アメリア会員インタビュー

霍田 康子さん

霍田 康子さん

技術分野の翻訳も、SNS投稿の翻訳も

プロフィール

自動車メーカーにて翻訳業務を経験後、フリーランス翻訳者に。日英は自動車を中心に工業・ビジネス分野。英日はマーケティング分野。トランスクリエーションに興味あり。趣味はウォーキング、神社仏閣・城めぐり、西洋占星術、タロット、音楽。翻訳を通して地域や世界に貢献したい。愛知県在住。

自動車技術に関連した日英翻訳を中心に

加賀山 :本日は、名古屋市で実務翻訳をしておられる霍田康子(つるだ やすこ)さんにお話をうかがいます。この「つる」という漢字は珍しいですよね。

霍田 :そうですね。「鬼の霍乱(かくらん)」の「霍」の字で、九州に多いようです。

加賀山 :ああ、そうでしたか。プロフィールを拝見しますと、実績として、プレスリリース、企業ホームページ、SNS投稿記事、報告書、研修・教育資料などがあるようですが、いま多いのはどういうお仕事でしょうか?

霍田 :もともと自動車メーカーで翻訳業務をやっていましたので、その流れから、おもに国内メーカーのホームページに載せる環境関連の内容が多いですね。いまホットな話題です。

加賀山 :SDGs(持続可能な開発目標)でしたっけ?

霍田 :カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させて、排出量を全体として実質ゼロにすること)でしょうか。多くのメーカーがいま二酸化炭素の排出量を削減する計画を立てていて、その取り組みや環境ビジョンを公表する記事が多いのです。あとは、社内向けの文書。たとえば、海外との会議のためのプレゼン資料で、内容は安全衛生や改善活動など、多岐にわたります。

加賀山 :英訳ですか、和訳ですか?

霍田 :英訳です。最近契約を結んだ翻訳会社から、和訳の依頼もときどき入りますが、2つ、3つの仕事を同時にやろうとするとなかなか難しくて、お断りしなければいけないこともあり、まだちょっと軌道に乗っていません。和訳では分野が広がって、マーケティングや販売関係の資料なども訳します。

加賀山 :何社ぐらいの翻訳会社と仕事をしておられますか?

霍田 :4社ほど契約していますが、いつも英訳の仕事をいただいているのは1社で、もう1社から和訳という感じです。

名古屋モーターショーにて

加賀山 :ひとつの翻訳会社でもいろいろな案件を持っていると思うのですが、霍田さんのところに来るのは自動車関係の仕事が多いのですね。

霍田 :そうですね。その分野の需要がたくさんあるのと、私の経歴を考慮していただいているのかもしれません。

加賀山 :英訳の仕事は、ほぼ毎日埋まるくらい入ってきますか?

霍田 :ほぼ毎日という月もありますし、そうでない月もあって、仕事が入ってこないと品質が悪くてもう仕事がいただけなくなったのかなと心配になります(笑)。1年のなかでも忙しい月とそうでない月があるみたいです。

アメリアのプロフィールがスカウトメールにつながって

加賀山 :自動車メーカーの翻訳部門に7年間いらっしゃったということですが……。

霍田 :はい。籍は子会社の社員でしたが、働く場所は親会社のメーカーの工場や開発本部のなかで、親会社から業務委託されていました。

加賀山 :会社員時代の仕事も英訳だったのですか?

霍田 :英訳もありましたが、海外の自動車関連の法案、規制案の動向についてインターネットやコンサルティング会社から入手した英文資料を和訳して、親会社に卸す仕事もありました。

加賀山 :親会社の情報収集を手伝っていたということですか?

霍田 :情報収集して、内容をまとめ、必要に応じて和訳していました。会社勤務7年のうち4年ぐらいは英訳が中心でしたが、3年はおもに情報収集と和訳でした。

加賀山 :総務とかではなくて、翻訳専門の部署があったのですね。

霍田 :子会社の「技術サービス部」というところでしたが、やっていることは翻訳サービスでした。

加賀山 :たしかに、日本の自動車メーカーにとって海外の情報は死活問題でしょうからね。

霍田 :国によって法律がちがうので、車の規格もちがうんですね。最近は基準が世界で統一化されてきて、メーカーの負担も減ってきましたが、数年かかる開発の途中でそういう規制が変わると、それに合わせて作るものも変えていかなければなりません。ですので、情報収集や翻訳は必須なんです。
 あとは、たとえばアジアの研修生が工場に技術研修に来たときに、検査のマニュアルなどの研修用の資料を英訳したり、ISO9000(品質マネジメントに関する国際規格)の認証を海外の関連会社でも取得するために、大量の日本語資料を英訳したりしました。

加賀山 :長くそうやって働いておられて、独立しようと思ったきっかけは何だったのですか?

霍田 :出産のために退社して、そのあと在宅で働かせてもらう予定でしたが、その子会社自体がなくなってしまったんです。それで困りまして、翻訳が続けられないかということで、トライアルを受けはじめました。

加賀山 :トライアルになかなか受からなくて苦労されるかたもいらっしゃるようですが、いかがでした?

