【アメリア】みんなで作るインタビュー10・田口俊樹さん 紹介編
  みんなで作るインタビュー


 [紹介編]
読み物  
翻訳者は著者に会うことはあるのか?
一読者として、また出版翻訳を目指す者として、この問いが気になりませんか?今回、この疑問に翻訳家の田口俊樹氏が答えてくれます。
2005年3月15日に発売された田口氏の近訳書『オルタード・カーボン』で、氏はこの作品で本国イギリスでも一躍有名になった新人作家のリチャード・モーガン氏と直接、話をする機会を得たそうです。その経緯、そして翻訳者と著者は何を語り合ったのかを伺ってみたいと思います。

 第10回 田口俊樹さん
<第10回> 紹介編 |インタビュー編  全2ページ

プロフィール

【訳者 田口俊樹 Toshiki Taguchi】
1950年奈良市生まれ。早稲田大学文学部英文科卒。出版社勤務、児童劇団スタッフ、都立高校教員を経て『ミステリマガジン』から翻訳家デビュー。訳書にローレンス・ブロック『八百万の死にざま』(ハヤカワ・ミステリ文庫)、ボストン・テラン『神は銃弾』(文春文庫)、ジョン・ル・カレ『パナマの仕立屋』(集英社)、ジェフリー・アーチャー『獄中記』(アーティストハウス)、マイケル・グルーバー『夜の回帰線』(新潮文庫)など多数。著書に『ミステリ翻訳入門』(アルク)、『おやじの細腕まくり』(講談社)。

※田口氏が翻訳者になるまでの経緯については、アメリアWebサイト「対談の部屋-第4回ミステリ翻訳界のふたりの雄〜青春時代を共に過ごした旧友〜」でご本人が詳しく語っています。そちらもあわせてご覧ください。


【著者 リチャード・モーガン (Richard Morgan)】
1965年ロンドン生まれ。イーストアングリア(イングランド東部地方)で育つ。ケンブリッジ大学卒業後、英語講師としてイスタンブール、マドリード、ロンドン、グラスゴーなど各地を転々とする。処女作である本書『オルタード・カーボン』は2002年にイギリスで出版され、そのわずか3カ月後、ベストセラー・ランクにも入っていない時期にワーナー・ブラザーズが映画化権を35万ポンド(約7000万円)で買い、年収450万円ほどの英語講師であったリチャード・モーガンは専業作家への道を歩み始めた。本書の続編とも言える『BROKEN ANGEL』、第3作『MARKET FORCE』(いずれも邦訳はアスペクトから刊行予定)も好評。大の日本びいきで村上春樹の小説、北野武の映画が大好き。12カ国語に堪能。


オルタード・カーボン
リチャード・モーガン著
田口俊樹訳
アスペクト
※「あらすじ」を知りたい人は本の画像をクリック!

   

※2004年10日行われた対談の一部がこちらでご覧いただけます。

田口氏の翻訳スケジュール

2004年8月


本作品の翻訳をはじめる
  ……翻訳期間3カ月の予定
2004年10月 ロンドンで著者に会う
  ……半分ほど翻訳が終わったところ
2004年12月上旬 一通り訳し終わる
……予定を1カ月余りオーバー
2004年12月下旬 疑問点を解消して訳了
  ……疑問点は著者にメールで質問

翻訳者と著者が会う機会

 100冊以上の訳書を持つ翻訳家・田口氏。これだけの訳書があれば、著者に会った機会も少なくないのでは?「実際にお会いしたのは、長く訳している“私立探偵マット・スカダー”シリーズの著者であるローレンス・ブロック氏ぐらい。翻訳者が著者に会う機会というのは、そう頻繁にあるものではないんですよ」。では今回、著者のリチャード・モーガン氏と会うことになった理由は何だったのだろう。「モーガン氏は新人作家であり、出版社もこの作品には力を入れていました。そこで、ぜひ直接お会いして親交を深めておこうと。それから、ちょうどフランクフルトでブックフェアが行われていて、それを見てみたいという気持ちもあり、ブックフェアの後にロンドンに移動してモーガン氏に会うことになりました。“どうしても会わなければならない”というよりは、“さまざまな事情が重なって会うことができた”という感じが正直なところです。でも、実はそのおかげで、その後の翻訳作業が随分と楽になったんです」

