ご利用企業インタビュー

株式会社明石書店

人権や差別など社会に根ざしたテーマに取り組む

明石書店が設立されたのは1978年のこと。社長の石井昭男氏はかねてより人権問題に深く関わっており、人権や差別問題をテーマにした書籍を発行する目的でこの出版社をスタートさせました。その後、会社が発展するにつれ、人権問題という枠組みをより幅広くとらえて、例えば、外国人問題や法律問題、子どもの発達障害や児童虐待など、社会問題全般を取り扱うようになっていきました。

現在刊行している書籍の大半は人文・社会科学系ですが、数は少ないものの以前から文芸作品も出版しています。

「例えば、アメリカの銃乱射事件や中国の文革の時代など、主に社会問題を背景に描かれた作品を手がけています。こうした作品は今後も積極的に世に出していきたいと考えています」(第二編集部 編集長 神野斉さん)

人権問題以外で、特に翻訳出版に関しては、世界の歴史・文化・教育を扱った書籍、OECD(経済協力開発機構)が発行するレポートや教育・医療・社会に関する白書、『世界格差・貧困百科事典』『世界の先住民環境問題事典』など社会問題、社会情勢に関する事典など、同社ならではのラインナップがあります。

「事典などは分厚いので複数の翻訳者によるプロジェクトになります。日本で独自編纂するとなると長い年月が必要ですので、翻訳出版の意義があると思います」(神野さん)

研究者など専門家の目利きで原書を発掘

編集者は社内に専任が11名と、他の部との兼任が数名います。それにフリーランスの社外編集者が加わって、年間200点あまりの書籍を出版しています。このうち翻訳書は、平均して全体の約4分の1程度です。

「編集部は第1から第3まで3つあります。翻訳書については、どの部がやると決まっているわけではなく、それぞれの部の企画の中で、よい原書が見つかれば適宜担当者を決めるという具合です。語学が強く翻訳ものが得意な編集者はいますが、特に翻訳書専属の編集者はおらず、全員が和書・翻訳書ともに担当しています」(神野さん)

原書の選び方については、学術書や研究書が多いので、研究者や大学の教授といった方々から提案されることも多いのだそうです。

「学術書として優れているから日本でも出版してはどうか、あるいは教科書で使いたい、といった申し出がけっこうあります。また発達障害をテーマにした本の場合は、当事者の会や支援グループから、勉強のために使いたいのでと依頼されるケースもあります」(神野さん)

また、編集者が洋書カタログから探したり、国際ブックフェアに出かけて行って見つけることもあるそうです。

「編集者各人、関心の深い分野があるので、編集者自身がリーディングをして見つけることも多いです」(神野さん)

翻訳は研究者と翻訳者の二人三脚で

人権問題など、専門的な分野の書籍を多く扱う同社では、翻訳はどのような人に依頼をしているのでしょうか。

「専門家の方からご提案をいただいた場合は、まずひとつにはご本人が訳されるケースがあります。ただ、研究者の方はご自身の研究で忙しく、翻訳をお願いした場合かなり時間がかかることもあるので、そんなときは研究者の方を監訳者として、いわゆる翻訳を専業にしている方と共同で翻訳体制を組むことも多いです」(神野さん)

これまでには、アメリアWebサイト「JOB」のスペシャルコンテストなどで募集をし、翻訳者として採用していただいたこともあります。

「研究者の方と一緒に翻訳をする場合は、編集者が間に立って調整をするか、直接のほうがやりやすい場合はそのようにしていただくこともあります。翻訳者は専門的なことを監訳者に聞くことができるので、やりやすい面もあると思います。また、研究者は専門家であるがゆえに周知のことと考え説明が不十分になり、一般の読者にわかりづらくなってしまうという危険性があります。編集者が翻訳者に期待することとして、一般読者と同じ目線から、『ここはもうひとこと説明した方がわかりやすいのでは』などと助言していただくなど、監訳者の気づかない点を補っていただければと思っています」(神野さん)

わが社のここが自慢! 世界に目を向けて広く社会問題に取り組む

人権問題に一貫して取り組んできた功績が認められ、2008年に社長の石井昭男氏はマグサイサイ賞[報道・文学・創造的情報伝達]を授与されました。これはアジア地域で社会に貢献した個人・団体に贈られる賞で、アジアのノーベル賞といわれている大変名誉ある賞です。

