【アメリア】対談の部屋6-3判例翻訳プロジェクトで何が変わる〜情報ギャップの克服
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対談の部屋
<第6回>   全4ページ

第6回 『プレジデント』編集長と語るビジネスと翻訳の未来
3.判例翻訳プロジェクトで何が変わる〜情報ギャップの克服


● 日米ビジネスマンの“情報ギャップ”


吉本:アメリカと日本ではビジネスの現場での情報ギャップというものがあるでしょ。とくに法律知識がぜんぜん違う。

藤原:あるな。とくにいまの日本の管理職はまるで勉強してないし。

吉本:アメリカの弁護士資格持っている人間は必ずしも弁護士にならないで、企業に入ったり政治家になったりするよね。もう、法律というものが政治経済の中に根付いているところがある。

藤原:アメリカでは社会に出る前からリーガル・マインドのある人間が多いし。

吉本:日本の場合は真面目に法学部で勉強する人間は司法試験受けようとする人間で、他の人間はあまり勉強しないと。で、司法試験受かって弁護士になる人間自体アメリカよりもはるかに少ないわけだから、もう「おまかせします」って感じになっちゃう。

藤原:弁護士の資格というより、実践的な法律知識が必要なわけだよ。

吉本:アメリカではとくに個別の裁判事例に対する判決自体が法律になっているわけだからね。ただ抽象的な議論じゃなくて。

藤原:それはそうだよ。最前線の知識だから。

吉本:たとえば、M&Aの判例なんてたくさんあるわけだけど、これから買収を手がけようとする人間がそういう裁判の事例をどれだけ読んでるかっていうと、あまり読んでないでしょ。日本語になってないから。

藤原:読んでないね。確かにアメリカの判例が日本語になっていたらいいよ。たとえば、企業には顧問弁護士っていうのがいるけど、顧問弁護団と話していても、あれは要するに“判例持ってる”だけだからね。1時間話したら高いしさ。もし判例を自由に読めるようになっていたら、大いに読むな。

吉本:つまり、情報を独占されているわけだよ。だから、このアメリアで翻訳プロジェクトをする意義があるわけね。

藤原:判例っていうのは、著作権がないんだって?

吉本:ない! よく言ってくれた。ないところがポイントなの。

藤原:ポイントだな、確かに(笑)。

吉本:あれだけ価値の高い情報に著作権がないのに、ろくに翻訳されていないってところがね。

藤原:誰が翻訳するの?

吉本:このサイトを見て応募してくれた翻訳者や専門家に翻訳してもらうんだよ。Web上でやると、実際にアメリカで法律関係の仕事に携わっている人からも参加の申し込みがあるんだよね。

藤原:一つの判例を複数の人間で訳すわけか。

吉本:そうそう。訳すだけじゃなくて、その訳文を検討するやり取りが掲示板で残されるわけ。それ自体が読み物になるし、間違っていても直す手がかりになる。

藤原:なるほどな。

吉本:検討を通じてメンバーの間でネットワークができるしね。情報のストックだけじゃなくて、次の情報を作り出すフローのきっかけづくりにもなる。

藤原:それまでにそういうサイトはなかったのかね。

吉本:個人がボランティア的に訳しているサイトはあるけど、皆さん忙しいから限界があるでしょ。それを大勢でやろうと。

藤原:「判例サイト」ができるわけだ。


● “アメリカのカントリー・リスク”は訴訟


吉本:いまのところ、判例翻訳の重要性についての認識自体があまりないからそういう運動が起こらないんだよね。

藤原:たしかに“判例意識”は低いよ。だって、日本人の商社マンと話していてもアメリカのカントリー・リスクは訴訟だっていうんだからね。カントリー・リスクっていや、そうなんだけどさ。

吉本:後ろ向きな印象を受けるね。戦う姿勢に欠ける。

藤原:どこに行ってもそうなんだよ。アメリカだけじゃなくてさ、中国なんか行っても。この間の東芝のパソコン事件なんかでもアメリカに日本が謝っちゃえば、それは中国にも伝わっていろいろ言ってくるでしょ。

吉本:中国だって、WTO加盟すれば、同じルールでやってくるわけじゃない。

藤原:そういうことになるな。

吉本:つまり、ビジネスのインフラ整えてくると。法律面なんかでも、今は著作権関係でも海賊版なんかで非難されてる側だけど、そのうち全面的に法律を味方につけて戦うようになってくると、日本は大変だよね。アメリカの裁判に精通した中国のビジネスマンなんか、もう結構多いんじゃないの。

藤原:それは、すでに相当多いよ。英語ができるのも多い。だからもはや情報ギャップっていうのは、全体的なレベルにおいて起きているんだよね。いま、Webのコンテンツの60%、メールの70%は英語でしょ。本来ならとれるはずの情報がとれなくなってるわけだよ。

吉本:日本は翻訳大国なんていうけど、翻訳されているのは小説とか啓蒙書の類が多くて、そのほかの重要な情報が、訳されてないんだよね。

藤原:なるほどな。

吉本:よく言うんだけど、マニアックな“深い情報”と、量の多い“広い情報”はまだ翻訳の市場に出ていないんだよ。で、深くて広い英語の情報は、英語勉強していても、やっぱりみんな気楽には読めないんだよね。

藤原:そうだな。

吉本:だとすると、そういう情報は、日本人にとって存在していないも同然じゃない。だから、個人の努力を超えた翻訳運動を起こさなきゃいかんと思うんだよね。運動に参加した人が英語やビジネスや法律の知識を身につけるとか役立てるということにもなる。

藤原:それは、社会的意義が大きいよね。『プレジデント』でも、ケースによるけれど、「仕事に役立つ判例集」なんてコラムがあったら、それは読むと思うよ。

吉本:将来的に紙媒体へ展開できたらいいよね。でも、それ以前にWeb上で発表して世界から閲覧してもらおう。
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