【アメリア】Flavor of the Month 58 上田さおりさん
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Flavor of the Month
<第58回>  全4ページ


学ぶことの多いボランティア翻訳で仕事の疑似体験を

坂田 現在も続けているという環境に関する記事のボランティア翻訳について、もう少し詳しく教えていただけますか。何年くらい続けていますか?

上田:もうすぐ3年になります。英訳チームの作業に絞っていうと、ボランティアではありますが、1年に30本というけっこう厳しいノルマがあるんですよ。元の日本語の文章も、ボランティアの和文記事作成チームの方がさまざまな情報を集めて書いています。記事の内容は、日本における環境に関するさまざまな活動などで、それを英語に訳して世界に発信するのが私たち英訳チームの活動です。

坂田:具体的に、どのような流れで英訳は完成されるのですか?

上田:まず、英訳ボランティアが日本語記事を英語にします。それを日本語がわかるネイティブのボランティアの方がチェックして、さまざまな工程を経た後、ブラッシュアップされた英文がサイト上に掲載されます。自分の英文をチェックしてもらえるので、比較することで非常に勉強になります。

坂田:環境に関する翻訳となると、専門用語もたくさん出てくるでしょうし、かなり難しいのでは?

上田:環境とひとことでいっても幅広い分野の記事があり、ほとんどが自分の知らない内容なので、まず翻訳する前に元の日本語で書かれた事実を十分に理解する作業が大変です。例えば、最近翻訳した記事のテーマは、“畜産排水を人工湿地で濾過する”というものでした。日本語で聞いても何のことかよくわかりませんよね。専門用語をGoogleで検索して意味を調べ、元にしている記事やプレスリリースを探し当てて補足情報を得ます。それを調べ尽くしてから英訳ですが、関連のある英語のプレスリリースなどが見つかれば非常に参考になるのですが、たいていはそういうものはなく、日本語の専門用語にどのような英語を当てはめればよいのか、また調べ物が始まります。

坂田:確かに、環境分野の情報は日進月歩ですから、適当な英訳のない単語も多いでしょうね。調べ物以外にも難しいと感じるところはありますか?

上田:英文の構成を考えるのが難しいですね。Aという日本文が必ずしもAという英文になるわけではなく、必要に応じて2文に分けたり、順番を入れ替えたりしなければなりません。最初に日本語の文章を全部読んで、英文の構成を組み立てますが、そこでかなり頭を悩ませます。

坂田:日本語ではこう伝えているけれども、英語では語順を変えて書いたほうが伝わりやすいというような場合があるということ?

上田: それもありますし、場合によっては日本語にはまったく書かれていないことが最終的にネイティブチェッカーによって書き加えられることもあります。

坂田:日本人にはわかるけれども、英語圏の方が読むとわからないような内容に補足しているということですね。

上田:そうですね。そうした言外を読む必要性などを、このボランティア翻訳を通して学びました。

坂田:そういう補足は、本当に日本語を理解できていないと無理ですよね。

上田:そうですね。実はネイティブチェックはサイトにアップされる前の最後のチェックで、その前にボランティア同士のメーリングリストがあって、そこに英訳をアップするんです。すると、たくさんのフィードバックが返ってくるんです。ボランティア翻訳をしている方の中には、プロの翻訳家として活躍している人もたくさんいらっしゃるので、かなり鋭い指摘が返ってきます。そこである程度、英文がこなれてくるのですが、それでもやはり、最終的にネイティブチェックの手を通してアップされた原稿は、たとえ英文が間違えていなくても変えられていることがけっこうあるんです。

坂田:正しいだけではだめ。読みやすく、読み手がすんなりと理解できる英文でないと、ということですね。何段階もチェックが入り、ボランティアとはいえ、かなり大変そうですね。

上田:はい、みっちりと鍛えられています。3年前に始めた当初は英訳の経験が少なく、なかなかコツが掴めませんでした。最初は1人でするのではなく、二人でメールのやりとりをしながら英訳を完成させるパターンもあり、慣れるまでそちらをしていました。メールのみのやりとりでしたので、相手に誤解を与えないよう、言い方にも気をつけなければならず、そこでは翻訳だけではなくコミュニケーションの取り方もずいぶんと学べたと思います。それから、公式にサイトに掲載する記事ですのでスタイル集がきちんとあって、それに従わなければなりません。提出する前に体裁を整えるなど、実際に翻訳の仕事を納品するときがまさにそうだと思うのですが、このボランティアを通してその疑似体験をしている気がしています。

坂田:すべて、実際の仕事を始めたときに役に立ちそうな経験ですね。

上田:一時期は1週間に1本の割合で翻訳していましたが、あれは相当きつかったです。でも、それが今のオンサイト翻訳という仕事にも生きていると感じています。それは上司に、「最初のときと比べて、英訳の質が向上しましたね」と言っていただいたときに実感しました。

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