【アメリア】対談の部屋3-4訳者3人の「子どもの本の歴史」
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対談の部屋  
<第3回>   全4ページ

第3回 『子どもの本の歴史』出版記念、共訳者特別対談
4.訳者3人の「子どもの本の歴史」


田中:みなさんにとって「子どもの本の歴史」の出発点になった本を挙げていただけますか? 子どもの頃、最初に読んだ本ということもあるでしょうし、心に残る1冊ということもあるかと思いますが……。

こだま:私は子どもの頃、講談社の『幼年クラブ』という雑誌を取っていたんです。そこに載っていたものに、丸太小屋に住んでいる家族のお話があって、月夜にオオカミが吠えるのを、幼い姉妹が窓からみている場面が出てくるんです。とてもいい話で感動して、続きを読みたいと思っていましたが、1話で終わりだったのか次号を買ってもらえなかったのか、とにかく読めませんでした。後にそれが『大きな森の小さな家』のなかの話だとわかりました。まさか、大人になってから自分が翻訳して、同じ出版社から出すとは、思ってもみませんでした。不思議なめぐりあわせだと思います。『頭をつかった小さなおばあさん』も『幼年クラブ』で読みました。
 私が小さい頃は、アッパークラスの、インテリの家庭の子どもたちは岩波少年文庫を読んでいたけれど、私のような地元の公立学校に通っている、普通の家庭の子どもたちには、講談社の世界名作全集が圧倒的な人気がありました。今月はどんな本が出るかとか、誰がどの本を持っているかとか、クラスでいつも話題になっていました。『小公女』も私は世界名作全集で読んだんですけど、今でも覚えているのが、最後にセーラがお友達のおじさんに会って救われる場面なんです。そこで、昔の話をセーラがすると、「その話はまだ聞いていなかったね」っておじさんが言うの。そうしたら、セーラが「あなたにはまだ話していなかったわね」と言うわけ。その「あなた」って言うのが、すごくいやでね、その話が一気に嫌いになりました(笑)。なんて失礼な子なんだろうと思って、ショックを受けましたね。そのときは子どもでしたから、それが翻訳の問題ということなど、思いもつきませんでしたけれど、いま自分で子どもの本を翻訳しているときに、ときどきこの時のショックを思い出します。
 同じ翻訳もので、『ニルスの冒険』もすごく好きでした。ダイジェスト版で、小出正吾という人が訳したものです。とてもよくできていたんですよ。ダイジェスト版でも充分に楽しめるんですよね。

さくま:私の子どもの頃は、今みたいに子どもの本がたくさんなかったんです。私は東京の端っこのほうに住んでいたんですけれど、父が会社の帰りに時々本を買ってきてくれたんですね。古本屋から子どもの月刊誌みたいなものを。そうすると、いつもクイズの答えとかが書いてあるの(笑)。それがいつもくやしくて、自分だけの本が欲しいなあと思っていたのを、よく覚えています。それから、小学校に入って、鎌倉の親戚の家にひとりで泊まりに行ったことがありました。そこは子どものいない夫婦の家で、本がたくさんあって。おばがこれなら子どもでも読めるわよ、と言って渡してくれたのが、『愛の学校』。けっこう厚い本だったんですけど、それを読んでものすごく感動したんです。本ってすごいなあって。そのとき、ひとりで散歩しながらしみじみそう思ったんでしょうね。海岸を歩きながら、富士山が見えたりしたことを、よく覚えています。そのあとに、講談社の少年少女世界文学全集が出たんです。それをどうしても読みたくて、親に頼んで取ってもらったんですね。近くの本屋さんに取り寄せてもらってたんですけど、そこのお兄さんが「これを読むと、将来いいことがありますよ」って(笑)。いいことって何だろう、宝くじにでも当たるのかなあとかいろいろ考えたんですけど、大人になって出版社に入ったから、大好きな本の仕事につけるということだったのかなあと今は思っています。とにかく本が好きで好きで……。それはまわりに本がなかったからということもあるかもしれません。たとえば、学校で教科書が配られる時期になると、まず自分のをばーっと読んで、足りなくて、近所のいろんな学年のところを回って、国語の教科書だけ全部読み歩いてました。それだけ活字に飢えてたんでしょうね。少年少女世界文学全集を取ってもらってからは、それをしないで済むようになったんですけどね(笑)。

福本
:私は小さい頃から本の好きな子どもでした。ごく小さいときは、岩波の『こねこのぴっち』が大好きで。

こだま
:岩波なんて、ブルジョワだわ。(一同、爆笑)

