翻訳者の未来と将来性は?AI翻訳の進化で翻訳者に求められるもの
日々進化を遂げるAI翻訳、その進化とともに機械翻訳の需要は高くなってきています。翻訳者を目指す方の中には、「将来翻訳の仕事がなくなってしまうのでは?」「翻訳者の需要は減っていくのでは?」と心配されている方もいるのではないでしょうか。
DeepLやGoogle TranslateなどAIの技術は日々進歩しています。数年前までは自然な翻訳ができなかった機械翻訳ですが、最近では学習能力が進み、より分かりやすく自然な訳文をアウトプットすることが多くなってきました。
では、翻訳を機械に全て任せ翻訳を職業とする人たちが不要となる日が来るのでしょうか?この点に関して翻訳業界に携わっている多くの方が様々な意見を述べていて、その過半数の人が「なくならないだろう」と言っています。
そこで今回のコラムでは、「翻訳の仕事の将来性」についていろいろな側面から見ていきましょう。
翻訳の仕事でクライアントが求めるものは正確に訳すことだけではない
AI翻訳が進化して人間と同じような能力を身につけることは可能かもしれません。ただAIがそうした能力を身につけたとしても、人間の翻訳者が必要とされなくなることはないでしょう。
なぜなら、原文で表現されている言葉を翻訳対象となる言語にできる限り自然な形で置き換えるだけならAI翻訳でも可能でしょうが、求められる翻訳はそれだけにとどまらないからです。
翻訳の本質は言語を正確に訳すというよりも、どの訳語を使うかといったベストな選択をするという部分にあります。このようなヒューマンファクターが関連する部分はAIが一番苦手としています。
また近年、IT翻訳などでは翻訳者にクリエイティブな側面も求められます。具体的に言えば、クライアント自身が気づいてないことを翻訳者が発見し、どのようにアウトプットした方が良くなるかといったことを提案するケースが増えています。
訳語の選択をコンテクストに合わせて最適化したり、表現をより自然にしたりする業務は、AIでもある程度対応できるかもしれません。しかし例えば、英語原文では日本人には馴染みの薄い「パパイヤ」で例えられるような事例が書かれていたケースでは、日本では他のフルーツに置き換えた方がより身近で理解されやすいので差し替える、といった業務はAIにはできない翻訳者の裁量が活かされる部分です。
すなわち、状況に応じた修正や工夫を加えながらクライアントが望む訳文を作り上げることは、人間にしかできない芸当と言えます。
別の言語圏や文化圏の人に意図を伝えるのに必要な人間的な部分
翻訳者を目指して勉強している方であれば、ローカライズの重要性についてはよく理解されていることでしょう。翻訳者の仕事は日本語から英語、あるいは英語から日本語に変えるだけの単純なものではありません。
翻訳の現場で翻訳者に求められるのは、どのような目的で翻訳しているのかをしっかりと把握した上で業務を遂行することです。翻訳した文章がどのような文化圏で、そしてどのようなターゲットに向けたものかをしっかりとリサーチして訳文を作らなければ、クライアントの意図にそぐわないアウトプットになってしまいます。
翻訳者がクライアントの意図をしっかりと理解していなければ、どれだけこなれた訳文であってもクライアントには受け入れてもらえないでしょう。一見自然な文章に見える訳文であっても、クライアントやリーチしたいターゲット層には物足りなく感じられるかもしれません。そこで必要となってくるのがクライアントとのギャップを埋めるため業務です。これを行えるのは人間だけです。
AI翻訳では再現性が低い顧客体験(CX)を理解する
昨今よく耳にするようになった言葉にCX(顧客体験/カスタマー・エクスペリエンス)があります。日本では一般的に顧客体験と訳される言葉ですが、これはユーザーと企業との接点で感じる体験を表す言葉として使用されています。
例えばパソコンの購入を考えているユーザーがいるとします。機能やサービスを検討する時から購入に至るまでがCXということになります。CXの観点からすると、企業がパソコンを紹介するウェブサイトの文章では、その製品がどんな機能を持っているかをアピールするよりも、その製品を所有することで得られるメリットをアピールすることの方が購買意欲を高めるためにはより重要ということになります。
翻訳者は、ユーザーを導くための的確な訳文を作ることをクライアントから求められます。ローカライズも含めたこのような部分は、人間の翻訳者にしかできない仕事であると言えます。
高いスキルを持つ翻訳者であれば仕事は増えていく未来
言語学的に「正確な表現」と「効果的に」伝える翻訳は全く異なる要素であり、翻訳者にはこの両方のスキルが求められます。しかしAIや機械翻訳は、前者を得意としていますが、翻訳の目的に応じて最適な訳語をチョイスすることは苦手です。
こうした状況を踏まえると、将来的に翻訳者が不要になる時代は来ないと言って差し支えないでしょう。もちろん将来的にはAI翻訳でも合格点をつけられる分野は増えていくでしょう。それでも翻訳仕事の根幹となる部分は人間の翻訳者にしかできない要素を数多く含んでいます。
単純な業務はAI翻訳、翻訳者が担当するのはその他の部分
AI翻訳でもできるような単純な業務に関しては、翻訳者の仕事としては少なくなっていくかもしれません。それは機械でもできる部分だからです。その一方、人間の翻訳者にしかできない部分に関しては、高いスキルを持った翻訳者に仕事が集中するようになっていくでしょう。
AIの能力が高くなっていけば、翻訳スキルの低い人の仕事は減っていくかもしれませんが、グローバル化が進んで翻訳の仕事の需要が増加している状況の中、実力がある翻訳者の仕事は増えていくでしょう。
また、AIの能力がどんなに高くなろうと、
- ・人間が後編集するポストエディット
- ・ゲームや小説など、心に響かせたい訳文
- ・ローカライズ
など人間の翻訳者だからこそできる仕事は今後もなくなることはないでしょう。
クライアントに満足してもらえるクオリティの高い翻訳は常に求められ続けるということを考えれば、「翻訳という仕事」が人間の手から離れていくことはないと言ってもいいかもしれません。
もちろん今後はより高いスキルが翻訳者に求められるようになってきます。そのためにもフリーランスや副業として翻訳者を目指すのであれば、デビューまでのロードマップをしっかりと踏まえた上で勉強をすることが大切です。
最短距離で翻訳者デビューを目指すのであれば、
- ・専門スクールに通って基本的な知識を身につけながら、「アメリア」等の翻訳者ネットワークに登録し情報収集や実務を経験する
- ・独学で勉強してトライアルにチャレンジする
といったいくつかの方法がありますので、積極的に活用することをおすすめします。
翻訳者デビューを目指して勉強している方であれば、翻訳者としての未来を左右する業界のリアルタイム情報は常にアップデートしておきましょう。