【アメリア】対談の部屋6-2ビジネスマンはこう変わる〜サバイバルを超えて
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対談の部屋
<第6回>   全4ページ

第6回 『プレジデント』編集長と語るビジネスと翻訳の未来
2.ビジネスマンはこう変わる〜サバイバルを超えて


● デフレ経済に必要な“自発的忠誠心”


藤原:ウチが徳川家康やってた頃と今では、経済環境が大きく変わったからね。高度経済成長期のビジネスモデルは、メーカーがよりよいものを作ってそれを商社が売る。事業が膨らむもんだから銀行が融資する。それで経済が成長するというモデル。そういう時代が安定的に続いた。

吉本:銀行を中心とする間接金融は“お付き合い”の世界だから、あまり変化がない。株も企業同士で持ち合いだから、これも変化がない。60年代までは為替も固定相場でね。

藤原:70年代から為替が動き始めても、コスト削減で頑張った。80年代半ばの円高不況もコスト削減で乗り切った。これはこれでスゴイことだけど、今はかつてのビジネスモデルが完全に崩れて経済のパイが大きくならないわけだよ。

吉本:基盤から変わってしまったわけだね。銀行も、しがらみを断ち切ってなかなか貸さなくなったし。銀行が貸さないってことは株や債券を発行しなきゃいけない。直接金融でやるとなると、“お付き合い”じゃすまなくなる。

藤原:直接株主を相手にする場合は、もっと業績主体になる。業績に対する意識の変化にも対応しないといけない。昔は売り上げがすべてで、売り上げが増えれば利益も増えた。今は売り上げが増えても利益が増えないし、利益よりもキャッシュフローが重視されるようになった。

吉本:投資家は、論理的、合理的に攻めてくるから。借り手市場だったバブル時代のファイナンスは別として。

藤原:日本人に苦手なのが論理的思考だからね。すぐ感情論になる。松下幸之助のようなカリスマ性がないという前提で人を動かすには、徹底した論理性、合理性しかない。

吉本:合理性というのは言い換えると批評性だね。成功体験に対する批評、自分の会社に対する批評。もちろん他人事みたいに批評するんじゃなくて、批評しながら改善につなげていく。そうすれば、現場の知恵を会社の隅々に行き渡らせることになる。

藤原:同じ会社に対する忠誠心でも「他発的忠誠心」と「自発的忠誠心」とがあってさ。他発的忠誠心というのは人からいわれてやること。絶対的に最後は自発的忠誠心の方が強い。

松下幸之助は革新的な人なんだけど、トヨタと松下に今の差がついたのは、トヨタの遺伝子が現場の改善主義なのに対して松下はトップダウンだったから。

吉本:松下も、VHSの件ではトップダウンが活きたよね。松下さんがこれでいこうと言ったから決まった。

藤原:あのときは、メーカーの合従連衡で勝負がついたからね。今は一つの技術だけで時代を画すのは難しい。VTRからDVDの時代まで来たけど、規格が決まれば、あとは個々のモデルを改善するだけ。消費者が望むものを細かく吸い上げるしかない。

吉本:トヨタの改善主義は押し付け型じゃなくて提案型だったわけでしょ。社員や下請けに提案をさせてそのベネフィットを両者が得る形。だから現場の知恵が蓄積されてきた。

藤原:だから、これからは社員一人一人の存在感が高まるわけだよ。


● “3年後に独立する社員”が会社を救う


藤原:今、大学時代の自分に戻れたら、3つのことを体系的に勉強しようと思う。それはまず英語。そしてITリテラシーと財務。やっぱり新しい日本人ビジネスマンの必須アイテムはこの3つだよ。もちろん、これだけじゃダメで、あくまでも最低限の要素としてね。

吉本:藤原は外国では英語でプレゼンしてるけど、それとはまた別の次元での英語の運用力を身につけたいということね。

藤原:よく言うんだけど、10年前までは人が書いたシナリオに基づいて社長以下演じていたらよかった。でも、これから必要なのは自分でシナリオを書く能力。プレイヤーとライターを兼ねないといけない。

吉本:ビジネスのシナリオを書く力ね。そのためには勉強が必要になる。

藤原:ところが、ある統計によると、日本のビジネスマンの1日の勉強時間は90パーセントがゼロ分。残りの10パーセントが3時間くらいで、完全に二分されてるんだよ。それで東証1部上場企業の部長の6割が財務諸表を読めないわけ。P/L、B/Sがね。これはおそるべきことだけど、従来型のビジネスマンには必要なかったんだな、きっと。

吉本:かつての日本企業で求められる人材はゼネラリストだといわれていたけど、財務法務の知識はこのゼネラリストに必要なかったんだよね。それはスペシャリストに任せてしまう。社長はある程度こうした知識がないと経営の鳥瞰図が得られないから困るだろうけど。

藤原:高度経済成長期は調整型でよかったから、オン・ザ・ジョブで自分の会社を一番よく知るゼネラリストが出世するのはわりと筋の通った話だった。でも今は"社長の能力"を末端まで求められるようになってる。

吉本:ゼネラリストといっても、“社内ゼネラリスト”なんだから、当然、外に出たら通用しにくいんじゃない。社内だけを見ながら出世した人は。

藤原:うん、この間システム事故を起こしたときのみずほ銀行のトップなんか、典型だよね。あの人は内向きで出世してきたんだと思う。

吉本:国会で「実害はない」なんて口走っちゃうんだから。

藤原:あれは完全に社内の論理よ。会社の論理と社会の論理に乖離があると会社は負けますよ。

吉本:会社の中でみんながミニ社長になって勝手なことやったら困るけど、自分が社長の視点をもって、財務法務も分かる人が会社のゴールを見定めて動けばいいと。

藤原:会社を利用しようと思って自分のスキルを磨こうとする人間の方が会社のためになっている。会社の中だけじゃなくて外の市場にも通用する人間をいっぱい抱えた方が会社にとってもいいに決まってるわけでね。

吉本:そういう知識がないと会社に“寄生”するしかなくなる。

藤原:これからは会社に寄生するのは不可能だからね。ビジネスマン個人にとっても簡単で、3年後に独立することを意識すればいい。そのために必要なスキルを磨こうとしていれば間違いない。自分自身、もし今日クビになってもやっていける人間になろう、会社にぶらさがる人間にはなるまいと思ってやってきた。それで戦うことができたからな。
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