
濱野 :本日のゲストは、インドネシア語とマレー語を中心に、主に実務翻訳の分野でご活躍中の小々馬信介さんです。どんなドキュメントの翻訳需要があるのか、なぜインドネシア語とマレー語の翻訳へとたどり着いたのか、未知の世界の翻訳に私も興味津々です! まず素人まる出しの質問で申し訳ないのですが、インドネシア語とマレー語(マレーシア語)はどのような言語なのか教えていただけますか?
小々馬 :インドネシア語とマレー語というのは基本的に同じ言語で、言語学的にはインドネシア語も広義の「マレー語」に含まれます。インドネシア人とマレーシア人であれば、少々の誤解が生じることもあるかもしれませんが、会話をすることができます。それぞれ植民地時代の宗主国がちがったので、インドネシア語はオランダ語から、マレー語は英語からの借用語が多いのが、ちがう点のひとつ。また、インドネシア語のほうはジャワ語の影響が強く、マレー語のほうはアラビア語由来の単語が多いという特徴もあります。さらに、同じ単語でもスペルや発音がちがったり、意味や使い方も微妙にちがったりすることがあるんです。
濱野 :スペイン語とイタリア語くらいの感覚でしょうか?
小々馬 :いや、もっと近いですね。たとえるなら……ポルトガル本土のポルトガル語とブラジルで話されるポルトガル語ぐらいかもしれません。英語で言うと、イギリス英語とアメリカ英語の差よりも大きなちがいがありますが、話し言葉で比較すると、アメリカ英語とスコットランドの英語くらいの差が……ん〜、なかなか表現するのがむずかしいですね(笑)。
濱野 :やはり、努力すればなんとか会話は成立するというイメージですね、なるほど。話者は多いのですか?
小々馬 :インドネシア語とマレー語を話す人口は意外と多くて、2億5千万人以上になります―インドネシア、マレーシア、ブルネイはもちろんですが、一応シンガポールでも公用語のひとつとされています。
濱野 :2億5千万人以上ということは、日本語よりも話者はだいぶ多いのですね。あまり注目はされてはいないようですが、それだけの話者がいるとなれば、翻訳の需要も大きいわけですね。
小々馬:マレー語のほうは、日本の翻訳業界では需要が多くありませんが、インドネシア語はそこそこありますね。東南アジアで言えば、タイ語の次くらいには需要があると思います。おそらく、ベトナム語と同じくらいでしょうか。特に最近はインドネシアへの日本企業の進出が増えていますので、ここ3年くらいで需要が一気に高まっているように感じます。
濱野 :日本企業が進出する際に必要な翻訳案件というのは、どんなドキュメントが多いのでしょうか?
小々馬 :市場調査用アンケート、産業ニュース系の新聞・雑誌記事、契約書、設立証書、会社定款などさまざまです。やはり製造業が多いので、関連する産業分野の政令や大臣令といった法律文書も多いですね。最近、特に依頼が増えているのが、工業規格に関係する文書。必要とされる専門知識が各分野で異なりますし、高度な知識が必要とされるものもあり、なかなかむずかしい仕事です。
濱野 :マレー語は需要が少ないとおっしゃっていましたが?
小々馬 :そうなんです。というのも、マレーシアは基本的に英語が通じる国なので。それでも、やはりここ3年は少しずつ増えています。インドネシア語と同じように、政府や大臣が発令する法律文書や、会社設立の認可を取るための証明書などの案件が多いですね。
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