福本
:ネコを飼っていたからというのもありますね。小学校2年生のときに、学校の図書室で、図書の先生が『はなのすきなうし』の読み聞かせをしてくれたんですね。それがすごく印象に残っていて。『はなのすきなうし』は自分でも持っていたと思うんですけど、そのときに読んでもらった光景は今でも鮮明に覚えているんです。そのあと、中学1年のときに、やっぱり図書室で、社会の先生が社会の時間なのに図書室に連れていってくれて、本を読んでくれたんです。それが、アニメの「あらいぐまラスカル」の原作、スターリング・ノースが書いた『はるかなるわがラスカル』っていう本だったんです。先生がその本を1章ずつ読んでくれたのが、すごく印象に残っていて。そのふたつの出来事から、人から読んでもらうのはすごくいいなと思いました。図書館員になりたいと思うのは、それからもっとあとなんですけど、今から考えてみると、そのふたつの出来事は、私の中ですごく大きかったです。そのうち、高校の図書室で、『子どもの図書館』という、石井桃子さんが文庫で子どもたちと一緒に本を読んだ記録を読んだり、7歳年下の小学生の妹が読んでいた本を、自分は高校生になっていたんですけど、一緒になって読んだりして。図書館員になりたいという気持ちは、その頃から芽生えたんですね。いずれにしても、人に読んでもらったという思い出はすごく大きかったと思います。

田中
:最後に、せっかく児童書のお仕事の第一線でご活躍のみなさんがお集まりくださっているので、ぜひうかがいたいことがあります。最近の児童書のファンタジー・ブームについてどう思われますか?

こだま:子どもの本に目が向いてよかった、とみる方もたくさんいらっしゃいますよね。でも先日、子どもの本の専門店ではない、普通の本屋さんに寄って、子どもの本の本棚を見たら、ただでさえ児童書のスペースは年々狭まっているのに、今出ているものはほとんどファンタジーで、リアリズムのものとかファンタジー以外のものが置いていないんですよね。あれは困ったもんだなあと思います。この間、仙台に講演会に呼ばれて話をしてきたんですけれど、やっぱりそんな話がでましたね。ファンタジー・ブームにせよ、何にせよ、子どもの本が売れるというのはいいことですが、そのことで、ただでさえ狭い本棚の中でファンタジーがリアリズムなどの本を押しのけるような形になるのは、困ったことだと思います。出版社がすべてそうとは限らないかもしれませんが、今はファンタジーが売れるから、ファンタジーを先に出そう、その他のものはいいものがあってもちょっと待って、という傾向があるんじゃないかと思うんです。ちょっと待って……といっているうちに、子どもはどんどん大人になって、せっかくのおもしろいリアリズムの本などを読まないうちに、子どもの本から離れていってしまうのにね。

さくま
:私は欧米のリアリズムの作家には今面白い人がたくさんいると思ってるんですが、なかなか翻訳されませんよね。こだまさんと同じく、ファンタジー一辺倒というのは困った状況だと思っています。それと、最近書かれているファンタジーを全部読んだわけではありませんが、昔書かれたものとは、質が違うような気がしています。半世紀前のファンタジーを読んできた者にとっては、今のファンタジーは主人公にとても感情移入しにくいような気がして。プロットの変化とか、短期間に場面がどんどん変わっていく面白さだとかは、今出ているファンタジーにもあると思うんですけれど、主人公や登場人物がいろいろ悩んだり、ちょっとした言葉の端々にその人の人間性が立ち現れてくる面白さだとか、そういったものは、今出ているファンタジーには見られないものが多いです。全部がそうではないと思いますが。あと、もうひとつは、ファンタジー・ブームが起こって、いい面もたしかにあると思うんですけれど、出版社が払う版権の前払い金がすごくつりあがってしまって、子どもの本の出版社が、本当にいいファンタジーの版権を取りたいと思っても、取れないということが実際にあるんですよね。子どもの本の出版社は、本を「本」として売ったところが多い気がしますが、本を「商品」とみなして、ロングセラーを狙わずに、宣伝費をかけて大量にわーっと売ってベストセラーを作ろうとする出版社が、これから版権を買ってしまうんじゃないかという危惧があります。

福本
:私がいつも子どもの本でいちばん問題だと思うのは、読むのが子どもなのに買うのは大人だというところなんです。大人がマスコミのうまい手口にひっかかって、限られたお金をブームに乗って出てきただけの本などに使ってしまうのは、すごくもったいないことだと思うんです。子どもが子どもの本を子どもとして読む時期ってすごく短くて、私たちが子どもの頃はまだ時間があったけれども、今の子どもたちって我を忘れて本を読む時間って、本当に少ないと思うんですよね。そんな状況で余計なものを読んでる暇なんてないと思うんです。だから、数は少なくてもいいから、本当にいい本だけ読んでほしい。今の大人が選んで買っている本はそういう本なんだろうか、と考えてしまいます。本当に手渡したい本と、実際に買われている本が違う気がして。もう一度、そういうところから考え直していきたいですね。

田中:本日は貴重なお話をありがとうございました。



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