翻訳業界のトレンド「マーケティング翻訳」
翻訳業界の大きなトレンドとして最近よく耳にする言葉に「マーケティング翻訳」があります。英語の翻訳者を目指しているのであれば、翻訳のジャンルの一つであるマーケティング翻訳の特徴をしっかりと把握しておく必要があります。
今回はマーケティング翻訳について詳しく説明していきます。
マーケティング翻訳とは
マーケティング翻訳で翻訳者が行う仕事は、企業の公式サイトやSNS、パンフレット、プレゼン資料などを含むマーケティングドキュメントの翻訳です。企業がマーケティング目的で使用するコンテンツ全てが対象となりますが、代表的なものには、
- ・企業のWebサイト
- ・カタログ
- ・製品紹介
- ・プレゼン資料
- ・ブログ
- ・プロモーション動画などの字幕や吹き替えスクリプト
- ・プレスリリース
などがあります。
マーケティング翻訳の特徴は、専門家に向けた文章ではなく、一般ユーザーに読んでもらうために制作されるコンテンツであるということです。また、これらのコンテンツの多くはメッセージ性が高く、翻訳者は読み手であるユーザーを強く意識して翻訳する必要があります。
マーケティング翻訳の目的はWeb集客
マーケティング翻訳の目的は、商品やブランドに興味を持ってもらい、このブランドの商品であれば「買いたい」とユーザーに思ってもらうことです。
マーケティング翻訳そのものは以前から存在していましたが、様々なビジネスシーンでデジタルシフトやオンライン化が速度を速めていることが大きく影響し、近年になってその需要が一気に高まってきました。それと同時にクライアントが求める訳文レベルもさらに高くなってきています。
こうした状況下でマーケティング翻訳で翻訳者に求められるものは、
- ・ユーザーに「読んでもらえるコンテンツ」
- ・「SEOを意識したコンテンツ」
の制作です。検索エンジンで上位表示される目的もありますので、翻訳者は様々な視点から質の高いコンテンツを納品しなければなりません。
マーケティング翻訳の目的はWebでの検索が直接結びつく集客にあります。また、B to B向けのホワイトペーパーも注目されていますので、特定の商品や技術を売り込む目的でその利点や長所などをアピールする必要があります。
Webサイトからの申し込みやホワイトペーパーは、良質なリードを得るための大きなツールですが、そのためにはユーザーファーストで作られた読みやすい翻訳文が必要になります。
一般的な実務翻訳で求められるのは「原文に忠実に翻訳する」ことですが、マーケティング翻訳ではより魅力的でキャッチーな表現が求められます。
マーケティング翻訳で翻訳者に求められる二つのスキル
マーケティング翻訳において翻訳者に求められるものは、翻訳能力の高さだけではありません。それ以上に大事なのは、原文からアウトプットされる日本語能力=ライティングスキルです。
読みやすい文章を書くライティングスキル
マーケティング翻訳においては、ユーザーにストレスを与えない「読みやすさ」が一番重要なポイントとなります。どれだけ正確に訳された日本語であっても、読んでいるユーザーが違和感を覚えるような日本語や内容が伝わりにくい文章では、最後まで読んでもらうことはできません。
繰り返し読まないと内容が入ってこないようなコンテンツでは、ユーザーに興味を持ってもらえないばかりか、その企業に対するマイナスイメージを植え付けることになってしまいます。
また翻訳者は誤解を生じさせない表現を用いる必要があります。複数の意味を持つ言葉の場合、翻訳者が正確に筆者の意図をくんで翻訳しないと、筆者の意図とは異なるメッセージが伝わってしまう可能性があります。読みやすく誤解を生まない日本語にするためには、高いライティングスキルが求められます。
キャッチーなライティングスキル
企業のサイトを訪れたユーザーに興味を持ってもらうために必要なのは、商品やブランドの良さが伝わるキャッチーな表現です。したがって翻訳者に求められるのは、魅力的で訴求力のある日本語のライティングスキルということになります。これはマーケティング翻訳では欠かせない要件だと言えます。
こうしたニーズに応えるために翻訳者は、しっかりとした事前リサーチをしなければなりません。翻訳者が行わなければならないのは、Webサイトを日本語に翻訳するだけの作業ではなく、企業の特長をユーザーにアピールできる翻訳です。そのような訳文を作るためには、企業の事業内容や製品についての事前調査は欠かせません。
マーケティング翻訳では、原文に書かれているメッセージやスタイルなどをそのまま訳文で表現する必要がありますが、国が変われば捉え方が違うこともあります。例えばアメリカ企業のサイトを翻訳する場合、原文がとてもくだけたフレンドリーな感じだとします。日本のユーザーに向けてそのままの雰囲気で訳文を作ってしまうと、日本人ユーザーには違和感を与えてしまうかもしれません。
こうしたケースで翻訳者に求められるものは、トランスクリエーションとも呼ばれるクリエイティブな側面を持った日本語のライティングスキルです。
マーケティング翻訳で実際に行う作業
マーケティング翻訳は大きく二つに分けることができます。
・見出しやタイトルの翻訳
見出しやタイトルは短い文章で作られていますので、日本語の言葉の選び方は短いだけに非常に難しいものです。翻訳者は原文が作られた背景や設定、ストーリーなどを理解して、ベストなワードチョイスで訳文を作らなければなりませんので、翻訳者には「文章の背景」を理解する力が求められます。
・コンテンツの翻訳
見出しに続く本文では、読みやすく企業の意図がはっきりと伝わる翻訳が求められます。訳文として間違っていなくても、ユーザーが途中で読むのを止めてしまうような文章になっていては意味がありません。ユーザーに最後まで読んでもらえるような魅力的な表現力も必要です。
企業が求めるマーケティング翻訳のWeb効果
Webサイトの翻訳などでは様々なスキルが求められます。検索エンジンで上位表示されている文章はどれも読みやすくユーザーの役に立つコンテンツばかりです。
Webサイトをどのように翻訳するかという課題は、企業にとって戦略上とても重要なポイントですので、企業がマーケティング翻訳で翻訳者に求めるものは、翻訳スキルだけではなくWeb上で効果を発揮する文章を書くことです。
翻訳分野の中で最も創造性が必要なのはマーケティング翻訳です。しかし、創造性と言ってもどこまでクリエイティブに訳していいのか、どこまで原文から離れていいのか、線引きは難しいとも言えます。
マーケティング翻訳まとめ
このようにマーケティング翻訳では、翻訳者の日本語能力が翻訳能力以上に重要だとも言えます。最近ではAI翻訳が増えてきましたが、そんな中マーケティング翻訳に注目が集まるのは、それが「人間にしかできない翻訳」だからです。
実務翻訳の分野で翻訳者として生き抜くためには、マーケティング翻訳についてしっかりとした知識を身につけておくことが大切となってくるでしょう。