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坂村 朋子さん

坂村 朋子さん

スタイリストをしながら映像翻訳の世界に

プロフィール

英日字幕翻訳者。4歳から11歳までアメリカで生活、帰国後は日本語(大阪弁)や漢字に苦労するがすぐになじみ、普通の中学、高校では英語は他の教科よりは少し得意という程度。
ファッションの専門学校卒業後、スタイリストのアシスタントを経て、就職。その後独立してフリーのスタイリストとなり、仕事で英語を使う機会も増える。
かねてから翻訳小説、海外ドラマや映画が好きで翻訳に興味を持ち、仕事を続けながら断続的に通信、通学で英日翻訳そして映像字幕翻訳を学ぶ。現在はスタイリストの仕事も続けながらファッションやライフスタイル、ビジネス関連の動画、配信のドキュメンタリーやドラマなどの仕事に精進している。
趣味はアート展、ファッション展などを鑑賞すること。

映像翻訳の専門校で学んでからトライアルに挑戦

加賀山:本日は大阪府にお住まいの映像翻訳者、坂村朋子(さかむら ともこ)さんにお話をうかがいます。ファッション関係のお仕事が多いとうかがいましたが?

坂村:もともと大阪でスタイリストをやっていまして、いまもフリーランスで続けています。その間、断続的に翻訳の勉強も続け、コロナ禍のころから少しずつ翻訳の仕事もいただけるようになりました。

加賀山:プロフィールを拝見すると、2011年から4年間、ウェブのファッションマガジンで、ファッション、広告、写真、インテリア、アート、音楽など、多分野にわたる記事の英日翻訳やチェック、校正をされています。

坂村:関西在住のドイツ人の知人が、大阪発信でウェブのファッションマガジンを立ち上げるという話があったんですね。私もそれまでにちょっとずつ翻訳の勉強をしていたので、スタイリングで参加したり、訳された文章の直しを手伝ったりしました。
 無料のウェブマガジンだったので、翻訳自体は学生さんに頼んでいたみたいでした。私も英語を日本語に翻訳することを少しはできても、ほかの人の文を直す方法など知らなかったので、ほとんど全部書き直すこともあり、いま考えると失礼なことをしていましたね。
 当時は仕事の合間の、時間があるときにだけ手伝っていました。そのウェブマガジンは、いまはお休みしているようです。

加賀山:そのあと2021年からファッションやメイク、ライフスタイル、セレブやスポーツ選手のインタビュー動画、配信ドラマやドキュメンタリーの字幕翻訳をされています。まえのウェブマガジンの仕事から6年ほどあいだが空いていますが、そこで何をされていたのでしょうか?

2019年カナダ旅行のバンクーバーにて

坂村:その間はスタイリストの仕事がすごく忙しく、翻訳から離れていましたが、ちゃんと勉強したいという思いは漠然と持っていました。東京の映像翻訳の学校が大阪で字幕翻訳の講座をはじめられたので、2018年から、週1回かようことにしたんです。2年ぐらいかよって、ちょうど卒業する時期にコロナ禍がはじまって街を移動できなくなり、「ほんまに卒業したんかな」というモヤッとした感じでしたが(笑)、卒業証書はいただきました。

加賀山:オンラインではなくて通学だったのですね。

坂村:当時、大阪で映像翻訳を習おうと思ったらオンラインしかありませんでした。でも専門のソフトウェアの使い方なんかも含めて、かよって習える環境でないと私には習得するのは無理だと思ったので、通学で勉強したんです。その後2021年に、アメリアから応募した翻訳会社に登録できたんです。
 いまもそうでしょうけど、そのころ映像翻訳は、未経験で採用してくれるところがすごく少なかったんです。そのなかで未経験でも応募できる会社を探し、トライアルに合格しました。そこからファッションやメイク、インテリアに関するインタビュー動画、ドキュメンタリー、リアリティショーやドラマなどのお仕事をいただくようになりました。またスペイン語、フランス語、韓国語の映像で、英語の台本があるような作品も訳しています。

加賀山:アメリアにはいつ入会されたのですか?