5本の指に入る超難解な作品

 その後の翻訳作業が楽になったとはどういうことだろうか。「お会いしたのは半分ほど訳し終わった頃だったのですが、とにかく聞きたいことがいっぱいあったんです」と田口氏。通常は、辞書やインターネットで調べ物をし、それでもわからない個所があればネイティブの友人に聞いて疑問点を解消する。たいていの場合、それで事足りるという。「しかし、今回はそうはいきませんでした。内容はエンターテインメントですが、何というか、純文学風の練った書き方とでも言えばいいかな。とにかく英文が難しい。長文だったり、倒置があって構文を理解するのに時間がかかったり……」。田口氏をここまで悩ませたのは、エルモア・レナード、ジョン・ル・カレ、ボストン・テラン、マイケル・グルーバーに次いで5人目だという。「こういう作品に出会うと、やはり文法は大事だなと改めて感じますね」

翻訳者は著者に直接質問をするものなの?

 その後、疑問点のやり取りはメールで行われた。「全部で100個所ぐらいは尋ねたんじゃないかな。2、3日に1度はメールをしていました。すぐに答えが返ってくるので、ありがたかったです」。著者に疑問点を尋ねるというのは、よくあることなのだろうか。「翻訳者によると思いますが、僕はほとんどしませんね。いくらメールが発達しても、会ったことのない人に聞くのは気が引けますから。以前、ボストン・テランの『神の銃弾』を訳したときに、どうしてもわからない個所があったので、出版社を通して聞いてもらったことがあるくらいです。その点、今回は直接お会いしていたので、聞きやすかったです」

田口氏にとって初のSF作品

 数多くの訳書を持つ田口氏だが、意外にもSF小説は初めてだという。そこで遭遇したのが、SF小説にはおきまりの造語だ。未来の世界には現在にはない物や言葉があるのが当たり前。しかし、それは翻訳者泣かせでもある。「例えば“elephant ray”。elephantは象、rayは魚のエイのことですが、それを合わせたエレファント・レイなどという動物は存在しません。未来世界を表現するためにわざと未知の生物を登場させているわけで、先を読んでいくとわかるようになっているのですが、翻訳している者としては手探り状態だから不安なわけです。それが今回は直接会って聞くことができたので助かりました」

「作家にとって大切なもの」は?

 著者に直接会って話をしたことで、翻訳は変わるものだろうか。「具体的にこの訳語がこう変わったということではないですが、こちらの心構えが何らかの形で訳文に出ているとは思います」。今回、田口氏はモーガン氏にこんな質問を投げ掛けたという。「作家にとって大切なものをふたつ挙げてください」。実は、田口氏は以前、作家ローレンス・ブロック氏に会った際にも同じ質問をしていた。その時のブロック氏の答えは“courage and honesty”――勇気と正直さだったという。さて、モーガン氏の答えは?「モーガン氏はかなり長い黙考のあと、ちょっと照れくさそうに答えてくれました。この答えを聞いて、僕自身、なぜこの作品に惹き付けられるかがわかったような気がしました」。モーガン氏の答えは、田口氏がみなさんからの質問に答えてくれる[解答編]でご紹介することにしたい。それまでに、みなさんも作品を読んで考えてみてはいかがだろうか。
 
みなさんから田口俊樹氏への質問を募集します。また、質問だけでなく、『オルタード・カーボン』を読んでの感想もお待ちしています。どしどしお寄せください。

  ※質問の受付は5月27日で終了いたしました。
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