【アメリア】対談の部屋3-2『子どもの本の歴史』の「書誌情報」秘話
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対談の部屋  
<第3回>   全4ページ

第3回 『子どもの本の歴史』出版記念、共訳者特別対談
2.『子どもの本の歴史』の「書誌情報」秘話


田中:最初にざっと拝見したとき、巻末の書誌情報の詳しさにびっくりしました。調べるのは、ご苦労も多かったと思いますが。

こだまさくま:そうなんです。巻末の書誌情報は福本さんが担当してくださって、そこは福本さんのご苦労の賜物なんですよ。

田中:特に原書に邦訳が出ているかどうかを調べるのは、まとまった資料はどこにもないので大変だったのではないですか? 他の研究書などでは、本文に出てきた本について、原書名を訳者が便宜上直訳したり、原語のまま載せていたりすることも多いですよね。

福本:苦労してわざわざ書誌情報に邦訳の書名をなるべくつけたのには、理由がふたつあります。ひとつは、この本を翻訳する前から、ある程度の資料を持っていたということ。2000年5月に上野にできた国際子ども図書館で、「子どもの本・翻訳の歩み展」というオープニングの展覧会が催されました。その展覧会の中味は、JBBY(日本国際児童図書評議会)の会員で構成された準備委員会で長い時間をかけて積み上げてきた研究がもとになっていまして、私はその準備委員会の一員として、イギリスの担当をしていたんです。明治期から日本で翻訳された本についてのデータを集めていたんですね。同時に担当外のアメリカの本にも興味があって見ていました。そんなわけで、英米の古い本に関しては、資料をある程度持っていたわけです。
邦訳の書名をつけるようにしたもうひとつの理由は、それがついていない研究書の使い勝手の悪さにいつも不満を覚えていたからです。原書にはタイトル索引がついていなかったのですが、それでは本当に使いにくい本になってしまうと思ったので、まず出てくる書名、雑誌名、新聞名を全部のせた索引を作りました。それにさらに邦訳書のデータをつけたのは、特にこの本は、これから勉強したい人たちに使ってほしいという思いがありましたから、やはり出てきた本は読んでほしいと思ったからなんです。いくら研究書を読んでも、そこに出てくる本を実際に読まなければ何にもならないと思いますし。だから、邦訳の書名の索引は絶対に必要だなと思ったんです。
最初はこんなにたくさんあるとは思っていなくて(笑)、気楽に構えていたんですよね。それで、文中に出てくる書名も、こちらで訳したものではなく、邦訳の出ているものは、そのタイトルを使うことに決めて。邦題が原書の直訳とはまったく違うものになっている場合も多いですからね。でもやりはじめてみたら、文中に出てくるタイトルの数があまりにも多くて、自分の持っている資料だけではとてもカバーできなかったんです。図書館やインターネットでかなり調べましたね。検索するといっても、著者から探したり、出版社から探したり、こんな題で訳されているのじゃないか、などとだいたいの見当をつけて探すことも多かった。1つ探している最中に偶然他の本の訳書を見つけた、なんてこともありましたね。まだもれているところもあるかもしれませんが、時間の許す限り調べたものを載せました。

こだま:2001年の受賞作品の情報まで載せましたしね。

福本:古い作品に関しては、図書館のWebの検索では、それが何の原書の訳かということが出ていないものがあって困りました。それから、原書と同じ形で訳されることが多くなったのはわりと最近のことで、ちょっと前までは原書の一部の翻訳だったり、短編集の中の1篇だけを取り上げて1冊の本として訳したものも多かったんです。でも、訳されているものがある場合はなるべくその情報を載せたかったので、気がついたものは原書の一部でも、そのことがわかるように書いておきました。もっと時間があれば、さらに完璧に近づけたんですけれど……。

さくま:私は自分の担当箇所のそういった書誌情報関連は、人を頼んで調べてもらいました。そのデータで足りない部分を自分でも補って、さらにそれを福本さんにチェックしていただいて。本当に福本さんの力は大きかったです。それから、邦訳の書名。これは必要ですよね。編集者時代、いい本をみつけて、その本が翻訳されているかどうかを調べなければいけないとき、どこを調べてもなかなかわからなくて困った経験があります。邦訳の書名をつけたことで、この本は、編集者なんかにもとても役に立つものになったと思います。

福本:最初は、翻訳作業に取り掛かる前に私が書誌情報のデータをみんなに渡す、と言っていたのに、調べ始めたら、やってもやっても数がありすぎて終わらなくて(笑)。苦労しました。ところで、ここでひとつ宣伝をさせてください。昨年の国際子ども図書館のオープニングにやった「翻訳の歩み展」で、図録を作ったんですね。けれども、展覧会の図録というものはどんなによく作っても、ある時期を過ぎると世の中から消えてしまう。それに、図録には展覧会に展示できるものしか載せられないので、6年ほどかけてJBBYの準備委員会で調べたデータの多くがまだ活かしきれていないという面もありました。せっかく調べたものなので、みなさんに知ってほしいという思いもあって、『子どもの本の歴史』を出した出版社でもある柏書房から、2002年4月に『子どもの本・翻訳の歩み事典』が出版されることになりました。この本は英米だけなく、ドイツ、フランス、ロシア、イタリア、中国、北欧を含めた情報も入っています。調べたこと全部というわけにはいきませんが、図録よりはかなり多くの情報を載せてあります。佐藤宗子さん、宮川健郎さん、谷口由美子さんと私が編集を担当しました。特徴は、まず年表にすべてキャプションをつけたことですね。それから、各分野の専門家の方に、たとえばディケンズやマザーグースの受容などのテーマで書いていただいたコラムを、あいだにはさんでいることです。面白いコラムですので、楽しみながら読んでいただけると思います。

田中:さて、話はもとにもどって、『子どもの本の歴史』のことですが、このページをご覧になっているみなさんに一言、本のPRをお願いします。

福本:この本は量や内容からいって、一晩で読むような本ではないんですよね。とにかく買っていただいて(笑)、手元に置いて、ことあるごとにちょっと調べたりするのに使っていただくのがいいと思います。何か本を読まれたときに、その箇所を見ていただくとか、そういう使い方をする本だと思うので。

さくま:学生に関して言わせていただくと、服に1万円かけても、本に1万円かける子は少ないですから、この本を買う決心はなかなかつかないかもしれません。でも写真や挿絵をみるだけでも面白いので、そこから興味のあるものを読んでもらえればいいのかなという気がしています。私もこの写真や挿絵をみていて、いろんな発見があったので。とにかく、興味のあるところからひもといてもらえると、だんだん全体がわかって面白いかなと思います。

福本:新しい作家の顔写真なんかも載っていますよね。

こだま:おかげさまで、この本は、2001年10月15日付けの発行なんですけど、すでに重版が決まったているんですよ。

田中:すごいですねえ。さらにたくさんの方に読んでもらいたいですね。

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