【アメリア】対談の部屋 13-1 マンガ専門の出版社が翻訳出版に新規参入! 翻訳書未経験の編集者とフィクション未経験の翻訳家が二人三脚で歩んだ奮闘記
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<第13回> 全6ページ

第13回 マンガ専門の出版社が翻訳出版に新規参入!翻訳書未経験の編集者とフィクション未経験の翻訳家が二人三脚で歩んだ奮闘記
    
                          佐藤氏  vs.  小林

 出版社の「マッグガーデン」と聞いてピン! ときたあたなはかなりのマンガ好きですね。

 これまでマンガ誌やコミックを専門に出版してきた同社が翻訳出版に新規参入! 2006年11月末に3冊の翻訳書籍を刊行しました(『アクセラレイション―シリアルキラーの手帖―』 『超能力カウンセラー アビー・クーパーの事件簿』 『プリティ・リトル・デビル』)。そして『超能力カウンセラー アビー・クーパーの事件簿』の翻訳者としてアメリア会員の方が携わったのです。

  今回は、翻訳書を初めて担当したマッグガーデン編集者の佐藤さんと、同じく初めてフィクション翻訳を担当した、翻訳者でありアメリア会員でもある小林淳子さんにお越しいただき、共に新境地を切り開いた『超能力カウンセラー アビー・クーパーの事件簿』刊行までのお話を伺いたいと思います。





編集者 佐藤氏 (写真左)

マンガ誌、コミックを専門とする出版社「マッグガーデン」の編集者。今回の翻訳出版を機にこれまでのマンガ編集に加えて翻訳書も掛け持つことに。ますます多忙な日々を送っています。


翻訳者 小林淳子氏 (写真右)

子供の誕生を機に翻訳の勉強を開始。ノミネ会員(現在のクラウン会員)を対象にしたトライアルを経て『顔の若さを保つ』(産調出版)で翻訳者デビュー。これまでの主な訳書は『ドッグトレーニング』(ペットライフ社)、『宇宙旅行ハンドブック』(文藝春秋)など。

『超能力カウンセラー アビー・クーパーの事件簿』

ヴィクトリア・ローリー 著 小林淳子 訳 小林ユミヲ イラスト


予知能力を使ってカウンセラーをしているアビー・クーパーは31歳独身、カレシ無し。ある日、カウンセリングした相談者が何者かに殺害される。おかげでせっかく出会ったイケメン刑事に疑われた上、やがて事件にも巻き込まれ……。恋するサイキックのドタバタ事件簿。著者のローリー氏自身もサイキックカウンセラーとして活躍しており、本作品はアメリカで第4巻までが発売されている(2006年秋現在)。




1.コンセプトは『活字で読めるマンガ』。文芸翻訳書のジャンルに未開の地を発見!


――翻訳書籍を出版することになったいきさつを教えてください。

佐藤:当社はマンガを主力にそれらを原作にしたノベライズなども出版しているのですが、出版不況と言われる昨今、やはりそれだけではちょっと厳しい。そこで、当社の特性を生かしつつ、顧客の新規開拓もできる何かを新たに始めようということになり、編集部で企画を出し合って検討していったんです。

小林:そこで翻訳出版の話が出たのですか?

佐藤:ええ。実は最初にライトノベル(マンガ風のイラストが入った娯楽小説。主に中高生を読者対象としている)を出す、という企画も上がったんですけど、調査したところ、この分野はもう飽和状態の傾向にあって、他社とは違ったアプローチが必要かと。

小林:それではなぜ、翻訳書に?

佐藤:翻訳書籍もすでに多くの出版社が手掛けて実績を築いており、自分達が後発なのは明らかだったんですが、話の流れからライトノベル的な翻訳書籍は見当たらないことに気が付いた。ならばうちでやろう、やってみる価値はある、ということになったんです。実際弊社の雑誌でも『活字で読めるマンガ』をコンセプトに押し出していたので、その翻訳版を考えてみようと。

――社運を賭けた事業でもあったわけですね。でもライトノベルって日本のみの概念なような気がするのですが。外国書でそれに該当するのって「ファンタジー」?

