アメリア会員インタビュー

鎌手 美弥子さん

鎌手 美弥子さん

映像翻訳は「やっていて本当によかった」と思える仕事

プロフィール

大学在学中にカナダへ留学。卒業後、英会話スクール講師、地域国際交流団体職員、外資系企業秘書、ヘルプデスク、空港管理会社スタッフなどさまざまな職を経験。2008年、会社勤務の傍ら映像翻訳を学び、2009年に字幕・吹替・ボイスオーバーの仕事を開始。2012年に独立。大好きな仕事に専念できる喜びで休むのも忘れて働き、手がけた作品は470本を超える。2019年、結婚を機に、夫(カナダ人)と共に「人生を楽しむ」ことに開眼。現在は旅や家族との時間も楽しみつつ、映像翻訳会社の委託社員兼フリーの映像翻訳者として活動中。
<主な担当作品>
「イヴ・サンローラン/セレブレーション」「WOWOWアートドキュメンタリー(全8作中3作担当)」「アジアズ・ネクスト・トップ・モデル」など

2011年に翻訳に専念しようと決意

加賀山 :今日は愛知県日進市にお住まいの映像翻訳者、鎌手美弥子(かまて みやこ)さんにお話をうかがいます。さっそくですが、これまでに何作ぐらい訳されましたか?

鎌手 :2009年から映像翻訳の仕事を始めたのですが、このまえ数えてみたら、470作ぐらいでした。

加賀山 :470も!

鎌手 :シリーズものを1作と見るか、エピソードごとに数えるかで違ってきますけど。たとえば、『アメリカン・アイドル』だと、エピソード1から28ぐらいまであって、それをひとつと数えるか、1エピソードずつ数えるか。いずれにせよ、400作は超えていると思います。

加賀山 :すごい数ですね。プロフィールを拝見すると、会社勤務と並行して映像翻訳を始められたということですが、いまは翻訳だけですか?

鎌手 :はい。2012年に退職して、そこからは翻訳だけです。映像翻訳という仕事を見つけたとき、「これは私がずっとしたかった仕事だ」と直感しましたが、最初は収入も安定しませんから、会社勤めもできるところまでやるつもりでした。
 ところが、2011年に東日本大震災があり、「一瞬後にはどうなっているかわからない。こんな中途半端なことではいけない」と思ったのです。「片手間じゃなくて、翻訳にもっと打ちこんでおけばよかった」と後悔したくなかった。それでいろいろ準備を進めて、1年後に辞めました。

加賀山 :私の知り合いにもそういうかたがいます。仙台の会社に勤めていたときに震災に遭い、やりたいことをしようと東京に出てきて翻訳を勉強しはじめたという……。

鎌手 :辞めたら貧乏になりましたけど、すごく幸せにもなって(笑)、会社員時代に買っていた雑誌や服もぜんぜん欲しくなくなりました。気持ちが満たされたんでしょうね。

加賀山 :ドキュメンタリー、映画、ドラマなど、いろいろ訳しておられますが、割合としてはどれが多いのですか?

鎌手 :コンペティションなどのリアリティ番組が40%、ドキュメンタリーが30%、映画10%、その他20%という感じです。昔はアカデミー賞とかエミー賞といったアワードのグループ翻訳もけっこうやっていました。

加賀山 :字幕、吹替、ボイスオーバーのなかでは、字幕が多いのでしょうか。ドキュメンタリーだとボイスオーバーが多いとか?

鎌手 :全体としては字幕がいちばん多くて、次がボイスオーバーですね。吹替は経験がなかったのですが、子供の国際映画祭(キンダー・フィルム・フェスティバル)で字幕とは違った苦労と面白さを体験できました。
 私がいちばん長くやらせてもらったのは、水槽を作るアメリカの番組の字幕です。

加賀山 :水槽?

