【アメリア】対談の部屋6-4翻訳市場と翻訳者はどう変わる
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対談の部屋
<第6回>   全4ページ

第6回 『プレジデント』編集長と語るビジネスと翻訳の未来
4.翻訳市場と翻訳者はどう変わる


● 翻訳市場における情報ギャップ


藤原:翻訳業界の景気は、全体としてどうなの。

吉本:周囲の話を聞くと、目に見えて改善しているわけじゃないけど潜在的な需要は拡大しているね。

藤原:そりゃ、顕在化させないといかんな。

吉本:自分が翻訳やり始めた頃は80年代半ばだけど、その頃はなんでもOKみたいな仕事も結構あったわけよ。経営陣に読ませる資料とか。

藤原:経営陣だから、ろくに読まないわけだな。

吉本:うん。読むにしたって、パッパって読むだけだと。翻訳会社の人も、質は問わないとか言うわけ。

藤原:まあ、やりがいはないね。それは。

吉本:ないない。でも、そんな時代だから自分みたいにまだ力のなかった人間でもずいぶんと仕事量が増えた。やっていくうちに単価も上がったしね。2〜3倍になったところもあった。そうなると、仕事も選べるようになる。

藤原:「いい時代」だったわけだ。でも、今ではもうそんな仕事はないと。

吉本:当時はあまりにも甘かったからね。翻訳業界もやっぱりバブルだった。

藤原:ということは、今は本当に必要な仕事だけがあるということになるか。

吉本:そうなんだけど、そういうニーズがあるのに、市場に出ていない部分が大きいんだよね。バブルの逆みたいなもんだ。

藤原:それは何で出てこないわけ。潜在的な需要は、どの辺にあるのかね。

吉本:たとえば、金融関係なんか結構ある。それまで翻訳業界と付き合いがない会社とか、かなり多いんだよね。つまり、市場との接点がないところが。

藤原:そういうところは、やってほしい翻訳とか相当抱えているわけか。

吉本:そうそう。たとえば、知っての通り米国の大手銀行とか大手証券会社が本格的に日本へ進出しているけど、翻訳の発注の仕方も知らないところがある。だから内部で困り果てて人づてに「誰かいい人いない?」って聞いたりする。それで「いい人」じゃなかったら翻訳業界に不信を抱くことになるから困るんですよ。

藤原:そこまで知らないのか。市場の効率性を保証するのは情報だからな。情報のパイプがつまっていると市場自体が機能しない。

吉本:右肩上がりの時代、とくに輸出主導の経済だった時代はメーカーを中心に和文英訳が翻訳業界を引っ張っていたから、自分なんかが翻訳業界に入った頃もメーカーこそがクライアント、というムードがあった。

藤原:産業の構造変化が起これば、外国との間で情報の受信発信をする企業の種類も変わるわけだから。

吉本:変わってきたね。で、その変化にきちんと対応して翻訳業界が自らの存在をアピールしているかというと、まだ不十分。翻訳の供給側としては優れた翻訳者の存在だけでなく、翻訳市場の存在自体を世に知らしめなければいけないんだけど。アメリアは今そういう情報ギャップを解消しようとしているんだよね。需要供給の双方に情報を提供して。


● 優れた翻訳者に必要な資質は優れたビジネスマンに必要な資質


藤原:需要側の構造も変化しているだろうけど、供給側の構造も変化しているところがあるのかな。

吉本:たとえば、翻訳学校に来る人たちは供給側の有望な担い手なわけですよ。

藤原:アメリアの会員さんは女性中心って言ってたけど、やっぱり女性が多いわけだ。

吉本:うん。だけど、実務の講座では男性も結構多いし、年齢層も10代から80代までいるし。職業もさまざま。

藤原:受講目的としては、独立志向と副業目的でいうと、どっちが多いの。

吉本:最終的には独立志向が多いと思う。でも、暫定的に副業目的という人がかなりいる。昼間の講座は主婦や学生の人たち、夜の講座は働いている人たちが主体ね。

藤原:実力差というのはやっぱりあるわけか。

吉本:昼間の人たちと夜の人たちを比べても翻訳力はあまり変わらないんだよね。全体としては。あるのは個人差だけで。主婦の人たちといっても以前仕事をしていた人も多いし。

藤原:企業に就職するとなると、主婦の人たちや高齢者の人たちは戦力から外されてしまいがちだけど、翻訳業界では事情が違うってことだな。

吉本:戦力もいいところだよ。どれだけ有能な人材がいることか。そのことを需要側が知らない情報ギャップもすごく大きな障害になってる。

藤原:一方で、企業の人間、とくに40代の男達は勉強しないしな。最前線にいる人材がスカスカになってて、周辺に置かれている人材が充実しているってのは、どうかしてるな。

吉本:間違ってるだろ。実際、いわゆる「国際派ビジネスマン」に必要な知識や能力と翻訳者に必要な知識や能力は相当重なってるんだよ。優れた語学力、専門知識、コミュニケーション能力。

藤原:活躍する場と具体的なジョブが違うだけでね。

吉本:だから、翻訳業界の中でも、そういうスキルとプライドを持った人たちが自分たちで翻訳会社を興して直接受注するような展開がもっとあればいいと思う。いま、ベテランの人たちを中心にそういう動きが出てきてるんだよ。

藤原:自分たちの仕事の質は自分たちが一番よく分かっているんだから、適正な値段を決めやすいだろう。

吉本:仕事の果実はほとんど自分達のものになるしね。それが本来あるべき翻訳市場の姿だと思うから、個人的に期待してるんだよ。

藤原:そうなれば、翻訳業界だけじゃなくて、ビジネス全体の知識ベースが大きく拡大して充実することになるな。

吉本:そうそう。グローバリズムの時代において翻訳者は日本のビジネスの頭脳を担うのだと言いたい。
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