【アメリア】Flavor of the Month 46 田中健彦さん
読み物
Flavor of the Month
<第46回>  全6ページ


サラリーマン生活後半で思いがけず海外駐在が実現

坂田:
同期で一番に部長になったそうですね。

田中:そうなんです。私のグループに新しい上司が来たときに、自分の部門の説明をしたのですが、それが非常にわかりやすかったと気に入ってもらえて、その後、その上司に推されて部長になることができました。

坂田:中学生の頃から培ってきた文章力や表現力が役に立ちましたね。

田中:このまま、もしかしたら社長にまでなれるかなと思ったりしたのですが、あるとき上司と非常に気まずい関係になって、窓際に左遷されてしまったんです。このときは絶望しました。どうしてこんなことになってしまったんだろうと、後悔の念で眠れないこともありました。でも、落ち込んだときは、ある意味チャンスでもあるんですよね。実は今回私が訳した本の中に、どこか軌道から外れてしまい、今のままではダメだというとき、それを気づかせてくれるものがあるということが書いてありました。原文で「wake-up call」と表現されていたものを、私は「警鐘」と訳したのですが、まさにこのことだと思いました。そのとき私は会社を辞めようかとも思いましたが、家庭もあるし辞めるわけにもいかず、1年くらい我慢していました。その様子と直属の事業部長が見てくれていたらしく、アメリカでパソコン販売のための子会社を立ち上げることになったときに、「お前もついてこい」と言ってくれたんです。「あいつは英語ができるから」と。思わぬ形で私の長年の夢が実現することになりました。

坂田:まさに、入社時に考えたとおり、技術さえ磨いていれば、いずれは英語力が生きる時がくる、というのが現実になったのですね。

田中:でも、アメリカでは思わぬ苦労をすることになるんです。アメリカに渡ったとき、自分は通訳ガイドの資格を持っているくらいだから英語で苦労することなどないだろうと思っていたんです。ところが、現場で英語の会議に出ると、まったくちんぷんかんぷんで、自信はぺしゃんこにしぼんでしまいました。それに、会議ではアメリカ人は英語ができるはずの私に決定の是非を問うてくるんです。これには困りました。日本の代表だから、どう答えても責任が問われます。これは大変だと思い、結局、海外にいた10年間、ずっと日本から英語の通信講座の教材を取り寄せて勉強をしていました。

坂田:現地にいるのだから、それで十分に英語の勉強ができると思うのですが。

田中:そうですね。ただ、私の経験からいうと、ヒアリングで重要なのは、単語を覚えること、イディオムを覚えること、そして現地の生活を知っていること、その3つだと思うんです。ただ、それらをすべて現地で暮らすだけで十分に身に付けることができるかというと、それは無理です。その不十分な部分を通信講座で補っていました。

坂田:ヒアリングで重要な「現地の生活を知る」というのは、具体的にはどういうことですか?

田中:そうですね。例えば、駐在したばかりの日本人はよくスーパーのレジのおばさんに“Paper or plastic?”と聞かれて慌てるようです。レジ袋を紙かビニールかどちらにするか、と聞いているのですが、スーパーでは袋を紙とビニールから選べるということを知っていれば簡単に聞き取ることができるでしょう。

坂田:なるほど。通信講座で勉強しながら、現地で毎日実地訓練をしているわけですから、英語はさらに上達しますね。10年間駐在をして日本に戻っていらっしゃったんですよね。

田中:はい。帰国したときは、もう定年が近づいていました。現地では経営に携わっていましたので、その経験を無駄にするのは惜しいなと思っていたら、国内の会社の社長を任され、数年間はさらに経営の勉強をすることができました。60歳で第一線を退くときには、もう会社勤めはいいと思いましたね。

坂田:そして、定年後に選んだのが翻訳だったわけですね。
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