山田 恵子さん
フリーランス1年で着実に実績を積む
プロフィール
大学ではスペイン語を専攻。重工メーカに十数年勤務し、発電設備の営業を担当。業務を通して得た契約書関係やエネルギー業界の知識を活かして翻訳の仕事をしようと一大決心し、フリーランス翻訳者に転身。現在は、マーケティング関連文書の英日翻訳を中心に依頼を受け、国内外の翻訳会社と取引している。
プレスリリース、プレゼン資料の英日翻訳を中心に
加賀山 :本日は神戸で実務翻訳をしておられる山田恵子(やまだ けいこ)さんにお話をうかがいます。
プロフィールを拝見しますと、主な対応分野はマーケティング、契約書、エネルギー、ビジネス一般ということです。具体的にはどういうお仕事が多いのですか?
山田 :プレスリリースやプレゼン資料の英日翻訳ですね。企業ウェブサイトや、そこに掲載するコラムなども訳します。
加賀山 :いま何社ぐらいの翻訳会社から依頼されていますか?
山田 :メインは国内の2社で、ほかにときどき仕事をいただくところが2〜3社あります。プレスリリースやプレゼン資料の仕事は、メインの2社からの依頼です。
加賀山 :具体的には、「気候変動、脱炭素化に関するレポート・プレスリリース」があげられています。
山田 :それは、海外の翻訳会社からの仕事で、気候変動や脱炭素化を研究している海外のNGO(非政府組織)の発表レポートやプレスリリースの和訳でした。
近くの海岸からは明石海峡大橋が一望できます。
加賀山 :実績の項目にある「リーダー向けe-learning教材」というのは企業の社内資料ですか?
山田 :はい。社内教育用の資料です。リーダーに必要な資質とか、こういう場合にこう対応するといったノウハウ的なものとか。
加賀山 :外資系企業の英語の資料を日本語に訳されたということですね。「物流システムマニュアル」も訳されています。
山田 :これもリーダー向けの資料と同じで、大手オンライン販売企業の案件でした。
加賀山 :社員の方々が使うマニュアルですか?
山田 :そうです。現場の作業手順を説明したもので、たとえば、このサインが出たらこのボタンを押して○○します、といったような取扱説明書ですね。
加賀山 :かなり具体的な手順なんですね。企業ウェブサイトの翻訳ではどのような企業を担当されましたか?
山田 :機械の部品メーカーだったり、ヘルスケアの企業だったり。とくに業界が決まっているわけではありません。
加賀山 :それから、これはちょっと種類が違いますが、「旅行ガイドブック」も訳されました。
山田 :はい。アメリカの都市のガイドの日本語版でした。アメリカを旅行する日本人向けのガイドブックですね。
加賀山 :そういうお仕事もされるのですね。プロフィールには、「ニュース記事のチェック」という項目もありますが、これは翻訳ではなくてチェックですか?
山田 :はい。MTPE(機械翻訳ポストエディット)の翻訳をチェックしました。これが初めての仕事でした。
加賀山 :翻訳チェッカーのような仕事ですね。最近、実務では機械翻訳も増えてきているようですが、そういう実感はありますか?
山田 :ポストエディットの案件は、国内の取引先からの案件に多く、実際に引き受けています。機械翻訳やAIの技術向上については、状況の変化が早そうなのでアンテナを高く張っておく必要があると感じています。
加賀山 :やはりそうなんですね。翻訳実績のマーケティング文書の内訳として、IT関連ニュースリリース、ダイレクトメール、利用規約などがあげられていますが、IT関連が多いのでしょうか?
山田 :そうですね。先ほど出たオンライン販売企業のソフトウェアのリリースに関するものなどが多かったです。ダイレクトメールはまた別の企業のもので、最近その企業のサイトに登録したお客さん向けにキャンペーンなどを案内する販促メールでした。実績はすべて英日翻訳です。
発電用タービンの営業からフリーランスに
加賀山 :経歴についてうかがいます。川崎重工業で発電用蒸気タービンの営業をされていたそうですが、技術系ですか?
山田 :いいえ。文系です。大学の外国語学部を卒業しまして、英語を使う仕事をしたいと思っていたので、そこに就職して海外営業を長く担当していました。
加賀山 :海外にタービンを売りこむ仕事だったのですか。けっこう売れるものですか?
山田 :いいえ。相手先は主にアジアでしたが、難しかったです(笑)。
加賀山 :火力発電用ですか?
