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  アタリ・オマーン裁判 提案者:北
用語: creativity
訳語候補:
説明: (パート1ユニット7)先の質問について、目の覚めるようなご指摘、誠に有難うございます。さて、ご紹介の「アメリカ著作権制度」を図書館にて早速参照いたしました。検討期間中には、creativityを「創作性」と訳す提案があり、承諾しておりました。が、上記書籍では、あえて"creativity"としてあります。(p.61)  充田さんがお教えくださったサイトhttp://www.itlaw.jp/USCCLII.pdfでは、originality 創作性、creativity創造性とされていて、さらに迷いが深くなりました。リーダーのお考えをお聞かせください。

 RE:creativity 吉本 2003/04/23 21:41:00
originalityとcreativityの訳語については、北さんのおっしゃる通りばらつきがあり、なかなか難しい問題です。用語の訳出に慎重な立場をとっている「アメリカ著作権制度」では確かにoriginalityは「オリジナリティ」、creativityはcreativityのままになっていますが、ここでは僕なりに整理して訳語を提案します。長くなりますが、ご容赦を。

ある作品の著作物性を考える上では、一般的に下記の二つの目安が重視されます。
1.人の真似をしていないか。
2.創意工夫や芸術性があるか。

この二つの側面は、人の真似をしているけれど芸術的とか、人の真似をしていないけれどありふれているといったことがあるので、必ずしも両立しません。ただ、特定の誰かの真似をしなくても「これまで皆がやってきたことの真似をしている」=「ありふれたものである」という判断から著作物性が否定される場合があるので、1と2の境界線はある点で曖昧になるように思います。

日本語の「創作性」という言葉は、上記1と2の両方を含意する表現として用いられているようです。たとえば、「著作権法詳説」(東京布井出版)では「創作性があること」という要件について「他人の作品の単なる模倣・盗用であってはならず、著作者の個性が著作物の中になんらかの形で使われておればよいとの主旨であり、専門家でない素人、幼児の作ったものでもよいし、高度に芸術的なものでなくてもよい」と説明されています。

アメリカの場合、「アメリカ著作権制度」にも述べられているFeist判決などのように著作権保護の要件として「オリジナリティは独自創作および最低限の“creativity”を有すること」とされています。この定義は「詳解・著作権法」の説明にかなり近く、その点からいうと、上記1と2の両方を含意するという点でoriginality=「創作性」と考えてもよさそうです。

しかし、連邦政府が発行した知的所有権のガイドラインであるIntellectual Property and the National Information Infrastructureなどを見ると、「著作権保護の三つの基本的要件」としてoriginality、creativity、fixationが挙げられていて、originalityとcreativityが独立した項目として扱われています。originalityの定義は「作品が独自創作であること(すなわち、他の作品のコピーでないということ)。作品がnovel,…unique、ingeniousであることは要しない」、creativityの定義が「作品がわずかでもcreativityを有していること。必要なレベルは極めて低くごくわずかなものでいい」というもの。creativityの意味自体は自明とされているためか定義がありません。

ここでは、上記1の要素がoriginalityで、上記2の要素がcreativityと区別されているようでもありますが、originalityの定義にある「作品がnovel,…unique、ingeniousであることは要しない」という点を補足的に説明したのがcreativityの定義とも考えられるので、やはりoriginalityは1と2を含意する要件の概念だと見てよいでしょう。

他方、originalityは「独創性」と訳されることもあります。日本語の「独創」は、辞書の定義によれば「模倣によらず自分ひとりの考えで独特のものを作り出すこと」(広辞苑)ですからこれでもよさそうですが、問題なのは、日常的な用法として「独創(的、性)」には「新奇」なことを示す表現として使われる傾向があるという点です。著作権のoriginalは特許権の場合と異なり必ずしもnovel「新奇」でなくてもいいとされていますから、この訳語は誤解を招く余地があります。

日本語の「オリジナリティ」は、曖昧に幅広く使われている言葉なのでoriginalityの訳語として無難ですが、これも日常的には「独創性」と近い意味で使われていることがあり、訳語として二つの言葉にそれほど意味上の差異はないかもしれません。

英語の専門用語を訳す場合、訳語についてまず考えるべきは日常的な用法よりも専門的な用法なので、日本語に該当する専門用語がある場合はその言葉で訳出するのが妥当だと考えます。その点を勘案すると、充田さんが参照された山本隆司氏の論文「米国著作権法の判例法理」にあるoriginality=「創作性」という訳語が妥当なもののように思われます。

同論文にあったcreativityの訳語の「創造性」は、多少大仰な印象を与えるかもしれませんが、「創意工夫」「個性」「芸術性」などではやや偏った印象も与えるので、ここでも上記2の要件を意味する包括的な表現である「創造性」をcreativityの訳語としておきましょう。