仕事場の風景

鎌手 :バスケットボール選手や俳優、野球場、有名レストランといったところから注文が入って、家や店に魚の水槽を設置していくという番組です。壁全体を水槽にしてほしいとか、小さいサメを飼いたいのでサーキット型の水槽が欲しいとか、ピアノを水槽にしたいとか、毎回そういう変わった要望があります。半分、お宅訪問みたいな番組ですね。

加賀山 :へえー、面白そうな番組ですね。

鎌手 :シリーズ全体のうち合計3シーズンを担当しました。毎年春から秋にかけて3カ月ほど、毎週納品するくらいのペースで。

加賀山 :訳すのも楽しそうですね。今日はどんな家だろうなんて考えながら。

鎌手 :ほかにも、動物のすごくマニアックなドキュメンタリー番組とか、この知識はいったいどこで役に立つんだろうと思うようなものもありますよ(笑)。

調べ物で本が付箋だらけに

鎌手 :動物で私がいちばん多く担当したのは「クマ」です。ホッキョクグマや、アメリカクロクマや。魚だとエイ、サメなど。
 もちろんドキュメンタリーには、宇宙とか、宗教、科学、恐竜……本当にいろいろなものがあります。たとえば、オーストラリア大陸がテーマなら、大陸の成り立ちから、地形、人々の生活、アボリジニの話など、あらゆることが含まれるので、訳すのもたいへんです。

加賀山 :そういう作品を訳すときの調べ物はどのようにしていますか?

こちらの写真は宇宙のドキュメンタリーの時のものです。
私は、映像を確認してキーワードや調べものの目星をつけた後、図書館から借りた本や自宅にある書籍をまずはざっと読みながらどんどん付箋を貼っていきます。(完成?したものは「付箋アート」と呼んでいます笑)

鎌手 :最初にスクリプトを読み、映像をざっと見て、調べる必要があるものを拾い出します。とりあえずネットでさらっと調べますが、そのあと関連する本を図書館でたくさん借りてきて、付箋を貼りながら見つけていきます。あるとき、付箋を大量につけた本が返却期限になって、あわてて「もう1週間貸してください」と図書館に持っていったら、司書のかたに驚かれたことも。
 本に書いてあることがいちばん確実だと翻訳学校でも習いましたので、そんなふうにすぐ図書館に行って調べていたのですが、最近はネットでも信憑性の高い情報が得られるようになりました。

加賀山 :信頼できそうなネット情報は、どうやって見分けるのですか?

鎌手 :たとえば、ニュース記事でも使われている表記か、その分野の専門家が書いた情報か、といったことを確認します。
 どうしても情報源として個人のブログしか見つからない場合には、「個人のブログですが、こういう情報がありました」という申し送りをつけて原稿を提出します。本当にわからなければ、「調べがつかず、自分で訳をつけました」と申し送りをすることもあります。

加賀山 :なるほど。そのへんは丁寧にということですね。

鎌手 :そうすると、番組によっては、「まえにもやったことがあるので、こういう名称にします」というフィードバックがあります。たとえば、珍しい動物や鳥の名前などは、「以前の番組でこの和名を使っているので、同じにしてください」と言われたり。
 私は調べ物がけっこう好きで、いろいろなことがわかるのが楽しいんですね。調べるのが面倒くさい人には、この仕事はきついかなとも思います。

加賀山 :手がけられたなかで、とくに印象に残っている作品はありますか?

鎌手 :いろいろありますね。映画祭で吹替を担当した『空とぶニコ』はよく憶えています。ライブ吹替といいまして、声優さんたちが上映中の画面を見ながらその場で吹替をしたんです。私もぜひ見学したいと東京まで出ていきましたが、とても臨場感があったし、自分の書いた原稿が実際に読まれるところに立ち会うのも初めてだったので、感動して涙が出ました。
 ここで笑ってほしい、ここで怖がってほしいといったところで、子供たちがそのとおり反応してくれるのも、うれしかった。この仕事をやっていて本当によかったと思いました。観るかたの反応はテレビだとわかりませんが、ああいう場だと直接わかるので、すごいなあと。

映画祭会場でのライブ吹替の様子。「空とぶニコ」の吹替翻訳をした時のもの(2013年)。
キネコ国際映画祭にて(当時の名称はキンダー・フィルム・フェスティバル)

加賀山 :たしかに、出版翻訳でも読者の反応までには時差がありますからね。その場で体験するというのは感動ですね。

鎌手 :『アジアズ・ネクスト・トップ・モデル』というFOXの番組で、初めて字幕翻訳者として自分の名前が出たときにも感激しました。アジアのモデル志望の女の子たちが十数人集まって、共同生活しながら課題をクリアしていく番組です。20シーズン以上ある『アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル』のアジア版で、私はシーズン3と4を担当させてもらいました。

