【アメリア】みんなで作るインタビュー10・田口俊樹さん インタビュー編
 
  みんなで作るインタビュー


 [インタビュー編]
読み物  
田口俊樹さんへの質問を送ってくださったみなさん、ありがとうございました!みなさんからの質問にお答えいただいた「インタビュー編」です。









 第10回 田口俊樹さん
 
<第10回> 紹介編インタビュー編  全2ページ


訳書中、「呼ばわった」という表現が何回か出てきましたが、久しぶりに聞いた言葉で新鮮でした。原文ではどのような単語が使われていたのでしょうか?また、この表現にどのような意図をこめて使ったのか教えてください。(ワンダーブレッドさん)

いやあ、このことば、ちょっと古いかなと思いつつ使っているので、かえって「新鮮」というありがたいおことば、意を強くしました。原文はloud なりloudlyなりが含まれている文、あるいは、screamであっても「叫ぶ」は使いにくい文で、「大声で」とか「声を大きくして」といった言い回しがなんだか説明的に思われるとき、この「呼ばわる」を使うことが私の場合よくあります。

ただ、ひとつ白状しておくと、このことば、私自身大昔に大先輩の村上博基さんの訳文で見つけて以来、パクリつづけていることばです。


「物語中に出てくる架空のものは、どのようにして訳語をつくるのでしょうか。」(雅さん)

これはもう100パーセント想像というか、妄想というか。普段は、造語はできるだけ自戒しているのですが、SFを初めて訳して、翻訳歴27年にして初めて造語の愉しさを知りました。これってちょっと隠微な愉しさです。



壮大な世界観と作りこまれたストーリーで、日本語で読んでも一回では理解し切れない場面もありました。このような複雑なストーリーの場合、原書は何回くらい読まれるのでしょうか。また今までに手がけた翻訳書と比べて、読んだ回数は多かったですか?それとも変わらなかったですか?(朧さん)
確かにかなり複雑で微妙なストーリーですよね。

構文そのものがむずかしいこともあり、恥ずかしながら、一度読んだだけではストーリーすら正確に追うことができませんでした。
二度読んで、だいたいわかって、あとは何度も繰り返して読んだ部分が何個所もあります。でも、作者自身、「友達に原稿を見せたら話が複雑すぎると言われ、これでもだいぶすっきりさせたつもりなんだが」なんて言っていました。これまで訳した本の難易度で言うと、ジョン・ル・カレの『パナマの仕立屋』が東の横綱で、この『オルタード・カーボン』が西の横綱って感じです。


コヴァッチがアネノメに会って情報を収集する際にコヴァッチ自身が女性であるとだます場面(上巻P165)。コヴァッチの台詞部分は「俺」として男性言葉になっていました。原文はおそらく「I」だと思いますが、このような場面では「俺」と「私」で迷われたのではないかと推測しました。もし実際に迷われたのなら、どうして「俺」と男性言葉で訳すことに決めたのかを教えてください。(原文を読んでいないので的外れな質問でしたらすみません。私なら、女性に迫られても反応しない行動をとる抜け目ないコヴァッチですので、女性であると打ち明けた後の台詞は女性言葉で訳しただろうと思いました) (Jimyさん)

いやあ、鋭い!って、実はそこの個所は見逃してほしかったんですけどね。ご質問のとおり、大いに悩みました。で、最初は理屈に照らして女ことばにしたんですが、どうもこれがハードボイルドの主人公としてしっくりこなかったんです。このあと拷問されるところでも、また女にさせられてしまいますよね。


そこも同様です。「お願い、助けて」なんてコヴァッチに言ってほしくなかった、理由はそれに尽きます。で、編集者とも相談して、拙訳のようにしました。ここのところはどうかお目こぼし、ご海容のほどを、としかほかに言えません。

すでに別の翻訳者が訳した作品が出版されている作家と、今回のように新人の作家を訳す場合とでは、アプローチが違いますか?(ジロ−さん)