霍田 :1、2社はすぐに受かったんですが、もう少し安定した仕事がしたかったので、英語の講師の仕事を始めました。すると、そちらの授業の準備が忙しくなってしまいまして(笑)、しかたなく翻訳のほうをしばらくお断りしていたら、継続的に発注いただいていた翻訳会社さんから仕事がもらえなくなりました。
 それでどうしようと思って、まず通訳・翻訳学校のインタースクール名古屋校に通いはじめました。そこに日英技術翻訳のコースがあったんですね。

加賀山 :強みを活かそうということですね。

霍田 :はい。コース終了後のトライアルを受けて合格し、そこからぼちぼち仕事をいただけるようになりました。
 とはいえ、収入面で安定しないし、本当に技術的な内容になると得意ではないという面もありました。社内向けの文書で業界用語や社内でしか通じないことばが出てくると、いまでもわからないことがあります。
 そこで、自分の興味のある分野にもっと仕事を広げたいという思いで、フェロー・アカデミーのマスターコース「ビジネス一般」の通信講座を受けました。

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加賀山 :アメリアに入会したのはいつごろでした?

霍田 :ちょうど通信講座を始めたころです。じつは最初にフリーになったときに一度入っていたんですが、いったん退会したので、テクニカルのクラウンの資格も消えてしまいました(笑)。

加賀山 :再入会されたんですね。定例トライアルも受けておられますか?

霍田 :受けています。それが、最初のころ受けたときには、日英の点数が悪くて英日がよかったのですが、去年受けた定例トライアルでは、日英のほうがよくなりました。仕事で日英ばかりやっていたせいか、たまたまトピックがよかったのか、わかりませんが……。英日は悲惨な結果でした(笑)。

加賀山 :アメリアに入ってよかったと思うことはありますか?

霍田 :海外の翻訳会社さんから、アメリアのプロフィールを見たということで、スカウトのメールをいただきました。それで、和訳の仕事をいただけるようになりました。もうひとつ、まだ仕事はいただいていないんですが、日本の翻訳会社さんからもメールが来て、契約してもらいました。
 あといいところは、求人情報がたくさん載っていて、トライアルを受けられることですね。なかなか合格はしませんが……(笑)。

加賀山 :仕事の開拓に役立っている。

霍田 :そうですね。自分のやりたい分野をプロフィールに書いておくと、目にとめてくださったかたから連絡があったりするので、開拓につながると思います。アメリアでは、こんな翻訳者もいます、と自分の存在をアピールできます。
 それと、スキルアップのきっかけにもなります。情報誌『Amelia』の別冊で、分野別の課題の講評があるじゃないですか。あれをじっくり読みます。

加賀山 :ああ、あれは私もよく読みます。勉強になりますよね。

霍田 :ここがツボか、みたいなことが(笑)。誤訳しやすいポイントがわかりますよね。

文字どおり訳さない!?

加賀山 :私自身は英日翻訳だけですが、日英翻訳で注意すべきこととか、とくに気をつけていることはありますか?

霍田 :「文字どおり訳さない」ようにすることでしょうか。まず自分のなかでイメージをつくって理解して、一度本当の意味というか、文字に書かれていない情報まで想像してから、訳します。
 もちろん、文字だけで意味が伝わることもありますが、そうじゃないときもけっこうあります。とくに現場にいるかたたちはお互いわかり合っているので、社内文書などでは文字に情報をインプットしてくれないことが多いのです。きちっと主語と述語があるような文ではないので、そこを汲み取るというか、行間を読むようなことをしなければいけない。そこまで理解して正確に訳すことが求められる場合があります。多くの人が理解できるように、私のような一般人のことばに訳すということを、いつも心がけています。

加賀山 :仕事以外にも英訳の勉強をされていますか?

霍田 :機会があればモーターショーに行ったり、観光分野も好きなので、いろいろなところを訪ねたら英語のパンフレットと日本語のパンフレットをもらってきて見比べたりします。インターネットで、日英でうまく訳しているホームページなんかを探して比較研究もします。

加賀山 :なるほど。過去のお仕事で印象に残っているものはありますか?

霍田 :けっこう楽しかったのは、SNSの投稿記事でした。食べ物の紹介と、風景写真につけるコメントがありました。

加賀山 :車じゃないんですね(笑)。

霍田 :日本の食べ物や観光地を海外の人に広めようという広告みたいなものでした。それが文字どおり訳せないので、技術の英訳とちがっておもしろかった記憶があります。

加賀山 :ふだんやっていることとぜんぜんちがうから?

霍田 :はい。主観的な表現を入れないといけないので。いつもは、主観は入れずに、あくまで客観的に硬い文章で訳しますから。

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加賀山 :そのSNSの記事も同じ翻訳会社から来た仕事ですか?

