【アメリア】翻訳ドラマ大賞
翻訳コンテスト
 
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美由紀 ウイアー
さん

人生、山あり谷あり。翻訳人生にはさらに崖あり罠あり、アイス・バーンあり。
私がオーストラリアの法律事務所の翻訳と通訳を手がけるようになって、すでに13年が経つ。この「足元注意」や「この先、崖あり」の標識もない、四方八方、濃霧に包まれた予測不可能なでこぼこの路上で、これまで一人、やむなく踊ってきたてんてこ舞いの一端をここに記してみようと思う。
 
・翻訳者、タコと化す
 
法律関係の翻訳には様々な分野があるが、なんといっても一番恐ろしく、面白く、かつ、やり甲斐があるのは訴訟関係である。当事者に日本人が関係していれば、ましてや原告か被告のいずれかが日本人か日本企業だとすれば、当然、かなりの量の日本語の証拠書類や証人が出てくる。開示という、その訴訟に関するあらゆるデータを当事者間で公開し合う手続きの中で、この膨大な日本語の書類が忽然と登場する。相手側弁護士事務所の一室の端から端までずらっと並べられた分厚いファイルの束の中から、どれがその訴訟に重要な書類かを弁護士と一つ一つ洗っていくのがまず最初の仕事だ。

これはその時により、数日かけて日本語の書類全てを弁護士と見ながら、私がざっと内容を読み、概要を伝えて弁護士が判断する場合もあれば(これは時に判読不可能な手書きのメモであったり、難しい法的書類であったりして、内容を読んですぐ把握し、その場でサマリーにして英訳しなければならないため、かなりのプレッシャーがかかる)、あらゆる書類を全訳して書面にしなければならない場合もある。

いずれにしても、社内書類や、専門語や略語を使った内輪同士のメモなども多いので、訴訟の内容が事前にきちんと頭に入っているといないとでは仕事のスピード、質に大きな差が出てくる。そのため、この手の仕事の前には、忙しい弁護士を捕まえ、詳しいブリーフィングをしてもらうことが必須となる。そういう事前準備をしても、長期間、書類を翻訳していきながら、徐々にいろいろな背景が見えてきて、最初の頃に仕上げた訳を大幅に変更せざるをえなくなることはざらにある。とにかく長期戦なのだ。

訳す書類は、どれが後に裁判で重要証拠としてクローズ・アップされるか分からないため、かなり神経を使う。大変なのはテープから起こす翻訳だ。証言や会議内容を録音した、何十本ものデクタホン用の小型テープが目の前にブロックのように積み上げられ、デクタホンの使用方法をその場で教わる。これは秘書が使用している、両足を駆使して操作する、足踏みミシンかエレクトーンか、という代物。とにかく翻訳日数が限られているので、機器の操作に戸惑っている場合ではない。すぐにデスクの下で大げさに両足をばたばたさせながら(上手く使えないための地団駄入り)始めることにする。
 
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