【アメリア】Flavor of the Month 29 寺田 涼子さん
読み物
Flavor of the Month
<第29回>  全4ページ


仕事を通じて新たな出会い 日本から来る留学生をサポートしたい!


寺田:実は、2年ほど前に、それまでやっていた実務翻訳とライターの仕事以外に何か新しいことをしてみたいと思い、バンクーバーで発行されている在住日本人向けの情報誌に企画を持ち込んだんです。それまで私はバンクーバーの日系社会との繋がりがまったくなくて……。別に避けていたわけじゃないのですが、最初、英語を覚えたくてネイティブの人と積極的に付き合ううちに、自然と日系社会から遠ざかっていたみたいです。ですから雑誌を通して日系社会と繋がりができたことは、私にとってはすごく新鮮なことでした。8年間も暮らしていると、私自身いろんな情報を持っていたんですよね。バンクーバーのレストランやおもしろスポットの紹介記事を書いたり、知り合いのカナダ人を取材してカナダ人の暮らしをレポートしたり……。

坂田:日系社会とまったく疎遠だったというのは意外ですが、それだけに寺田さんにとっても、情報誌にとっても、新鮮な情報がいっぱいあったんでしょうね。

寺田:はい。私にとっては、それまで出会わなかった人たちと知り合いになれたことも大きな出来事でした。例えば、ワーキングホリデーや短期留学でバンクーバーに滞在している20代の日本人の若者たち、そういう人たちと編集部をとおしてたくさん出会いました。実は、そこからまた私の新たな挑戦というか、展開が始まったんですよ。

坂田:新たな展開というと?

寺田:日本からバンクーバーに来ている若者たちがみんな満足しているかというと、そうではありません。日本の紹介機関をとおして留学してきた人たちの中には、「聞いていたことと違う」「情報が不十分だ」といった不満が少なからずあるようなんです。そんな不満や不安を解消してあげようと、日本人の3人の若者がある活動を始めていました。ホームページを立ち上げて、バンクーバーの暮らし方、例えばバスの乗り方やプリペイドカードの買い方を紹介したり、危険地域の情報を流したり、実際に体験してみてわかる必要な情報を提供する活動をしていたんです。私は偶然そのメンバーと知り合ったのですが、彼らもワーキングホリデーで来ていたので、日本に帰る時期が近づいていました。そこで、カナダ在住の私に、この活動を続けてくれないかと。私も話を聞いてこうした活動は留学生にとって必要だと感じました。それから私なりに情報を集め、どのような形でサポートができるか考えた結果、ようやく2004年11月に形になったんです。

坂田:どのような形になりましたか?

寺田:インターネットを通じてオンラインカウンセリングを行う、オーダーメイド感覚の留学アシスタントです。留学とひとくちに言っても、みなさんそれぞれ目的や体験したいことが違うと思います。それぞれの目的に合うように、私が相談に乗りながら留学を形にしていこうというものなんです。興味のある方はホームページをご覧ください。私、書くことは大好きですから、ホームページに思いをいっぱい書きましたので!

坂田:ご自身の特性を生かして、多方面に活躍されている寺田さんですが、寺田さんご本人も、カナダに行って英語圏の文化を学びたいという目的があったのですよね。その成果はいかがですか?

寺田:もちろん、大いにあったと思います。実は、日本で映像翻訳を勉強していた頃、映像だけではなく文芸翻訳にも興味があり、田口俊樹先生のミステリのゼミもとったことがあるんです。その後、ハーレクインのトライアルを受けたのですが不合格で……。もう映像の仕事をしていた頃なのですが、セリフと小説はまた違うんでしょうね。当時はすごくショックで、実力が足りなかったなと。今思うと、それも「カナダに行こう、文化を学びたい」という気持ちを後押ししたのかもしれません。今では、小説を読んでいて以前だと絶対に理解できなかっただろうと思うことが、すんなり理解できます。テレビ番組の名前とか、芸能人のスキャンダルの話とか、「クリネックス」とか「タイラノ」とか……。

坂田:「クリネックス」というのはティッシュのことですよね。

寺田:日本では「そこのティッシュ取って」って言いますよね。それをカナダでは「そこのクリネックス取って」って言うんです。たとえそれが「クリネックス」でなくても。つまり、クリネックスは個別の商品名なのに、あまりにも有名になってティッシュの総称として定着してしまっているということなんです。

坂田:なるほど。では、「タイラノ」とは?

寺田:「タイラノ」というのはこちらでは一番ポピュラーな頭痛薬の名前です。「タイラノ買ってきて」というと、その商品そのものじゃなくて、「頭痛薬を買ってきて」ということ。だから、小説の中にこのフレーズが出てきたら、今なら迷わず「頭痛薬を買ってきて」と訳しますね。

坂田:そういうことは、実際に暮らしてみるとたくさんあるんでしょうねえ。

寺田:そうなんです。今は新しく始めた留学サポートの仕事に全力投球ですが、これまでに蓄積した知識を生かして、いつかはきっとエンターテインメントの翻訳をしてみたいと思っています。


 
  バイタリティ溢れる寺田さん。翻訳からスタートした人生は、さまざまな方向へと広がりをみせています。それをまた翻訳に生かせる時期がいつかきっとくることでしょう。
 

前へ トップへ