坂村:だいぶまえです。もともと翻訳に興味があって、2010年ごろフェロー・アカデミーで「ステップ」と「初めての映像翻訳」を受講しました。はじめは原稿用紙に課題の訳を書いて郵送していた覚えがあります。たしか同時にアメリアにも入会したはずです。
 ただ、フェローさんで習ったのは基礎だけで、まだ仕事なんてとんでもないというレベルでした。映像は翻訳のなかでも特殊だと考えていたので、映像翻訳学校にかよって力をつけてから、アメリアのトライアルを受けたんです。

加賀山:アメリアに入ってよかったことというと、トライアルを受けて仕事が得られたことでしょうか?

坂村:そうですね。アメリアから応募して登録できたことが自信につながり、大きなきっかけとなったことは間違いないです。当時登録した会社とは、いまもお付き合いがあります。
 ひとつ思うのは、古い考え方なのかもしれませんが、お仕事をいただくご担当の方とはメールのやり取りだけで直接お会いすることがないのは不思議な感じがします。長くたずさわってきたスタイリストの仕事は、現場にいろんな人が集まってする仕事だから、なおさらそう思うのかもしれません。

加賀山:仕事のやり方に大きな違いがあるのですね。いまは何社ぐらいに登録されているのですか?

坂村:2~3社です。スタイリストの仕事と調整しながらやっています。

加賀山:翻訳の仕事としては、ほかに何がありますか?

坂村:ビジネス関連の動画の仕事もいただいています。ITなどのビジネス系のウェビナーや説明動画、著名人の対談や講演の動画。また、IT含め、さまざまな企業の製品紹介の動画などもあって、数が多くて自分でも忘れてしまうくらいです(笑)。たまにほかの仕事で調べ物をしていると、「あ、以前に私が字幕を付けた」というのが出てきます(笑)。
 ドラマなどなら、数カ月かけてひとつ仕事を終えるという感じですけど、ビジネス関係はほとんど単発で、短期で仕上げます。

加賀山:お仕事が途切れずにあるのはいいことですね。

坂村:でしょうかね(笑)。私は長くフリーランスで働いていますので、「この時期はむちゃくちゃ忙しい。でも来月は何もない」といった不規則なペースで働くことがしょっちゅうでした。会社員をずっとされていた方だと体がおかしくなるかもしれませんが、私は昔からそうでした。
 いまはまだ仕事にムラがあって、暇なときは暇なので、またトライアルを受けて登録先を増やしていかなければと思っています。

スタイリストの仕事との両立

加賀山:経歴についてうかがいます。働きはじめたときからスタイリストだったのですか?

坂村:ファッションの専門学校を卒業したあと、スタイリストの方のアシスタントに付きました。その後3年ほど、広告やカタログの写真を撮るスタジオのスタイリストとして会社員をしていました。そこを退職してからはずっとフリーランスです。

大阪万博フランスパビリオンのクリスチャン ディオールの展示

加賀山:どの時点で翻訳をやろうと思ったのですか?

坂村:子どものときにアメリカに住んでいて、そのころ観たドラマなんかをよく憶えています。なので映画を観ても、字幕の仕事があるということは昔から意識していて、本も翻訳書を読むことが多かったと思います。
 その後、英語から離れていましたが、スタイリストとして現場で働きだすと、海外のモデルさんとしゃべるときに英語がすごく役に立ったんですね。

加賀山:たしかにそうですね。

坂村:それで「ああ、なんかおもしろいかも」と思って、フェロー・アカデミーの通信講座を受けました。たしか『通訳翻訳ジャーナル』のような雑誌を何気なく買って読んでいたときに見つけて。
 映像の基礎を学んだあと、スタイリストの仕事のほうが忙しくなって、勉強からしばらく離れているうちに、特殊なソフトをパソコンに入れて字幕を作るのが主流になりました。スタイリストの仕事ではパソコンにまったく縁がなかったので、そのソフトの使い方も学ぶのにオンラインでは無理だと思っていたら、直接教えていただける学校が大阪にできて、かよいはじめたんです。

加賀山:スタイリストというのは、具体的にはどういうお仕事ですか?

坂村:私は映像よりも写真の仕事が多いのですが、雑誌や広告、カタログの撮影をするときに、ファッションや小道具全般を準備し、現場で整えて撮影が滞りなく進むようにする仕事です。

加賀山:背景とかは?

