字幕も吹替えも。在宅フリーランスの映像翻訳者、高井清子さん Flavor
読み物
Flavor of the Month
<第125回>  全5ページ
共同作業で作品を作っていく楽しみ

加賀山 :高井さんは字幕も吹替もボイスオーバーも訳されています。どれが好きですか? あるいは、いちばん自分に向いているというようなものはありますか?

高井 :吹替が好きですね。吹替なら盛り込める内容も増えるので、おしゃべり好きの私には向いているかもしれません。
 字幕の翻訳はどちらかというと、あまりクセはつけないのです。もちろん人物の個性は盛り込みますが、文字数の制限もあるし、読み言葉でもあるので、あまりくどい表現はしないように思います。吹替なら、そういうところで「色」をつけて自由に表現しやすい。
 同様に、ボイスオーバーも口の動きに合わせる必要がないので、わりと自由に長さを調整して入れられるよさはありますね。

加賀山 :たしかに。

高井 :とはいっても、吹替はすべての音を拾わなければいけないので、たいへんな部分もあります。たとえば、主人公たちが話しているうしろのテレビでバスケットボールの試合が流れているとしましょう。吹替だと試合のほうも拾って訳さなければいけません。得点が入ったら、わっと盛り上がる感じにしたり。そういう本筋とはあまり関係ないところで、すごく時間がかかったりするんです。
 それに対して字幕の場合には、主だった会話だけを拾うので、「あ、これ訳さなくてもいい」と得した気分になることもあります。どちらかをやったあとでもう一方をやると、新鮮な感じがして、やはり両方好きと再認識しますね。
 いずれにせよ、脚本だと訳したものを送って終わりという一方通行だったのが、字幕のフィードバックや吹替だと制作の過程で人とのやりとりがあるので、みんなでひとつの作品を作っているという楽しさがあります。

加賀山 :たくさん訳されたなかで、印象に残っている作品はありますか?

高井 :劇場公開はされていないのですが、『Queen - A Bohemian Night』という作品の字幕をやったとき、クイーンのDVD発売記念ライブでそれを流すからということで招待していただいたんです。その会場に熱狂的なファンが大勢集まって、食い入るように見ていらして、私も感動すると同時に、本当にこのかたたちに届くことばになっているかなと、ちょっと怖くなった思い出があります。
 最近では、『ハート・オブ・ドッグ〜犬が教えてくれた人生の練習〜』という映画の字幕をつけました。前衛ミュージシャンのローリー・アンダーソンが、夫(ルー・リード)やお母さんや愛犬の死を映像に綴った作品なのですが、身内を亡くされた友人がそれを見て、「台詞が心に染みた」と言ってくれたのがうれしかったですね。
 やはり字幕を担当した『バーバリアンズ セルビアの若きまなざし』という映画は、2008年のコソボ独立運動をめぐる若者たちの物語です。コソボが独立するというのは、日本で言えば、かつて都だった京都が独立するようなイメージなのですが、原語がセルビア語で、英語の字幕がついているのを日本語に訳しました。英語字幕がついていないところは制作会社のかたと相談して大使館に問い合わせていただいたり、大勢の人がかかわった興味深い仕事でした。セルビアの社会状況も学ぶことができました。

 
前へ トップへ 次へ