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アンゼたかし映像翻訳トーク!トーク!トーク!

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菊地流「パクッ、ペッ」の翻訳術とは?

アンゼ: 字幕は秒数も文字数も限られていて、かなり特殊な世界ですよね。そんな字幕翻訳で、いちばん大切なことはなんだと思いますか?

菊地: ぼくにとっては、翻訳に理屈は存在しないんだよね。英語のセリフをパクッと呑んで、ペッと吐き出す――そういう感覚がいちばん大切だと思うんだよ。もちろんわかんない英語が出てきたりして、調べなきゃいけないときもあるけど、やっぱりそこでリズムは崩れちゃう。だけど、理想はパクッ、ペッだね。

アンゼ: ええぇ? パクッ、ペッですか(笑)。つまり、技術的なことよりも、感性が重要ということですか?

菊地: 感性と言えば感性なのかもしれない。ただ、そういうパクッ、ペッの感覚は、学習や経験を積めば、技術としても鍛えることができると思う。

アンゼ: 菊地さん流の「パクッ、ペッ」翻訳術が身についたら、翻訳のスピードが上がりそうです(笑)。

菊地: そうそう、おれ、よくスピードが速いって言われるんだよ。さっきも言ったけど、わからない英語が出てきたり、調べものが必要だったり、勢いが止まることもあるんだけど、基本はパクッ、ペッだから。

アンゼ: それって簡単なようで、ものすごくむずかしいですよね。

菊地: でもパクッ、ペッを実践できると、言葉が感覚になるんだ。映画のセリフっていうのは、登場人物の感性や感覚を伝える言葉だからね。翻訳でも、あまり頭で考えすぎないで、感性を伝えることが大切なんだ。

アンゼ: じゃあ、辞書とかにはあまり頼らないんですか?

菊地: そうだね。どんな辞書を使ってるかよく訊かれるんだけど、基本的に使いませんっていつも答えてる(笑)。もちろん、知らない単語は調べるけど、辞書の言葉をそのまま使ってもそれはセリフにはならないからね。

アンゼ: ですよね。辞書の言葉=セリフではない、というのは同感です。ところで、この仕事を始めてから、菊地さんの字幕で映画を観てびっくりしたことがあるんです。『ターミネーター4』だったんですけど、あの映画の字幕、全体的にかなり短めですよね。こんなに短くていいのかって驚いちゃったんですけど、映画のテンポにすごく合ってるし、そのうえ意味も過不足なく伝わってくる。それ以来、ぼくもアクションのときは字幕を短くしようと心がけてるんです。

菊地: それはいい心がけだよ(笑)。

アンゼ: 最新作『ホワイトハウス・ダウン』も、やはり字幕が短めで、テンポもノリもいいなあって思いました。

菊地: たださあ、あの映画はセリフが多すぎだよ。アクションで字幕が2,000枚以上だよ(笑)。

アンゼ: 短いセリフが多かったからですか?

菊地: いやいや、ニュースのシーンとかは長いセリフも多くて、制作担当者と相談して、アウトを多用したり、普段なら1フィート3文字のところを2文字半くらいにして短くしたりしたんだ。次から次にセリフが続く展開だから、工夫しないと観客が読み切れないよ。

アンゼ: 最近はアクションでもセリフが長い傾向がありますよね。でも、「アクション映画の字幕は短く」が原則ですよね?

菊地: やっぱりアクションはテンポが重要だからね。それによく「本当は字幕はないほうがいい」って言うけど、そのとおりだと思う。観終わったときに、字幕があったことなんて忘れてるくらいがちょうどいい。あんまり字幕が主張しているのは、いただけないよね。ひとつのセリフが3枚の字幕に分かれちゃうなんていうのは、観客にはきつい。もちろんうまくいかないこともあるけど、理想的にはひとつのセリフはひとつの字幕内で完結してほしい。

アンゼ: ぼくも、長いセリフはいつも苦労しています(笑)。でも、短いセリフは短いセリフで苦労しますよね。って、結局どちらも苦労することになるわけですが……

菊地: そうだね。短いセリフだと、その字幕がどの英語のセリフに対応しているのか、はっきり観客にわかっちゃうから、字幕が目立つんだよね。つまり、変なことが書いてあると浮いちゃう。だから、「アクションはセリフが短くていいですね」なんて言われることもあるけど、短いセリフを浮かないように作るっていうのもまた、翻訳者の腕の見せ所なんだよ。

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