加賀山 :映画も訳しておられますね。『招かれざる隣人』や、『そして私たちの番がきた』。

鎌手 :『招かれざる隣人』はDVDにもなったサスペンスです。
『そして私たちの番がきた』は、第二次世界大戦で日系アメリカ人が収容所に入れられた史実を扱った映画で、通常のルートではなく、外語大で働く友人を介して字幕翻訳の依頼がありました。最初は移民学会などで上映していましたが、次の年には国際女性映画祭に出品されました。これはいつものようにディレクターがついていなかったので、初めて自分で最終チェックまでして、大きな責任を感じた映画でした。専門の教授が3人ほどで監修してくださって、ミーティングで細かい訳語のチェックもおこないました。「収容所」とすべきか、収容所のまえに「強制」をつけるべきか、というふうに。

加賀山 :センシティブな内容ですからね。最近はどんな作品を手がけられましたか?

鎌手 :最近多かったのはファッション系で、有名デザイナーのドキュメンタリーシリーズの字幕を3作ほど担当しました。あと、美術系で、ルネッサンス期の画家や、世界遺産でもある美術館のドキュメンタリーも手がけました。
 特にその美術館のドキュメンタリーはすごく丁寧に作られた作品なんですが、収蔵された大量の美術品を紹介しつつ、美術館を作った人物や、そのころの時代背景など、政治、歴史、地理のすべてが入った内容で、本当に苦労しました。申し送りが12ページぐらいになって、この仕事は終わるのだろうかと不安になったり(笑)。

加賀山 :調べ物の鬼のような仕事だった(笑)。同じ60分とか90分の番組でも、内容によって労力はぜんぜん違うんですね。

鎌手 :違いますね。何かひとつのこと、たとえばホッキョクグマならホッキョクグマに特化していれば比較的楽ですが、「南極大陸」とか「北アメリカ」のように広いテーマになると、とたんに調べ物が増えます。

加賀山 :作品によっては割に合わないことも……?

鎌手 :ありますね。でも、香港のカンフーアクション映画の字幕翻訳をしたときには、アクションがすごく多くて、ときどき台詞がはさまれる程度でした。2時間ぐらいの映画で、訳した字幕は900枚あまり。ちょうど同じ時期に、アイルランドのIRAのスパイものの字幕を担当した友人がいまして、映画の長さは同じくらいでしたが、訳した分量は2000枚だと言っていましたから、ずいぶん違います。

加賀山 :翻訳者がもらう報酬は映像の分単位ですよね?

鎌手 :10分単位が多いですね。

加賀山 :むずかしいからといって高くはならない?

鎌手 :どうでしょう。むずかしい作品を1本まるごと経験の少ない翻訳者にまかせるケースはおそらく少ないので、報酬単価は内容のむずかしさというより、翻訳者の経験度で決まるという面もあります。

加賀山 :なるほど。以前、別のかたのインタビューをしたときに、映像翻訳では最初、ホラーの仕事がまわってくることが多いようだとおっしゃっていました。そのへんはどうですか?

鎌手 :そういうかたもいますが、私は最初からドキュメンタリーばかりでした。チームで翻訳することもよくありました。1本の番組を複数人で訳しているうちに、だんだんひとりでやらせてもらうようになりました。
 あと、初期のころには『アメリカン・アイドル』のようなリアリティ番組も多く訳しました。

アワードものの翻訳は驚きのスピード

加賀山 :ドラマなどでは、1シーズンのエピソードを手分けして訳すこともけっこうあると聞きました。

鎌手 :ありますね。いま、フリーで仕事をしながら、翻訳会社の委託社員として在宅で週3日、おもにチェッカーとして働いているんですが、たとえばそこでは、3人の翻訳者さんで分担して、用語統一の表や、一人称の呼び方の表をみんなで共有し、私ともうひとりのかたが最後に全体のチェックをする、といったアレンジで進めます。そして最後に全体を観たあとで、トレーラーの字幕を作るのです。

加賀山 :分業体制ができている。

鎌手 :週に1話ずつ放送されていくテレビ番組などの場合だと、週に1度、字幕を提出して、エピソード5ぐらいまで来たところで、エピソード1の放送が始まるという感じです。一方、納期の余裕のないものもあって、たとえばNetflixやHuluなどでは、一気見できるようにエピソードを全部同時にアップすることが多いので、納期が非常に短く、翻訳も何人かで分担することになります。

加賀山 :ひとりで訳すかどうかは、配信の方法にもよるわけですね。だいたい納期は1エピソードで1週間ぐらいでしょうか?

