ご利用企業インタビュー

株式会社翻訳ラボ

代表の山田さんが研究する翻訳学とは?

 翻訳学(Translation Studies)とは、翻訳の理論を科学的かつ多面的に研究する学問です。このように翻訳を独立した研究対象として取り上げるようになったのは、比較的最近のことで、ヨーロッパでは1970年代後半ごろといわれています。日本においては1990年代に入ってから少しずつ翻訳研究の論文などが発表されるようになりましたが、本格的に行われるようになったのは日本通訳翻訳学会が設立された2000年以降のこと。2002年には立教大学大学院に通訳翻訳研究を含む異文化コミュニケーション研究科が誕生し、以降、徐々に他の大学でも研究がなされるようになってきました。

翻訳研究に基づくテクノロジーを活用した翻訳

2007年10月に設立された株式会社翻訳ラボ。実は、この半年前の2007年春に、代表取締役の山田優さんは翻訳学の研究をするために立教大学の大学院に進学しました。

「大学卒業後は自動車会社に就職し、通訳・翻訳の業務に従事しました。その後、ドキュメント制作会社に転職し、IT系ローカリゼーションのプロジェクト・マネージャーなどをしていました。翻訳の経験を積むうちに、実務翻訳者はどのような思考回路で翻訳をしているのか、翻訳を科学的に研究したいと思うようになり、大学院進学を決めました。実際に翻訳の仕事をすることと翻訳学の研究はリンクすることですし、以前から会社員よりも独立起業の思いがあったので、その年の秋、勤めていた会社を辞めて、この会社を立ち上げました」(代表取締役 山田優さん)

大学院は今年の3 月に博士号を取得して卒業。現在は翻訳の仕事をしながら翻訳学の研究を続けています。

主に受注する分野は、山田さんご自身の経験を生かして、IT系ローカリゼーションと、自動車関連の技術翻訳です。

「ローカリゼーションは英日、自動車関連は日英が比較的多いですが、全体としては英日・日英、半々くらいです。弊社の特長は、私の研究テーマである『テクノロジーを駆使した翻訳』を行うことです。ほぼすべての案件で、TRADOSなどの翻訳支援ツールを活用しています」(山田さん)

登録翻訳者はツールに精通していることが条件

受注した案件は、山田さんがプロジェクト・マネージャーとして全体の管理を行い、翻訳とチェックは登録翻訳者に依頼しています。

「現在、稼働している登録翻訳者は約20名です。会社設立時は、仕事上以前から付き合いのあった翻訳者さんに発注していましたが、徐々に仕事が増えていき2008年頃に一度アメリアの『JOB』を通して登録翻訳者を募集しました。また今年の春にも同様に二度目の募集を行い、今回は10名ほど採用させていただきました」(山田さん)

今回の募集ではトライアルは行わず、送られてきた履歴書を元に個別に質問事項を送り、その回答を吟味して採用を決めるというユニークな方法で登録翻訳者を決定したのだそうです。

「4年前にはトライアルの結果で合否を判定しましたが、実際に仕事をお願いしてみると、トライアルの結果だけでは判定できない部分、例えば翻訳支援ツールの習熟度や調べものの能力などが重要であるとわかりました。それを見極めるには今回行ったようなメールによる個別面談が効果的だと判断しました」(山田さん)

さらには、メールでのやり取りも実際の仕事を円滑に行うためには重要なこと。そのあたりも見ながら総合的に判断し、10名の採用に至ったとのことです。

機械翻訳導入を見据えたコンサルティングも

翻訳案件の受注とともに、コンサルティングもまた同社が行う業務の大きな柱のひとつです。最近多いのが、翻訳会社から機械翻訳の導入の是非について相談を受けるケースだといいます。

機械翻訳は、以前は文法を元に構文解析し、ルールに当てはめて訳す“ルールベース”と呼ばれるものが主流でしたが、実務で使えるレベルにはなかなか到達しませんでした。ところが、2004年にGoogleが今までに訳された膨大な量の翻訳データを統計にかけて、そこから正しい翻訳を導き出す“統計的機械翻訳”(SMT:Statisutical Machine Translation)を実用化すると、翻訳の精度は格段に上がりました。コスト削減という大きなメリットもあるため導入を検討する企業はここ最近、非常に増えているといいます。