坂村:基本的にはクライアントさんの意向に沿って、広告やカタログを企画、デザインする人が決めます。でもカメラマンなどと、みんなで意見を出し合っていろいろ決めることもあります。

加賀山:何かアイテムが足りないときには、どこから調達するのですか?

坂村:ある程度は自分で保管していて、足りないものは借りられるところもあります。そういうお店や会社とのつながりが大事です。翻訳とはまったく違う世界ですね。

加賀山:いまスタイリストと翻訳の仕事は、時間の割合でいうとどのくらいですか?

坂村:使っている時間でいえば、月によってまちまちですが、翻訳が7~8割くらいですね。

加賀山:翻訳がメインになっているのですね。セレブやスポーツ選手のインタビューというのは、ファッションから離れているように思いますが?

坂村:グローバルなメディア企業が配信している動画で、俳優やモデル、スポーツ選手などのライフスタイルに関するインタビューです。また、科学の最先端技術の紹介や、社会問題を扱ったものなどもあります。

加賀山:すべて字幕の仕事ですか?

坂村:すべて字幕です。習ったのは字幕だけで、吹替は勉強していないので。

加賀山:ファッション関係の仕事で、とくにほかと違うと感じることはありますか?

坂村:ファッション関係はサイクルが短いですね。例えばコレクションが発表されると、紹介する関連動画なども一斉に出ます。そして半年先にはもう次のコレクションが発表されます。あとでじっくり見返すというよりスピードが命です。
 そういう意味ではドラマやドキュメンタリーなどとは違いますね。

加賀山:現場でスタイリストをしていることが翻訳に役立ったケースはありますか?

坂村:ありますね。ファッションショーの舞台裏を映したような動画だと、「いまはこの段階やな」とか、「いまからメイク」、「ヘアに取り掛かってドレスの手直しに入る」など、なんとなくわかります(笑)。手順とか用語になじみがあるので。
 また、たとえばインタビューの動画で、わざとスタッフの声を入れることや、撮っているカメラマンの指示をそのまま流して臨場感を作ることがあるじゃないですか。ああいうときのちょっとした掛け声などは、日本の現場で経験しているのでニュアンスがわかります。

今年の夏、大阪中之島美術館にて、ルイ・ヴィトン「ビジョナリー・ジャーニー」展の展示

加賀山:なるほど。本を訳すときの調べ物でも、その道の専門家に訊くのがいちばん確実で信頼できますが、ファッションに関してはまさに現役の専門家ですから、そこは強みですよね。

坂村:科学の話とかは素人ですけど(笑)。ドラマや映画なら調べる時間があるかもしれませんが、インタビューなどは納期がすごく短いので、専門家を一から探して訊く時間もありません。自分のまわりにその分野にくわしい人がいれば訊けるんですけどね。

加賀山:これから私もファッション関係でわからないことがあったら、坂村さんに訊きます(笑)。

坂村:なんでもどうぞ(笑)。

加賀山:ちなみに、昔からフリーランスでしたら、インボイス(適格請求書等保存方法)の登録もされていますか? 翻訳者には登録していない人もけっこういますが。

坂村:登録しています。スタイリストの仕事は領収書などのやりとりがすごく多くて、登録していないとかえって面倒くさいことになるんです。だから、なんの疑いもなく登録しました。いまだによくわかっていませんが(笑)、年に1回のことなので、自分で処理しています。

ドラマや映画にも仕事を広げたい

加賀山:とくに好きな映画やドラマはありますか?

坂村:うーん……いまは勉強も兼ねて、とにかく数多く観るようにしてるんです。映画館に毎日かようわけにはいきませんけど、配信があるので。趣味と実益を兼ねて。

加賀山:スタイリストをやっておられること自体、勉強といえば勉強ですよね。

坂村:ファッションに関してはそうですね。

加賀山:これからどういう仕事を増やしていきたいですか?

坂村:ドラマを訳したいですね。昔から警察ものや法廷ドラマなどのシリーズものをよく観ていました。でも全般的に、ヒューマンドラマや恋愛もの、もちろんファッション系、ホラー、コメディなどなんでも好きです。仕事としてももちろん、いろんな作品を手掛けたいです。SFなどは調べものがたいへんそうですけどね。来るものは拒まずの精神で。
 あと、ドキュメンタリーも好きです。仕事でもやったことがありますが、バミューダ・トライアングルとか、植物の探究とか(笑)。ナショナルジオグラフィックやヒストリーチャンネル系ですね。

加賀山:科学、歴史、自然、動物……ドキュメンタリーは種類がたくさんありますよね。どれがお好きですか?