鎌手 :余裕があれば2週間ほどもらえることもありますが、10日ぐらいが多いでしょうか。でも、アワードものなどは納期が2日だったりします。

加賀山 :えっ、そんなに短い?

鎌手 :○○賞授賞式などは、まずテレビで流れるときに同時通訳がついて、そのあと字幕版が作られるんですけど、放送は1週間後とかですから。
 一度すごかったのは、レッドカーペットから始まる3時間ぐらいの番組が終わった直後に、「はい、皆さん分担します」と字幕翻訳の割り振りがあって、20人ほどで10分ぐらいずつ分担して訳しました。そうしてあがってきた訳を第一ディレクターが翻訳ソフトでまとめ、ざっと観たうえで、「こことここ、合わないので別の案を考えてもらえますか」というようなチェックバックを返し、翻訳者が手を入れたものを、第二ディレクターがチェック、さらに第三ディレクターがチェックと進めていくのですが、その全体の行程が1日半とか。

加賀山 :本当に?! それはすごい。

鎌手 :翌日納品になりますから、翻訳者のあいだでも「ここどう訳しました?」というような確認のメールがひと晩で300通ぐらい行き交ったりします。

加賀山 :はあ〜、そうやって訳してるんですね。驚きました。

週7日勤務(!)をしていたころのスケジュールの一例
(複数の案件を同時に進行していました。)

鎌手 :翻訳担当もディレクターも両方経験しましたが、どちらも時間との勝負でドキドキでした。それで思い出しましたが、『FOXバックステージパス』という番組の字幕を訳して、すごく力がついたなと思いました。
 ふたりのホストが話題のエンタメ系の情報を提供する30分番組で、隔週か3週間に1回というペースでしたが、そのスクリプトと映像が来るのが朝の11時ごろで、納品がその日の夕方6時だったんです。期限が決まっているので、集中してスピードアップする訓練になりました。

加賀山 :さっきの授賞式などアワードの仕事では、スクリプトはないんですか?

鎌手 :通常のスクリプトはありません。ネイティブや日英翻訳者がまず聞き取って、バーッと文字にしたものを字幕翻訳者に配って、いっせいに訳す手順です。いちおう文字にはなっていますが、聞き取れなかった部分が空欄だったり、まさにできたての原稿です。そういう部分は、「ネイティブでも聞き取れないんだ」ということで、字幕でもボカして訳したりしますけど(笑)。
 レッドカーペットのファッションチェックをするリアリティ番組もあります。ある年、小説の『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』がアメリカですごく流行っていて、日本ではまだ紹介されていませんでした。すると、その番組の辛口のファッション評論家が、「いろんな色があったけれど、今年の流行はやっぱりフィフティ・シェイズ・オブ・グレイね」というようなことを言いました。実際にグレイの服を着ていた人はあまりいなかったので、みんなわからなくて困ったんですが、翻訳チームのなかにロサンジェルス在住の翻訳者がいて、「あ、それはアメリカで流行っている小説です」と教えてくれて、誤訳が避けられました。チームで訳すとそういうこともありますね。

同じ映画やドラマをくり返し観る

加賀山 :最初に翻訳を始めたいと思ったのはいつごろですか?

鎌手 :大学時代にカナダに留学して、英語に関係した仕事をしたいなとつねづね思っていました。ただ、何をしたいかよくわからなくて、まず出版翻訳の学校にかよってみたら、ぜんぜん面白くなかったんですね(笑)。
 でも、短期のサマー・コースのようなものがありまして、映像翻訳をとったらすごく面白くて、「ああ、これだ」と思いました。
 ちょうどそのころ会社の仕事が忙しくなって、そちらにしばらく専念していたんですが、映像翻訳をやりたいなという気持ちはずっとありました。それで映像翻訳の通信講座を始めて、通信だけではまだ足りないということで、今度は東京の学校に1年間、週に1度かよいました。

加賀山 :愛知から1年間! 最初はどうやって仕事を開拓したのですか?

