出版企画と出版社の出会いの場 出版持込ステーション

企画の採用実績

『ずっとあなたを見ている』

  • 出版社:扶桑社
  • 企画者:浦崎直樹さん
  • 原題 :Fidèle au poste
  • 経緯 :[2020.12.21] 企画検討開始
        [2021.4.21] 採用決定
        [2021.9.29] 出版!
  • 出版日:2021年9月
  • 備考 :企画者の方が翻訳者として採用されました

【企画者からのコメント】

 今回訳したフランスのミステリー『ずっとあなたを見ている』の原書は三、四年前フランスのアマゾンで見つけたものです。レビューもたくさんついており、評価も高く、英語にも訳されているほど海外では広く読まれているようなので購入しました。読んでみると、フランスらしい心理サスペンスで期待通り面白く、いつか自分の手で翻訳してみたいものだと思っていました。
 勤めていた会社を2020年6月に定年退職して時間に余裕ができたので、シノプシス(レジュメ)を書き始めました。その際参考にしたのが文芸翻訳者越前敏弥さんの『文芸翻訳教室』(研究社)です。シノプシスをどう書いたらよいか分からない人(ほとんどの初心者がそうだと思いますが)にはおすすめの参考書です。シノプシスは、主要な登場人物の行動や心理を丹念に追う一方、重要ではないと思ったエピソード、登場人物は思い切って省き、9400字ほど書きました。あまり簡略にしても内容がわからず、詳しく書きすぎてはくどすぎて出版社に読んでもらえないと思い、さじ加減の難しさを痛感しました。
 アメリアに企画書を提出すると、担当の河原さんから、企画書に海外での評価を盛り込んではどうかとのアドヴァイスを頂きました。さっそくアマゾンのレビューなどを翻訳して書き直しましたが、より説得力を増した企画書になりました。企画書は翻訳者と出版社との唯一の接点なので、手を抜かないことが大事だと身に染みました。
 出版社が企画の検討を始めたとの連絡をいただいたのが十二月の終わりごろで、なかなか採用不採用の連絡が来なかったので、一時はやっぱりだめだったんだと諦めかけましたが、2021年4月下旬に出版が決まり翻訳もわたしに任せてくれるという知らせがありました。
 担当の吉田淳さんはベテランの編集者で、小説を訳すのが初めてのわたしを終始リードし、励ましてくださいました。原稿もていねいに見ていただき、ツボを抑えた指摘で拙訳が格段とよくなりました。校閲の方にも誤字脱字、表記のゆれを丹念に拾っていただきました。また「訳者あとがき」も書かせていただきました。ちなみに越前さんの『文芸翻訳教室』には「あとがき」の書き方も載っています。本作の内容を的確に現しているタイトルや素晴らしい表紙イラストなど、最後の仕上げにもプロの技を感じました。
 こうして出来上がった『ずっとあなたを見ている』は、男女が織りなす心の綾を丹念に描きながら、巧緻な構成と意想外の展開で読者を翻弄する心理サスペンスで、驚愕の結末が読者を待ち受けています。本屋さんで見かけましたら、手にとってもらえると幸いです。
 最後になりますが、アメリアの「出版持込ステーション」は、翻訳を始めたばかりで出版社とのコネもない者にとって、出会いの場を提供してくれる素晴らしい企画だと思います。また、日本では訳書も出ておらず知られていないフランスの作家とまったく実績のない無名の翻訳者の企画の出版を英断してくださった扶桑社にも感謝を申し上げます。

【編集者からのコメント】

 本書『あなたをずっと見ている』の企画をアメリアの紹介メールで知って、ぜひ弊社で扱いたいと思いました。
 仕掛けのあるフレンチ・ミステリーといえば、オールドファンとしてはまず、ミシェル・ルブランの『殺人四重奏』やフレッド・カサックの『殺人交叉点』あたりを思い浮かべるところですが、この手の「叙述系」が三度の飯より好きな編集者としては、多少力業のネタではあっても、ここはどうしても逃したくないかなと。
 昔はリチャード・ニーリイあたりも発掘出版しましたし、今年の春に出したサラ・ピンバラ『瞳の奥に』(ラストに大ネタあり)なんて、数年前に前上司に企画をボツにされたにもかかわらず、映像化を口実に新上司を言いくるめて性懲りもなく出版に漕ぎつけたくらいでして(笑)。僕にとってのミステリーの醍醐味とは、読者をびっくりさせようと手ぐすねひいて罠を仕掛けてくる著者の「稚気」の強度に他なりません。
 クセの強いフーダニット/叙述トリック系の海外ミステリーを見つけたんだけど、創元さんで出すには飛び道具すぎる(もしくは創元さんに持ち込んだけど断われた)、みたいな案件あれば皆様、ぜひ扶桑社にお持ち込みくださいね(笑)。

 なお、翻訳者である浦崎さんの仕事ぶりは、一言で言ってパーフェクトでした。
 フィクションの小説を手掛けられるのは初めてともうかがいましたが、訳文はこなれていて、ほとんどこちらから修正をお願いするところもありませんでした。原稿は締め切り前にゆとりをもってあげていただいたうえ、赤字・エンピツへのご対応もリーズナブルで、大変スムーズに進行することができました。
 今後とも、ご縁があればぜひ仕事をさせていただきたいと思っています。

 編集者はどうしても日々の業務に追われがちで、原書に直接当たって面白本を探すような時間がなかなかとれません。そんななか、読み巧者の翻訳者さんからのご紹介は、大変力強い企画ソースであると考えています。皆様のお力添えがあっての出版社です。今後とも支え合って、翻訳ミステリー文化の火を受け継いでいこうではありませんか。