アメリア会員インタビュー


第21回
行き当たりばったりの私の人生で計画どおりに努力を続けられたのは唯一、翻訳だけでした
  ハーパー保子さん
Harper Yasuko


待ちわびていたノンフィクションの翻訳コンテスト 悔いが残らないように最善をつくしました

坂田:今回のゲストはハーパー保子さんです。ハーパーさんは第11弾アメリア新人翻訳家コンテストで最優秀賞に選ばれ、このたびコンテストの課題図書であった『Soil』(Charlie Ryrie著/gaia organic basics発行)と、同シリーズの『Compost』をまとめて1冊にした訳書『ナチュラルなほんものの土と堆肥』が産調出版さんから刊行されたばかりです。まずは、そのお話から伺いたいと思います。ハーパーさん、よろしくお願いします。

ハーパー:こんにちは。よろしくお願いします。

坂田:自分が訳した文章が書籍として出来上がったわけですよね。本を手に取った時の感想は?

ハーパー:本になった『ナチュラルなほんものの土と堆肥』を手にしてから1カ月ほど経ちますが、原稿を納品したのが1年前ですから、その頃の訳文を正視するのがこわくてまだじっくり目を通していません。自分の未熟さとはこれから対決するとして、少なくとも監修と編集でとてもいい本に仕上がっていることは確かです。

坂田:本の内容について、ハーパーさんご自身から紹介していただけますか。

ハーパー:一応、ジャンルとしてはガーデニングの本ということになるのでしょうが、本文にもある通り「世界一大きな農場から世界一小さな庭まで」、つまりガーデニングにとどまらず有機農法の本としても実用的な内容になっています。有機農法で土と堆肥がテーマというと、地味で堅くて面白みのない本を想像されるかもしれませんね。でも、産調出版の書籍らしく、エコロジカルな視点のまじめな内容が一般の人にもわかりやすく書かれていて、しかも美しい写真の数々でビジュアル的にもとても魅力的です。おしゃれなガーデニング書の並ぶ本棚に入れても、ぴったりおさまる本だと思います。

坂田
:では、コンテストのことについてうかがいたいのですが、第11弾のコンテストは今から約2年前の2002年3月の開催でしたね。

ハーパー:はい。コンテストの告知を見たときは、ひとことで言うと「待ってました!」という感じ。産調出版のコンテストかトライアルがあれば、とにかく受けようと思って、ほんとに待ってましたから。

坂田:というと?

ハーパー:産調出版の出版物が情報誌『Amelia』で紹介されていたのですが、実用書をメインにしたい私にとって、そのラインナップはとても魅力的だったので、「今年(2002年)の目標は産調出版!」と決めていたんです。アメリアのノミネ会員に登録されてしばらくは、ノミネ会員向けに産調出版のトライアルが何度か送られてきていたのですが、皮肉なことに私が興味を持ち始めてからは見かけなくなっていました。それが、今年の目標を産調出版さんに決めたとたんに間もなくコンテストの告知がありましたから、ラッキーでした。すぐに原書を購入したり、図書館で産調さんの本に目を通したりして、準備を始めました。ちょうど3冊の共訳のあと仕事が途切れ、アメリア経由でのんびりリーディングの仕事をしているときで時間もたっぷりあったから、それもラッキーでした。

坂田:課題はガーデニングに関する内容でしたが、ハーパーさんの得意分野でしたか?

ハーパー:いいえ。課題文を見たときはちょっと不利かなと思いました。ガーデニング自体が得意な分野ではないうえに、土のpH値だとか多量元素だとか、ますます腰が引けるような部分が課題でしたから。でも、後悔しないように、とにかくやれるだけのことはやろうという気持ちで訳しました。


坂田:「実用書をメインにしたい」とおっしゃいましたが、いつ頃から、どうしてそう思うようになったのですか?

ハーパー:いつごろかと言えば、まだ仕事の経験がなかった頃、翻訳関連のコンテストで賞をいただいた時のコメントで、「ビジネス書、実用書、映画関連のノンフィクションを中心に仕事をしていきたい」なんてきっぱり言っているんですが、今となってはどんな基準で決めたのか、覚えていないですね。だから、これは実際に実用書を訳すようになって思うことですが、訳していて読者の反応が想像しやすいという楽しさはあります。実用書を手に取る人は、実際に使える知識や情報を求めているわけですから、たとえば「葉に生気がなく先端が茶色っぽくなるのはカリウム不足」と訳しながら、これを読んでホームセンターにカリウム肥料を買いに走る人がいるんだろうな、と想像するとなんとなく嬉しいです。自分の訳したものを人が読んでくれた結果、その人の生活のなかですぐに改善されることがあるというのは、励みになるし楽しいですね。