霍田 :そうです。

加賀山 :ずいぶん手広い(笑)。

霍田 :でも、そのあとSNSの仕事は来ていませんから、あまりうまく訳せていなかったのかも……(笑)。

加賀山 :逆に、硬いほうを訳せるかたが少ないんじゃないでしょうか。主観的な英訳が得意な人のほうが多そうですから。
 英語の講師もされていたということですが、昔から英語は得意だったのですか?

霍田 :中学校のころは、オーストラリアの交換留学のプログラムに行かないかと先生から勧められても、ぜったい嫌だと言っていたんですが……。大学でも国文学のコースを取るつもりだったのに、そこからなぜか英語学のコースに入りました。そのとき、かよっていた英語学校のかたに、「けっこうライティングが得意そうだから、もし仕事にしたいのであれば、テクニカルライティングという仕事があるよ」と言われたんですね。愛知県なので、自動車メーカー関連の仕事がすごく多いんです。

加賀山 :そこから本格的に勉強したのですか?

霍田 :そのあとオーストラリアに留学して、帰国後、求人雑誌で探して、自動車メーカーで技術翻訳をするようになりました。

加賀山 :それが会社勤めの7年間の始まりですか。フリーになって、いま何年目ぐらいですか?

霍田 :フリーランスの翻訳者になったのは2012年でした。でも、途中でしばらく英語講師をしていましたから、実質的にフリーで翻訳をしているのは5年ぐらいだと思います。

加賀山 :テクニカルライティングというのは、技術的な内容を英語で書くということですか?

霍田 :工業英検、いまは技術英検という名称になっていますが、そこで扱うような内容ですね。マニュアルや科学論文の日英、英日翻訳、英語の長文のサマリー、取扱説明書の悪文のリライトなどがあります。

加賀山 :翻訳も要約もあるし、日英、英日の両方があるんですね。

霍田 :テクニカルライティングにはルールがありますので、試験ではそれもわかっているかどうか試されます。

加賀山 :ああ、たしかに。いま技術英検のサイトを見てみると、「テクニカルライティングの考え方」というのが試験項目にあります。

霍田 :会社員時代にその試験を受けました。まわりの人もけっこう受けていたので。ただ、いまは工業英検が技術英検になって、仕組みも少し変わっていますが。思えば、その試験のための勉強もしました。

加賀山 :それがかなりの勉強量になりますね。

現場を体験することが大切

加賀山 :これから取り組みたい分野などありますか?

霍田 :マーケティングとか、広告とかですね。

加賀山 :そういえば、プロフィールに、「トランスクリエーションに興味あり」と書いておられます。「トランスクリエーション」というのを初めて聞いたんですが、どういうものですか?

霍田 :イメージ的には、コピーライティングに近い仕事でしょうか。

加賀山 :原語をもとに日本語の広告を作るようなイメージですか。それはまた別の能力が必要な気もします。

霍田 :センスが必要でしょうね。でも、アップルとかの広告でおもしろい翻訳をするかたがいらっしゃるじゃないですか。あれが楽しそうだなと。
 それと、いま占星術にハマってまして、いつか占星術やタロットなんかに関する本を訳してみたいと思っています。

加賀山 :占星術! それは根強い需要がありそうです。でも、そういう分野を扱う翻訳会社があるんでしょうか?

霍田 :どうでしょう。持ちこみだったり、占星術の講師のかたが訳したりするケースが多そうですが見当がつきません……(笑)。

加賀山 :バックグラウンドは技術分野でも、これからいろいろ広げていきたいということですね。

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こちら側が実は面白い

霍田 :インバウンド観光の分野にも興味があります。英語の講師をしていたときに、観光英語というのを教えていました。観光英検というのもあって、その試験対策をしてほしいと言われまして。

加賀山 :そんな英検もあるんですか。

霍田 :コロナ禍のまえで、東京オリンピックも控えていて、観光需要がすごく高まっていた時期です。日本の観光ガイドになりたい留学生にも教えていました。あ、そのとき全国通訳案内士の資格も取ったんですが、それもずいぶん勉強になりました。

加賀山 :折に触れて勉強されていますね。

霍田 :翻訳とは直接関係ないかもしれませんが、いろんなところを渡り歩いている感じです。でも結局、翻訳につながっていったんだと思うことがあります。

加賀山 :そう、翻訳って、経験がすごく活きる仕事じゃないですか。だから自分が体験してるかどうかは重要ですよね。

霍田 :そうですね。なるべく本物を見るというか、現地に足を運んで、イメージをしっかり作れるようにして、それでやっと本当の意味でメッセージを伝えられることがあるのかもしれませんね。

加賀山 :それは出版翻訳にも言えることです。

霍田 :ふだんの英語のスキルアップ、翻訳のスキルアップも大事ですが、自分の体や足を使って現場を体験しておくことも、書いた人が本当に伝えたかったことを理解するのに役立つと思います。

■とても勉強家という印象を受けました。これから少しずつその成果が出て、技術関連のみならず、いろいろと翻訳の世界が広がりそうですね。楽しみです。