持込成功の秘訣
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第1回 ただ横のものを縦にするのではない。翻訳はひとつの創作だ
広い視野を持って持ち込む本を探し続ける中谷和男さん
Kazuo Nakatani

中谷氏は元NHKの海外特派員。2度にわたり、のべ20年を海外で過ごした。その後、会社を辞めて本を書くようになる。

「管理職になって、現場を離れたらつまらなくなってしまってね。会社勤めを辞めて何かほかのことをやってみようと思ったんです」

それから2年間、カウンセリングの勉強をした。勉強をしながら精力的に取材を行い、1本の原稿を書き上げた。恐怖と苦悩の日々から抜け出し、新たな道を歩みはじめる二児の母の手記だ。

「原稿は書き上がったのですが、出版社にコネなどなかったので、とりあえず自費出版の原稿を募集していた出版社に送ってみることにしました。いや、自費で出すつもりはなかったんですよ。でも、どんな反応が返ってくるのかなと思って」

返事は、「ぜひ、うちの出版社から出させてください」というものだった。もちろん自費出版ではなく印税契約だ。そして、この本は2001年1月に『嗜癖 愛したい、でも愛されたい』(文芸社刊)という題で出版された。

そこから中谷氏のノンフィクションライターとしてのキャリアが始まった。

拒食症、アルコール依存症、阪神大震災――興味の先を取材して何冊かの本を書いた。自分でテーマを見つけ、勉強し、取材し、書き上げていく作業は、もちろん魅力的だった。

しかしその後、中谷氏は翻訳の世界にどっぷりと浸っていくことになる。

きっかけは、あるとき出版社から「翻訳もできるんじゃないですか」と言われ、引き受けたことだった。
昔も、仕事の合間に翻訳をしていた時期はあったのだが、改めてやってみると、これが実に面白かったのだという。

「翻訳はひとつの創作です。ただ横のものを縦にするだけではつまらないものしかできない。アメリカならアメリカという文化がそこにある。その文化を訳して紹介するのが翻訳なのです」

場合によっては原文に書かれていない説明を加えることもあると中谷氏は言う。

「翻訳は高校1年生が読んでわかるようじゃなきゃいけないと思っています。そのためには、説明を加える必要があるかもしれない。もちろん、著者の意向を無視するようなことは決してしません。日本人にわかるように紹介するのが著者にとっても大切だと思うからそうするのです」

翻訳をしながら、中谷氏は原著者とやり合っている気持ちになるという。「(訳は)これでいいんじゃない?」「いや、ちょっと違うんじゃないか」。頭の中で試行錯誤を繰り返す。そうして出来上がったものは単なる翻訳ではない。ひとつの創作なのだ。

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