池守 :子ども向けのフィクションでデビューして、科学絵本を3冊訳された小寺さんですが、これから翻訳してみたい分野や本などがありましたら教えてください。
小寺 :子どものころの自分にとって、本は世界への扉を開く鍵でしたし、読書は子どもの「生きる力」を育ててくれると信じていますので、子どもたちに読書の楽しみや物ごとを知る喜びを味わわせてくれる本を紹介したいです。思いがけず訳すことになったノンフィクションも、フィクションとは違う良さを感じているので、これから子ども向けのノンフィクションの良書、例えば社会系のノンフィクションも探していきたいと思います。
池守 :子ども向けの社会系ノンフィクションですか。
小寺 :はい。実は最近、翻訳家のさくまゆみこさんが主宰している「アフリカ子どもの本プロジェクト」に参加したのをきっかけに、アフリカ各国の現状、難民や紛争の問題、エネルギー問題などを描いた、今まで知らなかったタイプの本に出会うことができました。そういう国際社会を知るきっかけとなる本を、もっと日本の子どもたちに読んでもらうお手伝いができればと思っています。
池守 :なるほど。日本にも外国人が多く訪れるようになりましたし、これからの日本の子どもたちは、今にも増して世界に目を向ける必要がありますよね。
小寺 :そう思います。日本とは全く異なる環境があり、違う生活があるということを知る必要が、これからはますます高まると思います。それ以外では、昨年出版された『ぼくが本を読まない理由(わけ)』には続編があるので、翻訳できたら嬉しいなと思っています。あとは、日本であまり知られていないアイルランド人作家の作品や、出版は難しいと言われますが子ども向けの楽しい詩集なども翻訳したいです。
池守 :もともとは英文学の研究者を志しつつ、社会とのつながりの必要性を感じていた小寺さんにとって、文学と実社会を結び付ける翻訳というお仕事は天職だったのかもしれませんね。
小寺 :そうかもしれません。それに私の場合は子どもに手をかけられるうちはそばにいたかったので、自宅でPCさえあれば勉強も仕事もできる翻訳は続けやすい形態だったと思います。もちろん、仕事となると苦しい面もあります。本当なら納得するまで翻訳と推敲に時間をかけたいところですが、仕事には納期があります。最初に納期から逆算して毎日のノルマを決めたとしても、思ったほど進まない日もあり、突発的に何かが起きて仕事が出来ない事態も考えらえます。そんなことを考えると、締め切りまではかなり緊張しているのを自分でも感じます。
池守 :ご家族が体調を崩したり、ということは予測できませんしね。
小寺 :ええ。ただ、主婦って、普段から一日の中で様々な用事をこなしていますよね。だから、細切れの時間の使い方のエキスパートなのかもしれません。
池守 :確かに! 先に苦しさの話になってしまいましたが(笑)、翻訳の楽しさはどんなところにあると思われますか?
小寺 :訳すこと自体であれこれ悩む時間は、実は楽しい時間ですね。本の世界に入り込んで、登場人物に自分なりのイメージをもち、それに合わせた表現を考える過程は、苦労に勝る楽しさがあります。それに、次男も中学生になり子育てが一段落した今、本当にやりたいことは翻訳だと確信し、その一歩を踏みだせたことは何より嬉しいです。
池守 :やっぱり、本当にやりたいことができるって幸せですよね。それができたのも、子育て中も途切れなく本に関わってこられた時間があってこそだと思います。継続は力なりですね。小寺さん、今日は貴重なお話をありがとうございました。