坂村:観るほうでいえば、犯罪や事件ものが好きです。「9/11の裏側」みたいな陰謀をあばく系とか(笑)。お仕事となればなんでも。皆さんそうじゃないですかね、来た仕事を「いやこれ私、苦手やから」って言う人はいないのでは? そんなん言うてる場合じゃないような(笑)。

加賀山:ですよね。出版翻訳でも、よほどスケジュールがぶつかっていないかぎり、皆さん引き受けると思います。実務や映像に比べれば納期が長いので、できる気もして。実際にはできないこともあるんですが(笑)。

坂村:映画ももちろんやりたいですけど、なかなかまわってきませんよ。入りこむ余地なしという感じで。

大阪万博大屋根リングからの夜景

加賀山:翻訳会社のほうにそういう仕事があれば、入ってくるかもしれません。

坂村:いろんな会社のトライアルを受けて、取引先を増やさないといけませんね。いまはトライアルをやっていない会社も多いので、たいへんです。私も先方に履歴書を提出して、「じゃあ、次にトライアルがあるときに声かけますね」と言われて、いまのところ何もないということが何件かあります。

加賀山:トライアルのまえに書類選考があるんですか?

坂村:皆さん大体そうですね。なので書類を送るだけで終わることや、トライアルに合格してもお仕事をいただけないこともあります。翻訳会社さん自体に入る予定だった案件が入らなくなった可能性もあるので、なかなかこっちから「あれどうなりました?」とは声をかけづらいですね。

加賀山:御用聞きのようなことは、ふだん難しいですよね。

坂村:逆の立場で考えると、ウェルカムという方もいらっしゃるでしょうし、そうでない方もいるでしょうし。ご担当者しだいでしょうかね。そういう意味でも、やっぱり実際に顔を合わせていないとわからないんです。東京だと、「ちょっと近くまで来たんで」みたいにご挨拶に立ち寄れるんでしょうか。ほんと、皆さんどうされてるのかなと思って(笑)。

加賀山:いや、東京でもそんなに状況は変わらないと思います。これまでインタビューでうかがったなかでは、そんな感じで担当会社を訪ねている方はあまりいませんね。映画だと試写会などがありますから、そういうときに字幕翻訳者が現場に行って挨拶するようなことはあるみたいですが。

坂村:そういうときが営業のチャンスなんですね。吹替をされる方は、声優さんたちのアフレコ収録に立ち会ったりするみたいですけど、字幕の仕事だとなかなかそういう機会がなくて。

加賀山:たしかにそうですね。吹替の仕事もなさっては?

坂村:吹替をやるためには、また学校へ行かないと(笑)。

加賀山:字幕と吹替というのは、そんなに違うんでしょうか?

坂村:違っていそうですけどね。吹替はセリフを口に合わせなきゃいけない、母音の口の開き方も考えなければならないなど、ルールがたくさんあるようです。ト書きも作って、主人公たちのうしろのテレビ音声など、ガヤもセリフとして書き出すんですよね。
 どれも覚えてしまえばいいんでしょうけど、最初の知識がないので、やはり独学では厳しいと思います。オンラインで受講してもいいですね。

加賀山:最後に大きな質問ですが、坂村さんにとって、翻訳とは何でしょうか?

坂村:翻訳とは、文章や音声を別の言語にすることだと言ってしまえば機械翻訳やAI翻訳もたしかにそうです。でも細かいニュアンスや実際に言いたいこと、行間までをも伝えることが本当の翻訳だと思います。そこを目指していきたいですね。

■ 昔、ケイビング(洞窟探検)が出てくる小説を訳して、よくわからない箇所があったときに、ホームページ経由で実際にやっている方に質問したらすぐに答えがわかったことがありました。実際の仕事でファッションにたずさわっているというのは、翻訳のうえでも大きなメリットだと思います。今後、活躍の幅が広がりますように。

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