違います。新人のほうが楽です。旧訳がある場合には、邦訳によってある程度イメージができあがっている場合が多いですから、そのイメージをまず吟味する必要があります。その分面倒です。さらにその結果、旧訳のイメージと自分が思い描くものとがずれてしまった場合、困っちまいますよね。私の経験では、ディクスン・カーという本格ミステリの大御所が書いたフェル博士が主人公のシリーズものを訳したときがそれで、これは大いに困りました。それまでのフェル博士のイメージは「わし」&「じゃ」なんですけど、どう読んでもそういう話し方には読めない。ただ、この「わし」&「じゃ」のイメージがあまりに強烈なので、最初は試してみたりもしたんですが、やっぱ翻訳者の良心のようなものが疼いて、「私」&「だ」OR「です」にしました。



そのことに対するカー・マニアの評価はまちまちだと思います。

著者にメールで質問をしたとのことですが、具体的にどんな質問ですか?また、モーガン氏からはどのような返事があったのですか?(kazさん)
質問はすべて翻訳に関わること、つまり不明点を訊いたわけです。全部合わせると、百箇所近かったような気がする。以下が一部(一番最初の質問)です。

〜田口氏の質問〜


Dear Richard,

I have just started to polish my translation, and would like to ask you some
questions for the starter. There may be apparent questions included, and I
am sorry to bother you, but will be very glad if you answer me. ( The number
of the page is according to the hard cover edition.)

1 p.3-l.14 from the bottom---Shift and slide of altered significance---Does
this phrase have some background? The thin crimson line seemed to sparkle
slighty to Kovacs. That is side effect, isn't it?

2 p.10-l.23---What is Glimmer system?

4 p.12-l.15---Protectorate is governed by UN?

5 p.12-l.23---Syntheta's and Fabrikon---They are stores or facilities for
synthetic sleeves?

That's it for now. I look forward to your answers. I hope everything is fine
with you.


Toshi

 
〜モーガン氏の返事〜


Hi Toshi,

How's things in Japan?

Have been rushing around a bit doing family stuff, but I'm now back and
plugged into my machines again. Also in pain from too much enthusiastic
rock-climbing - can hardly type, my fingers are so sore! You would think at
age nearly forty, I'd have learnt a bit of moderation, but it seems not!

In answer to your queries:

1) no special background - when you take this drug, the things that your
mind thinks are important or noticeable change and everything look different
(the sparkling line hallucination is an example) Kovacs feels that reality
is shifting and sliding around.

2) Glimmer is the name of the sun that Harlan's World orbits - the Glimmer
system is the solar system there.

4) The UN is basically the Earth's global government - the Protectorate
refers to all the settled planets, which are under UN control

5) Syntheta and Fabrikon are two makes of synthetic sleeves, the names of
two companies that make them (like Sony and Panasonic today)

Let me know if you have any more queries.

Cheers

Richard


好きな作家は誰ですか?そして、その理由を教えてください。(musashiさん)

好きな作家と訊かれて、まず思いつくのは吉行淳之介で、これは三十年変わっていません。簡潔で乾いた文章が昔から好きなので、そのせいでしょう。

翻訳者にとって大切なものは何ですか?(TAMAGONさん)
想像力だと思います。



■「作家にとって大切なもの」は?紹介編の最後にお約束した、田口氏がモーガン氏に投げ掛けた質問、「作家にとって大切なものをふたつ挙げてください」に対する答えをご紹介しましょう。実は、『オルタード・カーボン』のあとがきにも田口氏が書いていらっしゃるのですが、モーガン氏はかなり長い間考えたあとにこうおっしゃったそうです。


「passion & compassion」(熱情と同情)。

「そう言われたときに、この作品に僕自身がなぜ惹き付けられるのかがわかったような気がしました。モーガン氏は『悪人を書いているんだが、だんだん悪人がかわいそうになってくるんだ』と言っていた。悪人だって悪人なりの生い立ちがあって、同情すべきところがあるような気がして、その悪人に同情をしている自分に気付くということを照れくさそうにおっしゃったんです。

それが非常に印象的でね。作品が描いているものは、腐敗した未来像、金持ちはもっと金持ちになり、貧乏人は貧乏なまま、とあまり明るいものじゃないんですが、なにか救いが残っていると感じるのは、この“熱情と同情”がうまい具合にバランスを取っているからじゃないかなという気がしましたね」(田口氏)

 
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