【アメリア】それいけ字幕翻訳者!

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それいけ字幕翻訳者!

 
連載第1回 字幕制作はチームワーク スピードが肝心です

「○○のインタビューです、全訳30分、明日までに。できますか?

ビデオはバイク便で送ります。使いどころを決めた後で字幕もお願いします」

「急に納期が早まっちゃって、締め切りは明日。Mdb ファイルは直接スタジオへ」

「本編110分のスポッティング修正を2日で。きれいに打ってね」

「5分の映像が20本。ヒアリングから3日でできますか?」

――映像翻訳会社ではこうしたやり取りが日常茶飯事です。

みなさん、こんにちは。今月号から1年間、コラムを書かせていただくことになりました佐藤尚子です。映像制作の現場に足を踏み入れてかれこれ20年。制作会社のアルバイトからスタートし、フリーランスの翻訳者としてスポッティング(Q打ち)と字幕翻訳を続け、現在は翻訳会社ワイズ・インフィニティのチーフマネージャーをしています。制作現場で働く者の立場から、今と昔、そして未来に思いを馳せて、字幕翻訳のお話をみなさんにお届けしたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

冒頭では現場のやり取りの一部を再現してみました。慌しい現場の雰囲気を少しでも感じてもらえたでしょうか。

「字幕制作ってどんな仕事なの?」「Mdb ファイルって何?」「スポッティング修正ってどんな仕事なの?」と、初めて聞く言葉に戸惑いを覚えた方もいらっしゃると思います。かくいう私も、子供の頃から映画ファンで、映画やテレビ番組を楽しく見てはいたものの、制作現場のことは何も知りませんでした。ですから、専門用語や仕事の流れは現場で仕事をして初めて知ったのです。そんな現場で使われる言葉にもできる限り説明を加えていきますので、これから字幕を勉強しようとする方も安心して読み進めてください。

映像翻訳の世界はここ数年で大きく変化しました。CS 放送、BS放送、DVD、ブロードバンド、地上波、携帯コンテンツなどの普及で、映画だけでなく、海外ドラマ、ドキュメンタリー、アニメーション、情報番組、ニュース、スポーツなど、ジャンルの幅も広がり、映像翻訳の仕事はあれよあれよという間に増えていきました。かつては英語圏の作品が中心でしたが、現在は、韓国語・北京語・広東語などのアジア系の作品が、熱烈なファンの支持を得て続々と登場し、人気はとどまるところを知りません。あらゆる言語の映像を劇場やお茶の間で観ることが可能になったのです。映像翻訳会社も、このスピードに負けず劣らず、勢いよく走りに走っています。

「早くON・AIR に間に合わせないと! 早く世界と同時に発売しないと! 早く!早く!早く!」と、何十本、何百本の作品が日々作られているのです。このスピードは私が駆け出しの頃には想像もできませんでした。スピードが命! 映像制作爛熟時代といえるかもしれません。

先日も、ひと晩で仕上げてほしいとスポッティング調整と文字校正の依頼をいただきました。英語ではないので私には少しやっかいな仕事です。最終チェックが終わったのは明け方の4時。その頃には、目はしょぼしょぼ、おなかもグーグー、のども渇いていました。

体力的には辛かったのですが、作品がすばらしかった! ヨーロッパのミュージカルで、歌も踊りも、カメラワークも、魅力に溢れていて、この映画を観て楽しんでくれる人のことを想像すると、自然とエネルギーが沸いてきました。お客様から「よくできていました」との言葉をいただいて仕事は終了。「ここはちょっとね……」のご注意も貴重なアドバイス。痛いところをつかれても、仕事の血や肉になると思うと、ありがたい限りです。

私は、スタッフからはよく「職人ですね」と言われますが、恥ずかしながらもお褒めの言葉と受け取っています。私が出会った先輩方は、字幕翻訳者に限らず、映画を心から愛する職人気質の人々でした。表に名前は出なくても、映像字幕の世界を陰で支えてきたプロフェッショナル。私の気質も、そうした魅力的な先輩方を見習って身についたものです。ですから、「職人」と言われると先輩方の仲間入りができたようで嬉しいわけです。

一本の作品をよりよく仕上げるためにはさまざまな役割を担う人が必要です。翻訳会社ではスポッティング・演出・文字校正・チェックといった、いろいろな仕事があります。それぞれの個性を最大限に生かしたチームなしには、良い作品はできないのです。

具体的に仕事の流れを説明しながらお話をしましょう。

一本の映像作品、あるいはシリーズ作品のチームを決定するのが“字幕翻訳コーディネーター”と呼ばれる人です。私たちの翻訳会社では、大手制作会社から、あるいは映画会社から、素材チェックが済んだ映像とスクリプト(原語台本)をいただくところから仕事が始まります。これらが届くと即座に字幕翻訳コーディネーターがチーム編成をするのです。作品を見て、仕事を依頼する翻訳者を厳選し、他にも演出者やチェッカーなど3〜6名ほどのスタッフを揃えます。お客様との交渉、スケジュール管理、最終チェックも任されます。スポッティングや演出も熟知したオールラウンドプレーヤー、それが字幕翻訳コーディネーターです。翻訳チームの人選で作品の質が7割方決まってしまう場合もあるので、私はとても重要な仕事だと考えています。時には翻訳者のお尻を叩いたり、なだめたり、翻訳者のよき相談相手にもなる懐の深い人物でなければなりません。翻訳のお仕事をなさっている方は、常日頃お世話になっている担当の方を思い出してください。あなたに翻訳をお願いするということはそれなりの考えがあってのことです。少なくとも誤字・脱字はなくし、納期はしっかり守るように心がけて、一緒によい作品を作りましょう。

   

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