【アメリア】みんなで作るインタビュー7・酒井弘樹さん紹介編
 
  みんなで作るインタビュー


 [紹介編]
読み物  
日本の優れたエンターテインメント作品を世界に紹介したい。そんな思いを胸に米国へ渡った酒井弘樹氏。さまざまな壁にぶつかりながらも、遂に今年、米国市場で日本人作家作品の英語版出版をスタートさせました。

第7回 酒井弘樹さん
 
<第7回> 紹介編|インタビュー編 1インタビュー編 2  全3ページ
 
日本のエンターテインメント作品を米国市場で翻訳出版する

 2003年春に『Ring』(「リング」鈴木光司著)、『Twinkle Twinkle』(「きらきらひかる」江國香織著)、『Ashes』(「棒の哀しみ」北方謙三著)、『The Guin Saga』(「グイン・サーガ--第1巻」栗本薫著)の4点を相次いで出版。Vertical, Inc.は、米国市場において日本のエンターテインメント作品の翻訳出版を本格的に開始した。
「アメリカで出版社を!」社長の酒井氏がそう決めたのは2年前のこと。「それまでは試行錯誤の連続。みずから出版するのではなく、私が選んだ作品をアメリカの出版社に売り込もうと考えた時期もありました」(酒井氏)。しかし2年前に現在、同社の編集長であるIoannis Mentzas氏が会社に加わったことで、その考えは変わった。“最高品質の英文の追求”そして“米国の文化を考慮した市場に受け入れられる作品の選択”が可能になり、出版社を目指す決心がついたのだった。
 
なぜ、ここまで日本の小説が海外に輸出されなかったのか

 輸出大国の日本でありながら、なぜ小説に限って今まで輸出されなかったのだろうか。
「ひとつは国内マーケットだけで成長してこられたので、あえて輸出を考える必要がなかった。もうひとつは、和訳者の数と質に比べ、英訳者が圧倒的に少なかったからだと思います」(酒井氏)
 日本の小説が、今まで全く英訳されなかったというわけではない。三島由紀夫、谷崎潤一郎、太宰治、川端康成といった純文学、源氏物語などの古典は翻訳されており、米国の知識層の人々はこうした作品に親しんでいる。あるいは村上春樹、吉本ばななの作品は米国でも有名だ。これらは作家個人が独力で成功したケースである。
「日本の大衆小説、エンターテインメントは質が高く、世界でも十分に通用するはずです。だから私は、日本人作家の作品が米国の一般大衆の手に届く仕組みを作りたいのです。作品選び、英語のクオリティから、流通の仕組みまで、これを完成させることを目指しています」
 
英訳は英語ネイティブでなければできないのか?

 「現状では、翻訳者はすべて英語ネイティブの方にお願いしています」と酒井氏。しかし、「英訳は英語ネイティブでなければ無理だとお考えですか?」との問いに対しては、「無理ではないと思います」という答えが返ってきた。
「英語ネイティブの方は日本語の解釈を間違える可能性があります。その間違いを細かくチェックしていくことは、たいへんな作業になります。今はまだ出版点数が少ないので、細かいところまで確認していく余裕もありますが、将来的にはそもそも日本語の解釈に間違いがないようにしていきたい。その場合、日本語ネイティブの方が、100%日本語を理解したうえで、なおかつ素晴らしい英語に訳してくれれば、それに越したことはありません」(酒井氏)
 
日本語を十分に理解し、質の高い英語に置きかえるには

 しかし、日本語ネイティブであれば、日本語を100%理解できるとは限らないとも言う。
「日本人でも、アメリカ人でも、母国語の下手な人は大勢いますからね。翻訳者というのは片方が優れているだけではダメ。やはり両方が優れていないと。特に文芸翻訳というのは正しければいいというものではないので、余計にそうですね」(酒井氏)
 2003年秋にはアニメ作品『BUDDHA』(「ブッダ」手塚治虫作)ほか全6タイトルを、さらに2004年には20タイトルを発行の予定。準備は着々と進んでいる。「実は、来年発売の作品の中には、日本人翻訳者が翻訳を行っているものもあります。ただし、奥さんが日本人、旦那さんがアメリカ人というご夫婦。必ずネイティブチェックとセットでお願いしています」(酒井氏)
 日本語を完全に読み解き、そしてリーダブルで、リズムがよく、小説として読み応えのある英語に仕上げるために、酒井氏の試行錯誤はまだまだ続く。
 
若い世代の翻訳者の活躍を大いに期待しています

 酒井氏が米国市場に持ち込もうとしているのは、日本の今を代表するエンターテインメント性の高い作品ばかりだ。従って、若い世代の文化や言葉遣いを知らないと日本語の作品を読み解くことも、時代に合った英文に訳すこともできない。
「例えば、50年前の子どもが使っていた英語と、今の子どもが使っている英語は違います。我々が翻訳をお願いしたいのは、最近までアメリカの大学で学んでいたような、今の若者の言葉や文化を知っている人なのです」(酒井氏)
 言葉は生き物だ。それをうまく扱うには、常に時代を意識し、積極的に新しい言葉を学んでいく姿勢が必要なのだろう。

一見シンプルだが実は奥の深い、そんな英訳を

 酒井氏は、既に発売になっている『Twinkle Twinkle』(「きらきらひかる」江國香織著)の最初のページを開いてこう言った。
「読んでみてください。英語は非常にシンプルでしょう。江國さんの小説は、良く言えば“情緒的”、悪く言えば“あいまい”です。ひとつの言葉にふたつの意味が重なっていたり、センテンスとセンテンスの意味が通じていないんだけれど、日本人なら想像力で補って意味が理解できる、そういう表現を江國さんは意図的に使っています。それを単純に訳すと物語が死んでしまう。このシンプルな英語が、実はどれほど絶妙に訳されているか、ぜひ、『Twinkle Twinkle』の英語を原文と比べながら読んでみてください」

 ヴァーティカル社の目指すエンターテインメント翻訳について、お話を伺いました。新しい分野だけに、みなさん聞きたいことがたくさんあるのではないでしょうか。この機会に、どしどし質問をお寄せください。(※質問の受付は8月3日で終了いたしました。)
 
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