【アメリア】対談の部屋7-4集結!技術英語の雄、水上龍郎の弟子が語る
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<第7回>  全4ページ
第7回集結! 技術英語の雄、水上龍郎氏の弟子が語る

氏の遺志を引き継ぐ技術英語研究会の今後

●なによりも人間が好きだった


鈴木:研修旅行も楽しかったですよね。日程は一泊二日で、昼過ぎに現地に着いたら、まずは勉強です。先生が問題を出して、2〜3時間でグループ毎にディスカッションしながら解答を作成する。それを発表して、先生からコメントをいただく。

仲吉:一番成績のいいグループには先生から図書券をもらいましたよね。

鈴木:楽しかったですね。夜はもう大宴会ですよ。次の日に観光をして、帰ってくる。東京に着くとまた宴会でしたよね。先生は寂しがり屋だったのか、早く帰ってしまうということがありませんでしたね。

:僕は最終電車で帰ったけど、先生はそれからまだ飲んでいるんだもんな。

長島:先日、奥様とお話したんですが、水上先生から「自分が死んだら、必ず言いなさい」と言われていることがあったそうなんです。「自分はお酒が好きだったんじゃなくて、人と話をすることが好きだったんだ。酒はそのための手段にすぎない」って。

鈴木:先生は、人間が好きだったんですよ。お酒は媒介ですよね。

仲吉:そうでしたね。

岡本:タバコもお好きでしたよね。

鈴木
:やめようと思ったことは一回もないんじゃないですかね。

長島
:会社でも、机の上に大きな灰皿がありましたが、いつも山のようになっていました。タバコを吸っている途中に、いい翻訳が閃いたんでしょうね。仕事に夢中になってしまうと、灰皿に載せたタバコがそのうち落ちて、机が焦げるんですよ。芋虫みたいな焦げ後がいっぱいできていました。

岡本:ひらめきの数だけ芋虫があるわけですね。

仲吉:先生の集中力というのはすごかったらしいですね。

鈴木:会社でぼんやりしているなんてこと、なかったんじゃないですか。

長島:ないですね。先生が自分の仕事をなさっているところに、たまに私が質問に行ったりするんですよ。「今忙しいですか?」って切り出すと、「忙しい」と切り返しながらも一応見てくれて。「んー、わかんない」とか言って返されることもありましたが、先生はご自分の仕事と並行にずっと考えていてくれていて、30分後ぐらいに、「こういうふうに考えたらどうかな」ってヒントを教えてくれたりするんです。そのものズバリの訳文を教えてくれなくても、始めから訳している私には先生の言葉にピンとくるものがあって、「あ! 解りました」という感じで。先生はそれでまた自分の仕事に戻られるんです。で、そんな日は大概、夕方から飲みに連れて行かれました。「オレのすごさが解った?」なんて。

●技術英語の未来を見据える

鈴木:それから先生は常々、この研究会の中からも"教える人"がどんどん出てこなきゃダメだということを言われていたんですよね。これから日本では英語がますます大事になってくる。企業で働く人たちのことを考えても、その予備軍である学生がきちんと英語をできるようになるべきだということが先生の強い思いだった。だから先生自身、大学で技術英語に関する講義をなさっていた。そして、先生に続く人がでてこなければいけないと、常々言われていた。幸い、研究会の中からもそういう人材が出てきました。現在、七名の方が大学等で教えておられます。仲吉さんもその一人ですが、学生に教えるというのはいかがですか?

仲吉
:いやあ、それがね、この本(『工業技術英語の現場談義』)を読むまでは、自分のやり方でいいと思っていたんですよ。教え初めて4年になりますが、ずっとそう思っていた。でも、やっぱり甘かったですね。この本の中で先生は、今の学生は決定的にボキャブラリーが不足しているということを指摘していらっしゃる。例えば、歴史の時間に「歴史は英語でhistoryって言うんだよ」と、せめて名詞だけでも、単語のレベルでいいから、高校で先生が教えてくれると良い。そういう視野の広さというか、目的意識の高さというのが私にはかけていましたね。先生は亡くなられてからも、私たちにはっぱをかけているような気がするんです。

鈴木:学生はどうですか?

仲吉:私が大学で教えるようになって得たひとつのメリットというのは、若い人が好きになったことですね。以前は、若い人が大嫌いだった。ところが教え始めてみると、若い人は若いなりに考えている。そういう意欲のある人を少しでもいい方向に導ければいいかなと、今はそう思っています。それから、技術英語というのは高校英語と無関係ではないんだよと言いたいですね。あくまでも英語は英語、受験英語は決して無駄じゃなかったということを、少しでも教えられればいいと思っています。今までやったことが無駄だと考えたら、おそらく誰もついてこないと思いますからね。

鈴木:そのとおりです。どんな英語でも、受験英語がベースになっていますよね。

仲吉:それから、日本人なんですから、日本語をベースにして考えればいい。英語で考えるなんて、そんな難しいことをしなくてもいいんだよということを言いたいですね。

鈴木:大学の講師になるといっても、そう簡単になれるものではありません。そこで先生がおっしゃっていたのが、「まず工業英語協会の月例研究会で何らかの発表をしなさい」ということでしたね。工業英語協会にはさまざまなところから講師を紹介してくださいという依頼がくるわけです。そこで、発表という実績を作っておけば、講師に推薦されやすいということだったんでしょう。現在、講師をなさっている研究会の七名も、みなさんここで発表をなさいました。そして今年の1月には、長島さんも発表をなさったんですよね。いかがでしたか。

