判例翻訳プロジェクト解説

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アメリア翻訳プロジェクトトップ > 判例翻訳トップ > アメリカの裁判と判例について

I .アメリカの判例とは
1.アメリカの判例を学ぶ理由・訳す理由
訴訟社会のウソとホント
判例による理論武装
   
2.アメリカの判例の学び方・訳し方
アメリカには「六法全書」がない
判例の引用は判じ物?

II .アメリカの裁判とは
1.アメリカの裁判の特徴
陪審制
−−法廷は劇場?
答弁取引と和解
−−決着は白か黒とは限らない
懲罰的賠償
ー−人民が「悪者」を懲らしめる制度
   
2.アメリカの裁判の手続き


A-1.刑事訴訟手続き
ーー「告発・逮捕」から「公訴の提起」まで


A-2.刑事訴訟手続き
ーー「審理前手続き」から「審理(公判)」まで


B-1.民事訴訟手続き
ーー「プリーディング」まで


B-2.民事訴訟手続き
ーー「審理前手続き」から「審理」まで
C.アメリカの裁判所
   
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訴訟社会のウソとホント

現代のアメリカという国を語るときに最もよく冠せられる形容詞が、「訴訟社会」や 「訴訟王国」という表現です。とくに一昔前、日本企業がアメリカへ進出するにあたりPL(製造物責任)法などで訴えられる恐ろしさを述べる文脈で繰り返し使われていました。

そして、それを如実に物語る事例として頻繁に言及されたものに「濡れた猫を乾かそうとレンジに入れて死なせた上にメーカーを相手どり訴訟を起こして勝っ たオバアさんの話」というエピソードがあります。

この通称「猫チン事件」は、日本でも驚くべき実話としてさまざまな論説で紹介され、PL訴訟などに対する備えを説く上で大きな影響を与えてきましたが、不思議なことに、この話についてはこれ以上詳しいことが伝わっていません。

つまり、「○○対●●事件」と裁判の具体名で語られたことがない。いつも、「こんなことが本当に起こる国なのだから」といった紋切り型で済まされてしまうのです。


実際にはこの事件に該当する判例は存在せず、今では、この話が一種の「都市伝説」または「寓話」であることが知られています。「知られています」といっても、すべての人に知られているわけではなく、いまだにこれを「事実」と信じている人もたくさんいるようです。事実無根であるのにここまで話が広がるのは、巷の出版物に「本当にあったコワイ話」の類が多く存在することと同根の事情でしょう。

しかし、「本当にあったコワイ話」のほとんどは、相手が幽霊だったりして「本当になかった話」だからこそ深く知る必要がないのですが、アメリカの裁判では本当にコワイ話がたくさんあります。相手は人間、そしてその話にはアメリカの法律や裁判制度という現実のカラクリが隠されているわけです。


たとえば、やはり有名な、コーヒーをこぼしてヤケドしたおばあさんがマクドナルド相手に起こした訴訟の話は実話(Liebeck vs. McDonald's Restaurants, 1994)で、最終的に何十万ドルという賠償金の支払いがマクドナルドに命じられました。

このように「判例」として残されているならば、その裁判でどのような事実認定がなされ、どのような法律問題が議論されたのかを検討することができます。おばあさんの立場からも、マクドナルドの立場からも、いったい、法廷ではコーヒーによるヤケドをどのように考えるのか、ということを学ぶことができるのです。「これ、本当にあったらしいよ」と話を伝播させるだけでは、人々の心に無用な期待や不安をもたらすだけでしょう。