山田 :そうです。電力会社のような大きいところではなくて、工場の自家発電に使うような小さめのタービンでした。あるいは、小規模の電力会社とか。就職時に海外営業は希望していたんですが、たまたまそこに配属になりまして。13年勤務しました。
加賀山 :そのあいだに翻訳をしたいと思われたのですか?
山田 :そうですね。子供がふたりいるんですが、ふたりめの出産の前後で、これからも企業で仕事を続けていくのか、もう少し自分に合った違う働き方をするのかということを考えはじめました。英語はずっと好きだったので、続けていきたいというのが大前提でした。
子どもの頃から通訳や翻訳の仕事に憧れていて、いずれやってみたいと考えていましたし、企業で十数年働いて、それなりの業界知識や社会人経験もありましたが、子供を育てながらこれからどういう生活をしていきたいか、どういう人生にしていきたいかを考えて、翻訳に挑戦してみようと思いました。そのなかで、会社員時代に蓄えたエネルギー分野や海外輸出貿易、契約の知識も生かすことができればいいなと。
加賀山 :なるほど。最初の翻訳のお仕事はどうやって開拓されたのですか?
山田 :アメリアに登録して、「未経験OK」の求人に応募して合格しました。
加賀山 :トライアルはなかなか合格しないとか、合格してもすぐには仕事が来ないという話も聞いたことがありますが、山田さんはそこから順調だったのですね?
さまざまなジャンルの記事を読むようにしています。
山田 :私はラッキーだったと思います。いくつか受けたら合格できて、そのうちの1社が継続的に仕事を依頼してくださるところでしたから。
加賀山 :アメリアに入られたのはいつですか?
山田 :2022年の初めごろ、会社を辞める少しまえでした。退職してから半年ほどはフェロー・アカデミーの応用講座を受講したり、アメリアの定例トライアルに応募したりしながら、仕事を始める準備をしていました。トライアルを受けたあと、最初の仕事をいただいてから1年くらいになります。
加賀山 :そうなんですか。退社後フリーランスになって1年あまりでこれだけの実績があるんですね。もう4〜5年はやっていらっしゃるのかと思いました。
山田 :最初の頃にアメリアで出会った会社さんがいろいろと依頼してくださって、運よく実績を作ることができました。それを履歴書にも書けますから、ほかの会社さんに応募するときにも有利になったんです。
加賀山 :もちろん実力があったからでしょうが、運が強い面もありそうですね。すると、アメリアに入って一番よかったことというのは、やはりトライアルでお仕事が得られたことですか?
山田 :それが一番大きいですね。あと、毎月発行される小冊子も楽しみにしています。「日本語にしにくい英語」のコーナーなど、とても役に立ちます。
加賀山 :フェロー・アカデミーでも勉強されたそうですが、いつごろからですか?
山田 :通信講座でしたが、会社に勤めながら基礎の実務翻訳〈ベータ〉を受講して、会社を辞めたあと、「契約書」の応用講座を受けました。育児などがあって通学はできなかったので、通信講座をネットで探しまして、評判がよさそうなフェロー・アカデミーを選びました。
加賀山 :基礎講座を受けてみて、これは翻訳を将来の仕事にできそうだという実感はありましたか?
山田 :そこまでは(笑)。基礎講座のときには、夜、子供たちが寝てから課題をやっていましたが、ここからもっと深く勉強するなら、やはり腰をすえてやる必要があるなと思いました。会社の仕事と並行してやるにはちょっと難しいと。
加賀山 :通信講座の期間は半年だったのですか?
山田 :そうですね。半年だったと思います。課題を提出するのがたいへんで、期限ぎりぎりまで延ばして受講していました(笑)。
加賀山 :とはいえ、手応えというか、やっていけそうだという感触がある程度あったから、本腰を入れるために退職されたんですよね?
山田 :まあ、たしかに課題の採点評価はボロボロではありませんでしたけど(笑)。
加賀山 :そのあとの応用講座で、いくつかジャンルがあるなかで「契約書」を選んだのには、何か理由があったのですか?
山田 :会社では営業担当でしたから、つねにお客様と交渉して契約を締結していました。その経験を翻訳にも生かせるかなと思ったんです。応用講座も楽しく受講しました。
加賀山 :フェロー・アカデミーのほかにも翻訳を学ばれたりしましたか?
