翻訳者ニーズが高いゲーム翻訳の世界

翻訳業界の中でも特に翻訳の需要が高いのがゲーム翻訳です。世界中で新しいゲームが生まれていることもあり、ローカリゼーションなどの需要が増えていますが、需要の増加とは裏腹にゲーム翻訳者は不足しています。なぜなら、ゲーム好きでなければ翻訳者として成立しない、と言う背景があるからです。

今回のコラムでは、「ゲーム翻訳」を専門ジャンルにして翻訳者デビューを目指している方のために、このジャンルで求められるスキルやデビューに向けた準備などについて説明していきましょう。

ゲーム翻訳者に求められる基本スキル

一般的な実務翻訳と同様に、ゲーム翻訳者には高い言語能力が求められます。しかしゲーム翻訳ではそれ以上に、ゲームが好きでゲームに関する知識が豊富という素養が必要です。ゲーム特有の言い回しやUIに慣れ親しんでいれば、それは大きなアドバンテージとなるでしょう。

具体的にゲーム翻訳で求められるスキルや能力とはどんなものか以下で紹介します。

リサーチ能力

リサーチ能力に関しては、翻訳のジャンルを問わず翻訳者には絶対必要なスキルです。特にゲーム翻訳では、使用されるフレーズやテキストの歴史的・文化的な背景を調べ上げる能力が求められます。

またトライアルで、原文にぼんやり描かれている世界感や背景を翻訳するよう要求されることがあります。ここで試されるのは、やはり翻訳者のリサーチ能力となります。

テクニカルライティング能力

ゲーム翻訳では、柔軟でクリエイティブな翻訳能力だけが求められるわけではありません。テクニカルライティングに関しても高いスキルが求められます。具体例を挙げると

  • ・メニュー
  • ・各種設定やオプション
  • ・システムメッセージ
  • ・チュートリアル

などです。

クリエイティブなライティングスキル

ゲーム翻訳では、対話や物語を翻訳する必要がありますので、翻訳者自身がキャラクターの設定や性格を熟知していなければ、ゲームの世界観を再現する訳文は作れません。特にキャラクター設定においては、一貫性がありかつ適切でなければなりません。

ゲーム翻訳者としての経験を積むために

ゲーム翻訳者の求人のほとんどは、経験者を対象としています。これからゲーム翻訳者としてスタートを切ろうとしているのであれば、それなりのゲーム経験を積む必要があります。

そのためには、まずは無料ゲームやインディーズのゲームプロジェクト、ゲームのオープンソースプロジェクトなどに積極的に参加することをおすすめします。

ただし、これらの方法では、報酬は得られないでしょう。その代わり、このようなコミュニティに参加することで、「ゲーム翻訳の経験者」という肩書きが得られ、ゲーム翻訳者の募集条件をクリアできます。

ゲーム翻訳者に必要なコミュニケーション能力

一般的に翻訳業務において、翻訳者とクライアントは密接な関係を構築する必要があります。特にセリフが多いゲーム翻訳では、円滑なコミュニケーションが必要とされています。クライアントからの発注時に、例えば

  • ・会話部分のテキストを丸投げされる
  • ・テキストが会話の順番に並んでいない

このようなケースは翻訳者にとっては非常に厄介な状況ですが、現実に起こる可能性があります。

こうした問題を解決するために翻訳者に求められるのは、確認のため明確で簡潔なメッセージをクライアントに送ることです。お互いに無駄なやり取りをしなくてすむようにするためにも、「翻訳者が必要としている情報」をクライアントにわかりやすく伝える必要があります。

例えば、セリフのテキストに登場人物の名前が入っていないので翻訳ができないのであれば、ピンポイントでその要望を伝えるようにしましょう。また大きなプロジェクトの場合、複数の翻訳者が関わることになります。そのような状況下では、チーム内のコミュニケーションがより重要になります。そこで必要になるのが、ストーリーの一貫性や、ゲームに登場するキャラクターの性格といった詳細な情報を共有できるコミュニケーション能力です。

積極的にトライアルを受ける

ゲーム翻訳者としてデビューするには、第一段階としてトライアルに合格する必要があります。具体的にトライアルで重要視されるポイントは、

・違和感のない日本語

会話文などが多いゲーム翻訳では、違和感のない日本語が求められます。

・クリエイティブな翻訳力

ゲーム内での会話などをそのまま直訳してしまうと、ぎこちない日本語になってしまいます。自然な日本語に訳す意訳力が求められるのもゲーム翻訳の特徴でしょう。

・ゲームに対する深い知識

翻訳するゲームに関しての知識がなければ、細かなニュアンスまで表現することができません。特にリアリティを追求する最近のゲームはこの傾向が顕著で、例えばFPSに登場する武器などは、実際に存在するものが使われていまので、翻訳者がそれらについて正しい知識を持っていなければ、リアルなゲームの世界感を台無しにしてしまいます。

またRPGゲームなどでは、キャラクターの性格を的確に表現しなければならないので、キャラクターになりきって翻訳する必要があります。

ゲーム翻訳ではトーンも大切

ゲーム翻訳のトライアルを受ける際に注意したいのが、訳文をゲームのトーンに一致させるということです。例えば小学生向けのゲームアプリを翻訳するとします。このケースで翻訳者が注意しなければならないのは、ターゲットとなるユーザーの対象年齢です。

ユーザーの年齢層をしっかりと把握して、会話に出てくる言葉を漢字にするかひらがなにするか考えながら翻訳する必要があります。場合によってはカタカナ表記がベストな場合もあります。このようにゲーム翻訳では、正しい翻訳を提供することだけが翻訳者の仕事ではありません。

常にプレイヤー=ユーザー視点で考えて、クリエイティブな思考を持って翻訳に取り組まなければなりません。
このように書くと、ゲーム翻訳のトライアルのハードルは高いと感じるかもしれませんが、ゲーム翻訳独特のスキルを身につけることで道は開けます。具体的に説明しましょう。

ゲーム翻訳者に必要な「ゲーム脳」を持つこと

これからゲーム翻訳者としてデビューを目指すのであれば、一般的な翻訳スキルに加え、ゲーム翻訳だけに求められるスキル「ゲーム脳」も身につける必要があります。そのためにはどんな勉強法が効果的でしょうか?

1.海外のオリジナルゲームをプレイしてみる

有名なゲームであれば翻訳版も用意されていますので、それをプレイしてみましょう。そしてそのゲームに出てくる翻訳文を参考に、自分だったらこのように翻訳するなど気がついた点をメモして勉強に活かします。

2.ゲーム実況を閲覧する

ゲームの実況を配信するコンテンツなどを見ることでも、ゲーム翻訳者に必要なスキルを学べます。同じゲームでも他の人はどのように感じているのかを知ることができますし、ゲーマーのそのゲームに対する想いなども理解することができます。また視聴者のコメントなどを読むことで、自分とは異なった感性に触れられ参考になることがあります。ほとんどのゲーム配信は無料で閲覧することができますので、お金をかけずにゲームに関する様々な情報を入手できます。

3.本を読み音楽鑑賞をする

小説を読むと、文字だけで表現されたものがリアルな映像として頭の中に再現されます。小説にはグラフィックスがないので、創造力が鍛えられます。

また、音楽鑑賞もゲーム脳を育てるのに大きな役割を果たします。色々な音楽を聴いて、そこからストーリーを作り出してみましょう。

読書や音楽鑑賞には、ゲームプレイヤーとしての感性を磨く力や、クリエイターとしての表現力をアップさせる力があります。

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