佐藤:ファンタジーは確かに日本のライトノベルと近いものがありますが、読者層がもっと低年齢まで広がってしまうし、どうしても「道徳」的な要素を避けられない。我々が求めるのはあくまでも「ライトノベル的なもの」であって、エンタテインメントに富み、マンガを読むように面白く読める、若者を対象とした海外の娯楽小説ということです。

――なるほど。それでは『ブリジット・ジョーンズの日記』はそのカテゴリに入るのでしょうか。

佐藤:確かにこの作品は男女問わず若者に人気がありましたが、我々としてはストーリーにもっと振幅があるものを狙っているんです。読んでいて絵がパッと浮かぶような。

小林:それはまさにマンガ専門の出版社の特性を生かすって感じですね。

――何か新しいことを始めるとなると苦労がつきものですが、その辺はどうでしたか?

佐藤:いざ「翻訳書をやろう!」と意気込んだところで、日本の作家やマンガ家なら書いたもので評価できますが、翻訳書は訳さないと上司は評価できない。でも訳すためにはお金がかかるし版権を取るのも前払いですから、理解を得るのが大変でした。あとは翻訳書は未経験ということで、しがらみはないけど情報もない(笑)。情報収集のため、たくさんの人に話を聞きましたし、エージェントも紹介していただきました。書店さんにも話を伺っていろいろと教えてもらいましたよ。

小林:今回、翻訳を担当させていただいた『超能力カウンセラー アビー・クーパーの事件簿』はどういう経緯で選ばれたのですか。

佐藤:エージェントからも多くの作品を紹介してもらい、英語のわかる知人や後輩を総動員して片っ端からリーディングしてもらったんですけど、「面白かった」という感想がなかなか来ない。この作品を最初に知ったのは、洋書レビューを綴った個人のブログでした。結構、冷静に批評していてどの作品についても良いところと悪いところを綴っているのに、何故かこのアビー・クーパーについては最初から最後まで誉めっぱなしでノリノリの記事だったんです。

小林:確かに、この小説はアグレッシブな主人公アビーの一人称形式ですし、タイトルからわかるようにスリル&サスペンスはもちろんのこと、アビー世代の女性には欠かせない恋愛も絡んでくるので、ノリノリで読み終わってしまうのはわかる気がします。私もノリノリで訳しましたから(笑)。

佐藤:そう、ストーリーはエンタテインメントに溢れているし、主人公のキャラは外見もまあまあで性格だって悪くない、にもかかわらずなかなか彼氏ができない31歳の女性。これなら日本の若い読者層にも受け入れやすい。つまり、我々が求めているものに当てはまったんです。エージェントに問い合せたら、幸いまだどこも版権を取得してなかった。念のために友人にもリーディングをお願いしたんですけど「とても面白かった」というので、第一弾として刊行するうちの一冊はコレにしよう! となったわけです。

小林:なるほど。でも、このアビー・クーパーは本国アメリカではとても好評でシリーズ化されてます。2006年秋時点で、第4巻までが発売されているという人気ぶりなのに、どうして版権が手付かずだったんでしょう。

佐藤:うーん、確かに他の出版社も検討はしただろうと思います。これは推測だけど、内容とその原稿量を日本の規格に差替えた時、既存の型に合うものがなかった=日本では売り難いと判断されたんじゃないでしょうかね。おかげで我々が版権を得ることができたわけですけど(笑)。

小林:そのおかげで私も初めてのフィクションを訳すことができたわけですね(笑)。でもそれって、例え本国で人気があって面白いものでも日本サイドの都合で私たちの目には触れないままになっている作品は他にもある、ということですよね。

佐藤:面白いのがあるんですよ、結構(笑)。改めて翻訳出版にはまだ開拓の余地があると思いました。
 
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