちろん帰宅後にはパソコンを立ち上げる元気さえありません。ほかのおばさんたちは教室の帰りにパートに行ったりするというのに。

それまで私は能力はほどほどでも体力だけはあると信じ、多少の無理なスケジュールを言われても「3日くらい寝ないでも平気ですから大丈夫ですよ!」なんて胸をたたいて引き受けていました。実際30代まではそんな無理もきき、不遜にも「体力系翻訳家」を名乗っていたのです。でもおばさん水泳教室で味わった屈辱で、私は自分がもう若くないこと、しかも同じ年齢の人に比べても体力がないことを知りました。

やめようかどうしようか散々迷いましたが、当時締切が迫ると肩凝りと頭痛に悩まされていたこともあり(いま思うと多分に心因性)、また半年分の会費を納めてしまったこともあって、その水泳教室には通いつづけました。すると半年、1年とつづけるうちにあちこちの痛みがやわらいでいったのです。と同時に、健康に気を配って仕事をするようになり、それまでのように5時間ぶっとおしでキーボードを打ちつづけるなんてことはやめ、2時間やってちょっと休憩を入れたほうがずっと効率がいいこともわかってきました。

そしていま、水泳だけでなくヨガやサッカーまで手を広げています。夜6時になるとパソコンの電源を落とし、いそいそと水着やジャージーやボールを持って自転車で15分くらいのところにあるプールや体育館やグラウンドに出かけます。仕事帰りのサラリーマンや学生たちにまじって汗を流す2 時間少しは私にとって貴重な息抜きです。

というわけで、こんな「体育会系翻訳家」がどんなふうに仕事をしているかをこれから12回にわたってお話ししていきたいと思います。電子辞書を極力使わず、ランダムハウスを床に置いて単語を引くたびに片手で持ち上げてダンベル代わりにしましょう、とかそういう提案は(もちろん)しません。でも2004年が終わるころ、なんだ、翻訳はカラダにいい職業じゃないか、と読者のみなさんに思っていただけるような連載にできたら本望です。    

 
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