【アメリア】Flavor of the Month 39 中尾裕子さん
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Flavor of the Month
<第39回>  全6ページ


数え切れないほどの失敗や挫折……。 あの1年があったからこそ今がある

坂田:フランスに渡って10年ですね。おそらく、長くて短い10年間だったことと思います。フランスで勉強するという強い意志があったからこそ続けられたのですね。

中尾:でも渡仏して間もない頃は迷いもあったんですよ。実は、日本の大学を卒業するとき、フランスに留学する以外に、航空業界で働きたいという夢もあったんです。新卒採用に応募したのですが、ちょうど日本の客室乗務員が1年契約アルバイトの雇用形態に移行している時期で、業界は前例を見ない氷河期でした。結局、採用にはならず、1年間勉強をして再トライするか、もうひとつの夢であるフランスの学部入学を取るか、最後の最後までとても悩みました。結局はフランスに発ちましたが、勉強が思うように進まず、このまま続けていけるのか自信をなくして、実は渡仏1年後の1997年に一度日本に戻り、再び航空関係にトライしたんです。ほんと、諦めが悪いですよね。関西空港の地上職でしたが、最終面接までトントン拍子にいったのですが……。

坂田:何があったのですか?

中尾:最後の面接で「フランスで学生をやっていますね。うちの会社に合格したら、どうしますか」という試験官の質問に答えられなかったんです。言葉に詰まってしまった。数秒の沈黙が、フランスに未練のある私の気持ちを代弁していました。試験官の方々がそれを見逃すはずがありません。

坂田:フランスでの学生生活は泣きながら勉強するほど大変だったのに、最終面接で言葉に詰まってしまった。つまり、それだけフランスが大好きになっていた、ということなんでしょうね。

中尾:そうなんですね。坂田さんに言われて気がつきました。「自分らしく」生きることのできるフランスの空気になじんでいたのかもしれません。でも、数え切れないほどの失敗や挫折を味わったあの1年があってこそ、今の私がいるのだと思います。そうして初めて、今の私が好きだと自信を持って言える。そう思うと、今までの人生の中で、もっとも豊かで貴重な1年だったと思うんです。すみません、なんだか1人で熱くなってしまいました。

坂田:そこに身を置いているときは苦しいだけだけど、後から振り返ってみると何ものにも代えがたい貴重な時間だった、そういう時期ってありますよね。

中尾:結局、そのとき帰国して以来、2003年までの6年間、一度も帰国できませんでした。ですが、この時の苦労が今の自分を作ったのだと思います。フランス語で書く力も飛躍的に伸びましたし、同時に、フランス語で考える思考法も習得することができました。
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