長島:初めての体験ですから、何度も悩むことがありました。普段、仕事でやっていることを聞いてもらおうと決めたんですが、大勢の人の前で発表するとなると、果たして本当にみんなに受け入れてもらえるんだろうかと、すごく不安でしたね。そのために、新しい文法書を買って勉強をやり直したりもしました。

仲吉
:発表したり、人に教えたりするためには、もう一度自分が勉強するということが必要なんだよね。それがあるから、また一皮むける。

鈴木:長島さんはavailableという単語について、いろいろな角度から調べられて、非常にいい発表をされましたね。とても素晴らしい経験をされたし、これで翻訳者としても一段高いところに上がったと思いますよ。

長島:そうだといいんですが。

鈴木:先生はおそらく、そういうことも言いたかったんだと思いますね。発表をするというのは、単に講師をやるためということじゃなくてね、その人の重要な経験のひとつになると。

長島:実は先生がご存命の頃に、「次はあなたがやりなさい」と言われていたんです。だから、多少心の準備はできていて、早めにテーマを決めたり、資料を集めたりすることができました。悩む時間もその分長くなってしまいましたが、発表までのプロセスを含めて、本当にやってよかったと思っています。

鈴木:研究会は、いうなれば先生が我々に残してくれた財産です。今、仲吉さんと私が講師をやらせていただいて、継続しているわけですが、これからも水上先生の翻訳や英語に対する気持ちを受け継いでいきながら、また水上先生を知らない世代の人たちにもどんどん参加していただいて、研究会をさらに発展させていきたいですね。先生がよくおっしゃっていました。「翻訳者はひとりでやってちゃダメですよ」と。翻訳以外の話も含めて、いろんな人と、いろんな話をしなければいけない。人間同士の付き合いの中から、翻訳者としての幅ができてくるんだと。研究会はそういう役割を担ってきたと思いますし、これからも、ぜひ続けていきたいと思っています。

岡本:先生がおっしゃっていたように、もっと若い人に技術英語の面白さを知ってほしい。先生の授業というのは、非常に思いやりのある授業だった。「技術英語って難しくないんですよ。皆さん受験で英語を勉強したでしょう。こういうふうに考えなさい、ああいうふうに考えなさい」というメッセージが授業の中からにじみ出ている。それに、生徒を飽きさせないし、面白い。そういう先生の授業の片鱗でも、今後伝えていければという気はしますよね。先生は、工業高等専門学校や工業高校の先生などにも技術英語をもっと教えたいとおっしゃっていました。ひとりでも、ふたりでも多くの先生に技術英語の面白さを知ってもらえたら、それは生徒に伝わるわけですからね。

仲吉:私は、間接的に先生から叱られたことがあるんですよ。講師が大学で何を経験しているのか、もっと発表しろ、という風にね。その時は、そこまで考えませんでしたが、今考えるとそれは、勉強会の行く末までを考えた、我々に対する苦言だったんじゃないかと思うんですよ。私が思っている以上に、先生には、日本の技術英語に対する明確なビジョンがあったのではないかと思います。

鈴木:今後、もっと考えていかなければなりませんね。求められるものが、今までの研究会とは違ってきて、それに対応していくことも必要かもしれない。でも、基本は水上先生に教わった英語に対する気持ちというか、姿勢です。それは守っていく必要がある。やり方はつねに見直して変えていかなければいけないと思います。それはこれからの課題ですね。


●水上講義が復活! CD&講義ノートの発売決定

鈴木
:最後にひとつ、朗報があります。水上先生がフェロー・アカデミーで教えていた頃の1年分の講義のテープが残っていて、それをCD化することが決定しました。研究会のメンバーで講義録も作成しましたので、講義録を見ながらCDを聞くと、先生の講義が再現できるわけです。内容的には、初級者の方が聞いて、面白いなと思うような内容ですね。我々が聞くと、素晴らしい講義だな、先生はこんなに話し方がうまかったんだなって、別の意味で活用できるのですが。

:私は古巣の後輩にぜひ聞いてほしいなと思っているんですよ。

岡本:翻訳者だけではなく、技術英語を教える立場の人にも活用していただきたいですよね。研究会自体も、現在は翻訳者の勉強の場ですけど、今後は技術英語を教える先生も参加できるようにするとか、そういう方面でも何か考えていかなければならないのかなと思います。

鈴木:我々にとっては偉大な先生ですが、水上先生のことを全く知らない人も数多くいるわけです。そういう方にも、ひとりでも多くの人にこの講義録を聞いていただいて、なにかを感じてもらえれば、嬉しいですね。今日は水上先生を偲びながら我々技術英語を学ぶ者がどうあるべきか、またこれからどうしていくのかということも話が出来たのではないでしょうか。技術英語研究会が、新メンバーが継続して入会してくるような魅力ある会にしていく努力もしていきたいですね。楽しい座談会になりました。皆さん、有難うございました。

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