在宅フリーランスの翻訳者としてご活躍の坂本真理さん。 Flavor
読み物
Flavor of the Month
<第116回>  全5ページ
2人の娘を育てながら、在宅で仕事をするメリットを実感。 死ぬまで翻訳を続けたいし、生まれ変わっても翻訳者になりたい。

高橋 :翻訳者の方は、子供の頃から読書好きとおっしゃる方が多いですが、坂本さんはいかがでしたか?

坂本 :確かに、子供の頃から本が好きで、アルセーヌ・ルパンやモモ、世界文学全集などを繰り返し読んでいました。古文を習うようになってからは、自分なりにですが、古典を原文で楽しむようにもなりました。振り返ると、古文が好きだったことと、翻訳の仕事にはつながりがあると思います。言葉の連なりの中の非言語的な根っこを解釈して、別の言葉にアウトプットする作業が好きみたいです。無上の喜び、というとちょっと大げさかもしれませんが、それに近いですね。

高橋 :アメリアに登録しているプロフィールに、「生まれ変わっても翻訳家になりたい」と書かれていますよね。

坂本 :そうなんです(笑)。本当に面白くて、この仕事に就けて本当によかったなあと思っています。育休中の、あのひらめきは、大事なメッセージだったのだなと思います。村上春樹さんが29歳のときに神宮球場で野球を見ていて突然「小説が書けるかもしれない」と閃いたというのは有名な話ですが、私も、というと大変おこがましいのですが、すみません、29歳のときに何気なく受け取った、あの啓示のようなものを信じて、翻訳の仕事に飛び込んでよかったです。ずっと翻訳の仕事をしていたいです。

高橋 :子育てと翻訳の両立は大変だと思いますが、どのようにやりくりされているのでしょうか。

坂本 :家族は、夫と娘2人で、上が小4、下が小1です。家で翻訳の仕事をしているので、「今日は遊べる?」と子供たちから毎日聞かれます。ですので、「遊べるよ」となるべく答えられるようにしたいと時間をやりくりしています。下の子が保育園だった頃は、22時に子供と寝て、3時半に起きて仕事をする生活を続けていて、仕事がとてもはかどりました。現在は少し変わりまして、朝6時半に起きて、子供たちを送り出し、家事をして9時頃から仕事、きりのいいところまでやったら夕飯の買い物を兼ねて1時間程度ランニングをして、リフレッシュします。子供たちが帰ってきて、習い事の日は送り出し、また仕事。習い事の迎えに行き、夕飯を食べさせ、家事をして、できるときはトランプなどで遊び、寝かせ、仕事が残っていればまた2時間程度して、寝ます。本当はまた朝型に戻したいのですが。
 私がいつも家にいて、子供がいつでも帰って来られるのは在宅で仕事をするメリットだと思います。長女は「翻訳家になりたい」と言っているので、私の仕事に対して悪い印象は持っていないようです。子供が病気で学校を休んでも、ふだんの何割かのペースで仕事ができるので、女性にとって、翻訳は本当にいい仕事だと思います。

高橋 :最後に、今後の展望などをお聞かせいただけますか?

坂本 :現在のお仕事を続けつつ、もっと教養をつけてゆくゆくは出版の仕事ができたらいいなと思っています。深い知識に基づいて書かれた、智慧が詰まった本は、教養や知識の有機的なつながりをこちらが持ち合わせていなくては太刀打ちできませんから、教養を身につけて、理解し、それをかみ砕いて別の言語で再構成できるようになりたいです。現世では教養が足りないので、生まれ変わった来世でもいいです。私は神話学に興味を持っているのですが、非常に抽象的で難解な概念について書かれた書籍は特に、翻訳の質によって読み手が受け取るものが大きく変わります。優れた翻訳家による訳書は読みやすく、内容がすっと入ってきますよね。そのように、日本でまだ紹介されていない概念を採り上げた書籍を、血の通った日本語にしてみたいです。書籍に限らず、論文の翻訳においても、すごく難しいものが来ないかなといつも思っていまして、難しいものに挑戦したい欲が私にはあるようです。ちょっとこれは歯が立たないなと思うような、抽象的で深い内容の本を翻訳するのが、来世までを見据えた私の夢です。あとは、やなせたかしさんが102歳で亡くなるまで新作のアンパンマンを描き続けたように、死ぬまで翻訳ができれば、もうそれだけで十分だと思っております。

高橋 :今日はお忙しいところを、本当にどうもありがとうございました。2人のお嬢さんを育てながら、翻訳の仕事に情熱を持って取り組んでいらっしゃる様子がひしひしと伝わってきました。ますますお元気でご活躍されますように、応援しています!

■京都大学農学部卒業というプロフィールから、勉強一筋のおとなしい方ではないかと勝手に想像していたのですが、すらりとした長身の美人で、明るく気さくにお話をしてくださり、抱いていたイメージをいい意味で覆されました。専門分野に精通しているだけでなく、読書、古文、車、ファッション、ジョギングなどの趣味も多彩で、さらに神話学にも興味をお持ちとか。好奇心が旺盛で、楽しみながら成長していくポジティブさが、お仕事にも活かされているのだなと思いました。お話を伺ってこちらも刺激を受けましたし、とても素敵な方にお目にかかれて幸いでした。

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