「まず、統計的機械翻訳を行うためには、大量の翻訳メモリが必要です。質量ともに十分な翻訳メモリがあればあるほど、SMTによって訳された訳文の質は向上します。そして、最終的に人間が訳文を修正するポストエディティングを行うわけですが、機械翻訳の精度が悪すぎると修正もままなりません。エディターの手に負えるレベルにまで到達している必要があります。弊社の行うコンサルティングでは、翻訳メモリの量、原文の複雑さなどからSMT導入にメリットがあるかどうかを見極めるお手伝いをしています」(山田さん)

わが社のここが自慢!テクノロジーを駆使してニーズに応える

日本では、まだ歴史の浅い「翻訳学」に興味を持ち、研究を続けてきた山田さん。翻訳は、常に新しい原文に向き合わなければならない、いわゆる労働集約型の仕事ですが、テクノロジーをうまく活用することで“翻訳を資産として活用”できるのではないかと考えています。

「製造業では、膨大な開発費がかかっても数年後に量産されて商品がヒットすれば、コストを回収して余りある利益が生まれます。一方、翻訳には基本的にそのようなスケールメリットはありません。しかし、翻訳メモリなどのテクノロジーを駆使すれば、過去に行った翻訳を資産として蓄積し、より早く翻訳できる、あるいはベテラン翻訳者のメモリを活用することによって経験の浅い翻訳者でも同等の翻訳ができ、かつ学ぶこともできる、といったことが可能になるのではないかと考えています」(山田さん)

さらに、今後の動向が注目される機械翻訳についても、日本で数少ない研究者のひとりとして、先導的な立場を目指したいといいます。

「現状では機械翻訳はまだ実用段階とは言い難いですが、興味をお持ちの方々にどうすれば利用可能になるかご提案できるよう、今後も研究を続けていきます」(山田さん)

「クライアントも登録翻訳者も付き合いの長い方が多いです。人材あってこそ、お客様にも続けてご利用いただける。そこが有機的に繋がっていると感じています」(水野さん)

学校、派遣事業、翻訳サービスとステップアップしていけるシステムが整っている同社には、人を育てていくというDNAが創業当初から受け継がれてきているといえます。

スタッフからひとこと!

ほぼすべての案件が、翻訳支援ツールを使用して行う翻訳というだけあって、同社の翻訳者に登録を希望する方にはツールを使いこなす能力が求められます。ツールの使い方を習得する方法としては、まずはセミナーなどに参加すること、そして重要なのはツールを実際に使ってみることだと山田さんは言います。

「無料のセミナーや最近ではウェブ上で行われるセミナーもありますので、興味を持って参加することから始まると思います。しかし使い方を知っているのと実際に使えるのは別のこと。ある程度まとまった量の翻訳の際にツールを使ってみると、その有用性が理解できると思います。例えば、何百、何千というHTMLファイルがあり、その中のある単語を指定された単語に置き換えるという指示があったとき、すべてのファイルを開いて検索・置換し閉じる、という作業をしていたのでは何時間もかかってしまいますし、その途中でミスをしないとも限りません。しかし、翻訳支援ツールを使えば簡単な操作で終了し、ミスも起こらない。実際に使って、ツールの大切さを理解していただきたいと思います」

ツールの習得以外では、どのようなことを翻訳者に求めているのでしょうか。

「社会人の経験というのは非常に重要だと考えています。例えば、実務翻訳では、発注・受注、プライスとコストの違い、売値・買値などの言葉、概念がよく出てきますが、これらを実際に仕事の現場で扱ったことがあるかどうかで翻訳の質が変わってくると思います。しかし、その反面、専門知識については経験をあまり重要視していません。例えば、プログラマーとして10年の経験があったとしても、翻訳する文書は常に最新の情報、新しい発想で書かれたものなので、昔の情報はあまり役に立ちません。それよりも必要になるのは“調べる能力”です。インターネットなどのテクノロジーを使って調べ上げる、未知のことに興味を持ってとことん追究できるかどうかが重要だと思っています。それからもう一つ。登録翻訳者に応募してきた方に『1日にどれだけ翻訳できますか?』と尋ねても答えられない方がけっこういらっしゃいます。時間をたっぷりかけてよい翻訳ができるのは当たり前のこと。プロには一定レベルの翻訳をなるべく短い時間で行うことが求められますし、翻訳会社としてはそのスピードが知りたいので、自分の翻訳スピードがどのくらいなのかご自身で把握していただきたいと思います」(山田さん)