創業から35年、社長以下社員一丸となって社会問題というテーマからぶれることなく、それをより広く捉えて出版という方法で取り組んできた同社ですが、今後はさらにアジア、そして世界に目を向けていきたいと考えています。

「国際的な活動をより進めていきたいと思っています。そのひとつとして、韓国の出版社と共同で、共通の歴史教材を作ろうという試みを行っています。各国それぞれに著者を立て、話し合いながら歴史の共通認識を持とうというのが目的です。また、児童虐待や発達障害の問題は、日本では欧米から10年ほど遅れて顕著化してきていますが、今後は発展途上国にもこのような問題が出てくるでしょう。日本の本を英語やアジア各国語に翻訳して発信していく必要性が出てくるかもしれません。海外での翻訳に関しては、弊社の世界各国の文化や歴史を紹介したエリア・スタディーズのシリーズは既に韓国で翻訳出版されています。今後もますます海外の出版社との交流を活発にしていく予定です」(神野さん)

スタッフからひとこと!

謙虚な気持ちで学び、成長する翻訳者に

社会問題や発達障害など、翻訳者にも専門的な知識が必要とされる書籍が多い同社のラインナップですが、編集者は翻訳者にどのようなことを望んでいるのか、第二編集部編集長の神野さんにご意見を伺いました。

「今はインターネットを利用すれば、専門的な分野であっても、いろいろと調べることができるようになってきました。どのような分野でも最初から知識が豊富な方はいないと思いますので、翻訳者を目指す方にはアンテナを広く張り、引き出しをいっぱい持って、興味を持って調べる姿勢を大切にしていただきたいと思います。その際にひとつ注意していただきたいのは、インターネットの情報を鵜呑みにしないということ。不正確な情報もありますので、複数のソースに当たるなど慎重に調べることが重要です」(神野さん)

また、今後は出版の分野でも、よりグローバルな取り組みが広がっていくと神野さんは考えています。

「私は昨年のノーベル文学賞作家で中国人の莫言が書いた本の編集に携わりました。これは元はイギリスとインドに拠点を持つ出版社シーガルブックスが依頼し、莫言が中国語で書いたものを英訳して発行した本で、私が読んだのも英語版でした。弊社が翻訳出版するにあたっては、英語版を参照しながら、しかし翻訳は元の中国語からというやり方にしました。実際、英語版のほうはかなりの超訳や削除があったようです。今後はこのような多言語に展開される作品も増えてくると思いますので、翻訳者も英語だけではなく加えて他の言語も理解できるようになれば、仕事の幅が広がるのではないかと思います。
 プロの翻訳者として成功している方でも、例えば政治・経済は詳しいが文化的な知識は乏しい、など得意不得意があるように見受けられます。そのあたりは謙虚になり、自分の弱い分野は常に学ぶ姿勢を持つことが大事だと思います。弊社では研究者の方を監訳者に据えることが多いので、そのような機会にはぜひ専門家の知識を吸収するよう、うまくコミュニケーションを取りながら仕事をしていくことをおすすめします。編集者や共訳者、監訳者らとうまくやり取りをしていくことも翻訳者の仕事の一環だと思います。また、原著者に直接尋ねる必要が出てくることもあるかとおもいます。そうしたことにも、億劫がらずに取り組んでくれる人であってほしいと思います」(神野さん)

〜同社の出版物紹介〜

『モッキンバード』『モッキンバード』
キャスリン・アースキン著
ニキ リンコ訳

* アメリカの小さな町の中学校で起きた銃乱射事件。アスペルガー症候群の少女は頼りにしていた兄をこの事件で失ってしまう。2010年全米図書賞受賞作品。


『変』『変』
莫言著
長堀祐造訳

* ノーベル文学賞作家・莫言による自伝的小説。約40年間の中国社会の大変貌と主人公の人生を軽妙なタッチで描く。



『正義のアイデア』『正義のアイデア』
アマルティア・セン著
池本幸生訳

* 経済の分配・公正と貧困・飢餓の研究でノーベル経済学賞を受けた著者が、どうすれば正義を促進しうるかを追究する。