鎌手 :その学校では、コースをすべて修了すると、仕事ができるレベルまでOJTをして、そのあとは学校と一体の翻訳会社から仕事がもらえるシステムでした。なので、そこからいただいた仕事が最初でしたが、やがてトライアル応募や紹介を経て取引先を増やしていきました。

加賀山 :そして大震災があり、フリーになられた。

鎌手 :そうです。会社勤めをしながら、翻訳は平日夜と土日にしていましたが、時間がなくて断った翻訳の仕事もあったので、思い切って会社を辞めました。二足のわらじは4年ほどでしたが、その間もありがたいことに、コンスタントに翻訳の仕事はありました。

加賀山 :委託社員で働いているとおっしゃったのは、そのあとで始めた仕事ですか?

鎌手 :はい。登録翻訳者としてリアリティやドラマの仕事をもらっていた会社から声をかけてもらって。定期的な収入になり、かつ映像翻訳の仕事ならとてもありがたいということで、在宅で働かせてもらうようになりました。

加賀山 :ふだん翻訳のために心がけていること、勉強していることなどありますか?

鎌手 :とくに結婚前のひとり暮らしでは、ずーっとケーブルテレビの英語の番組をつけっぱなしでした。映画も好きで、毎日2〜3本観ていました。同じ映画やドラマを浴びるように何回も観て、台詞も憶えてしまうほど(笑)。
 たとえば、ドラマの『モダン・ファミリー』とか、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』、『ホワイトカラー』とか。いつも観ていると、言いまわしや表現が蓄積されていくので、自分が翻訳するときに役に立つことが多くあります。最近では『The One:導かれた糸』が面白かったです。

中日新聞(愛知県)に取材を受けた時の記事です。
インタビューの中ではお伝えできなかったのですが、2018年に日曜版の「お仕事ファイル」という特集で紹介していただきました。
小学生の「子ども記者」たちがいろんなお仕事を取材するという内容で、字幕翻訳という仕事を紹介しました。
特に字幕作りの実践は子ども記者に好評でした。

加賀山 :英語を浴びるような生活ですね。

鎌手 :毎日BGMのように流していました(笑)。これは将来、映像翻訳をやりたいと思っているかたにもお勧めの勉強法です。大好きな映画やドラマを字幕で観て、吹替で観て、字幕も吹替もなしで観て……というふうにくり返す。この字幕うまいなあ、吹替はどうなってるのかな、とか考えながら。字幕も吹替もなしで観ると、ここは訳すのがむずかしそうとか、自分だったらこう訳すといったことも頭に浮かびますよね。字幕と吹替の訳し具合の違いもわかります。

加賀山 :出版翻訳でも、原書と訳書をつき合わせてやる勉強法がありますが、それと似ていますね。

鎌手 :それから、日本語力、表現力を磨くために、翻訳学校の先生からは日本人作家の書いたものを読みなさいと言われたので、意識的に読むようにはしています。

加賀山 :たとえば、どういう作家を?

鎌手 :柚木麻子さんとか、梨木香歩さんとか。古典落語も読みます、話の流れが面白いので。いまは『すごい宇宙講義』という本を読んでいます。宇宙の物理学的なことがカジュアルに書かれています。

加賀山 :勉強法も幅広い。

鎌手 :あと、作った原稿はかならず一度Excelにエクスポートして、通しで読むようにしています。物語みたいに読んでいって、引っかかったところを直していくのです。映像にとらわれずに文字だけで読むと、引っかかるところがわかりやすい。そこはぜったいに直したほうがいいところなんですね。

私がインスタグラムで描いているイラストです。
コロナの影響で外出できず在宅時間が増えたので昨年から始めました。
カナダ人の夫が日々提供してくれるカルチャーギャップネタを中心に描いています。
@miyako_huggett_illustration

■少し質問をすると、次から次へと出てくる興味深いエピソード。楽しんで仕事をされていることがよく伝わってきました。本人が楽しむって、映像翻訳のみならず、出版翻訳でもとても重要だと思うんですよね。私も勉強になりました。

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