【アメリア】Flavor of the Month 49 安本智子さん
読み物
Flavor of the Month
<第49回>  全4ページ


時間が経つのを忘れるほど好きになった翻訳

坂田:通学しての勉強というのは、どのような内容だったのですか?

安本:翻訳だけに限定せず、しゃべることも含めたトータルな英語力をもっと伸ばしたかったので、英語そのものの勉強にも力を入れていました。京都の授業というのは、文学の博士号を持つネイティヴの先生について英米文学関係の原書を毎週範囲を決めて読み、それについて英語でディスカッションする、というものでした。授業はとても面白かったです。この頃、英検1級も取得しました。

坂田:翻訳だけに絞らず、トータル的な英語の勉強をしようと思ったのには、何か理由があったのですか?

安本:京都で勤めていた会社というのが語学関係の会社で、小さいながら進学塾と語学スクール、翻訳サービスをしていました。その社長という人が、英語とドイツ語がケタ外れにできる方で、地獄の魔王のように厳しく怖い人でもありました。口癖は「もっと英語の勉強しろ」。その影響でしょうか、翻訳と口にする以前に、もっと英語やらなくちゃ、という強迫観念がありました。それで翻訳だけに絞らず、広く英語の勉強をしようと思ったわけですが、結局のところ、英語力の有無は翻訳できるかどうかに如実に表れるので、翻訳の勉強をするということが、英語の勉強をすることと最終的には同じになっていきましたね。

坂田:英語の勉強をなさって、やはり最終的に翻訳を志したのはどうしてですか?

安本:勉強をしてみてわかったのは、翻訳をするのが好きなんだということでした。翻訳をしていると、時間が経つのを忘れるし気が晴れる、と気付いたんです。私は英語のリズムがすごく好きです。読んだ英文が耳に聞こえてきて、それは日本語にしたらどんな感じか、ということを考えるのが楽しいんです。とことん好きな小説は、原書のオーディオ・テープを買って音楽みたいに聞きます。で、テープそっくりにしゃべってみたりして。どっちかというと音楽的なつかみ方ですが、そうして得られた感覚を自分なりに日本語にうまく生け捕れるか……そのあたりが私にとって翻訳の醍醐味です。翻訳家になれるかどうかはわからないけど、それを頑張る以外はないと思うようになりました。

坂田:この頃、アメリアにも入会されたとのことでしたよね。

安本:はい。今から10年ほど前ですので、アメリアWebサイトはまだありませんでした。定例トライアルを受けたりしていましたが、何よりも楽しみだったのが、大阪で行われる関西セミナーでした。

坂田:セミナーのどのようなところがよかったのですか?

安本:あの頃は地方で翻訳家を目指して勉強している人たちは、みんな本当に必死の思いだったはずです。私なんて、翻訳の勉強をしていながら、出版社の人はおろか、一線で活躍している翻訳家と呼ばれる人に、実際に会ったことすらなかったです。翻訳家に会った人に会うのが精一杯で(笑)。そんな遠い世界と自分が唯一つながれる機会が、フェロー・アカデミー主催で行われる関西セミナーでした。当時、関西セミナーの熱気というのは、ちょっと説明できないくらいの凄味がありました。何一つ聞き逃すまい、みたいな。まさに飢餓感です。ホントにすごかったですよ。翻訳家の田村義進先生が来てくださったときは、懇親会で参加者の数人が先生を拝み倒して、関西ゼミの講師を引き受けていただくことになったんです。隔月で先生には東京から来ていただき、翻訳勉強会を行いました。私も懇親会に参加していた縁で、参加させていただくことができました。

坂田:熱意ある生徒の集まりですから、授業も自ずと質の高いものになっていくでしょうね。

安本:そのとおりです。それまで受けていたどの授業よりも刺激的で楽しかったです。そのうちに、やはり東京で翻訳の勉強をしたいと思うようになり、これも関西セミナーで出会った出版社さんでアルバイトをさせていただけることになって、家族や友人に「翻訳家を目指したいから、とにかく1年行ってみる」と宣言して、1999年の春に上京しました。かなり無鉄砲でしたけれども、あの決心がなければいろんな意味で今の私はいないので、よかったと思っています。

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