山田 :学校はフェローだけでしたが、アメリカのテキサス在住の翻訳者で、ランサムはなさんという実務翻訳者がいらっしゃいます。その方がネットで開講している翻訳塾でも学びました。翻訳業界のこととか、翻訳者をめざす人たち同士の情報交換もできるコミュニティができていて、それに参加しました。
加賀山 :そちらも学校のようなものですか?
山田 :オンラインで開講していまして、翻訳の課題で他の受講生の訳と比べながらテクニカルなことを学ぶのと、情報交換や相談が半々というようなコミュニティですね。課題のジャンルは、受講生からリクエストすることもできてゲームや医療などの分野の文章にも触れることができました。コミュニティ内でセミナーが開催されることも多く、いろいろなゲストが来てくださって様々なテーマで貴重なお話を聞くこともできます。
加賀山 :それも会社員時代からですか?
山田 :いいえ。会社を辞めてからです。翻訳の仕事を始めたあと、横のつながりというか、翻訳をしている人がまわりにいなかったので、いっしょにがんばっていく仲間がほしいなと思っていたところ、翻訳塾の存在を知って参加することにしました。受講期間は3カ月で、私が受講していた期では30人くらいが学んでいました。修了後もコミュニティに継続して参加できるので、困ったときに相談できたり、話をして元気をもらえたりする仲間がいて心強いです。 あとは勉強のことで言いますと、翻訳に関する本や日本語の作文に関する本を買ったりして勉強しています。
自分の選択に納得感を持つ
加賀山 :今後のことをうかがいます。これからはどういう感じで仕事をされていきたいですか?
山田 :いまの仕事を続けながら、今後は日本だけでなく、海外の翻訳会社やクライアントさんとの取引を増やしていきたいと思っています。いまも少しはあるんですが、もっと増やしたいと思いまして。
加賀山 :どうやって海外の翻訳会社を探すのですか?
山田 :検索して出てくるものもありますが、そこで見つかる会社は経験年数が3〜4年ほど求められることが多くて、なかなか応募できません。私はLinkedInにもプロフィールを公開しているんですが、それを見た海外企業から「Japanese Translatorを探しています」という問い合わせが時々あり、そこでトライアルを受けて採用されました。
加賀山 :そういう開拓のしかたがあるんですね。
いろいろな方がおすすめされている辞典。手元においてよく使っています。
山田 :それが実績に書いた気候変動に関するNGOの仕事や、企業ウェブサイトの翻訳などです。LinkedInの他に、翻訳者ディレクトリやProz.comなどでもプロフィールを公開していますが、私の場合はLinkedIn経由の問い合わせが一番多く、実際の仕事にもつながっています。
加賀山 :そうでしたか。ほかに今後挑戦したい分野などありますか?
山田 :学生時代にスペイン語を専攻していましたので、スペイン語を学び直して、ビジネス関係の翻訳ができるようになりたいと思っています。
加賀山 :ああ、だから趣味のところにも「フラメンコ」と書いておられるのですね。
山田 :それも学生のときにやっていました。
加賀山 :フラメンコがお好きだからスペイン語を学ぼうと思った?
山田 :そういうわけではありません。フラメンコは、たんに楽しそうだったので(笑)。
加賀山 :趣味でピアノも弾かれるそうですね。神戸のご自宅で仕事をされていますが、気晴らしもご自宅だと、ずっと家にいて腰が痛くなったりしませんか?(笑)
山田 :なりますね。ストレッチとか意識するようになりました。ただ、運動は、子供の保育園の送り迎えで合計1時間くらい歩きますので、それでいいかと(笑)。
加賀山 :もっぱら送り迎えが運動ですか。ああ、ですが神戸は坂が多い街でしょうか?
山田 :でも、いま私たちが住んでいるところはフラットです(笑)。
加賀山 :少し抽象的な質問になりますが、「翻訳で実現したいこと」は何ですか?
山田 :そうですね……個人的には、会社員を辞めて翻訳の仕事を始めるときに、子供たちに「好きなことをして生きている」姿を見せられたらいいなと思っていました。自分の選択に納得感を持って生きるというか、そういう覚悟でキャリアを選びましたので、そこを見てもらいたいと思ったんです。
加賀山 :そこはしっかり実現できましたね
■ フリーランスになってからとても順調なお仕事ぶりです。また、LinkedInで実際に翻訳の仕事を得ている話も初めて聞いた気がいたします。実務翻訳にかぎらないことかもしれませんが、インターネットを活用した仕事の開拓方法はまだいろいろありそうですね。