岡村 桂さん | 【Amelia】在宅でできる英語などの翻訳の求人・仕事探しはアメリア

アメリア会員インタビュー

岡村 桂さん

岡村 桂さん

集中力と調査力でなんでもこなすオールラウンダー

プロフィール

大学卒業後、損害保険会社、電子機器メーカーの翻訳部勤務を経て、フリーランス翻訳者として独立。金融やマーケティング分野を中心とした実務翻訳や、出版翻訳の下訳に関わりながら、『インベストメント・スーパースター ヘッジファンドの素顔とその驚異の投資法』で出版翻訳デビュー。現在は、実務翻訳、映像翻訳、出版翻訳、リーディングなど幅広く手掛ける。主な訳書に『ハーバード・ビジネス・エッセンシャルズ』『富者の集中投資 貧者の分散投資』『バリューマーチャント』など。今後は、フィクションやスポーツ関係の出版翻訳など、新たな分野にも挑戦したいと考える。

脳科学の本が流行?

加賀山 :今日は、出版翻訳と実務翻訳の両方でご活躍の岡村桂(おかむら かつら)さんにおいでいただきました。さっそくですが、出版と実務のお仕事の割合はどのくらいですか?

岡村 :時期によってちがいますが、ここ数年は出版が7〜8割、実務が2〜3割ですね。

加賀山 :出版は納期が長く、実務は短いなど、いろいろちがいがありますが、両方をうまくこなすのはたいへんではありませんか?

岡村 :逆に気分転換になります。出版翻訳で同じテーマのことをずっとやっていると、集中しすぎて夢に出てくるほどになってしまうので(笑)、煮詰まったときに実務翻訳でふっとちがうことを考えられるのは助かります。

加賀山 :なるほど。プロフィールを拝見すると、『ハーバード・ビジネス・エッセンシャルズ:交渉力』(講談社)、『ヘッジファンドの魔術師』、『脳とトレード』(パンローリング)、『富への道の教え』(PHP研究所)など、金融、マネジメント、マーケティング、脳科学といったさまざまな分野の訳書を出しておられます。いちばん多いのは金融ですか?

岡村 :どちらかというとマーケティングですね。金融より読者層が広いのだと思います。実務の仕事では金融にかかわるものが増えますが、出版では投資関連の本が何冊かあるくらいです。

加賀山 :いちばん新しい訳書は……。

岡村 :いま翻訳中の本や、翻訳ずみでまだ出版されていないものもありますが、出版されているなかでいちばん新しいのは『売れる脳科学』(ダイレクト出版)ですね。最近、脳科学の本がすごく多いんです。

加賀山 :いまの流行だと思います。初めて知ったのですが、トレーディングと脳科学を結びつける本や、投資のメンタル部分を支援するコーチングの本なんかもあるんですね。

岡村 :じつは、いまやっている仕事は広告に関する本なのですが、広告をどう見せると脳科学的に効果があるか、受け手にどうアピールするかということも書かれています。たしかに、自分だったらだまされそうと思ったり(笑)。

加賀山 :広告と脳科学は相性がよさそうです。出版翻訳ではこれまでに何冊ぐらい訳されましたか?

岡村 :共訳や監訳者さんがついたものも含めて、訳したのは30冊ぐらい、自分の名前が出ているのはそのうち10〜15冊です。

加賀山 :実務翻訳のほうでは、企業のプレゼン資料や会議資料、契約書、判例、アニュアルレポートなども訳しておられるようですが、だいたいどのような内容ですか?

岡村 :プレゼン資料はおもにマーケティング関連です。判例というのはアメリカの裁判の判例で、その実績をプロフィールに書いていたせいか、判例用語集の翻訳も依頼されました。法律は英語にも日本語にも独特な表現があって、むずかしいですね。でも興味があったのでチャレンジしました。
 アニュアルレポートは金融翻訳に近い仕事です。日本に本社がある企業のアメリカの支社や子会社のレポートを日本語に訳します。

クラウドファンディングの翻訳プロジェクトも

加賀山 :翻訳者としてのデビューはいつでしたか?

岡村 : 1996から97年にかけて企業の翻訳部に勤めまして、その後、これは自分でできるかなと思ってフリーランスになりました。

加賀山 :そこから20年以上フリーランスですか。順調ですね。

岡村 :ただ、夫の仕事の関係でアメリカに5〜6年いたあいだは、翻訳から離れていましたけど。

加賀山 :帰国されてまた翻訳の仕事を始めたわけですか。

岡村 :そうです。しばらく空いたので、また一からの開拓でした。

加賀山 :出版翻訳を始めたのはいつごろですか?

岡村 :フリーランスになって3年ぐらいたったときです。フリーランスの最初のころは実務翻訳だけで、あらゆる会社にレジュメを送って、トライアルを受けました。アメリア経由でいただいた仕事もありますし、直接自分でアプローチしたところもあります。

加賀山 :いろいろなかたの話をうかがっていると、実務翻訳で収入のベースを確保したうえで出版翻訳もときどき、というかたが多いようですね。

岡村 :そうですか。実務翻訳のほうは、ニュースリリースを明日までに、というような予定の立たない仕事がけっこうあるので、私はその後出版翻訳を増やして、いまのバランスになっています。

加賀山 :これまでのお仕事で印象に残っているものはありますか?

岡村 :駆け出しのころはトレーディングの本が多かったのですが、これにも流行があるのか、少し減ってきていて、いま多いのは自己啓発や脳科学です。
 映像関係で印象に残っている仕事があります。字幕やボイスオーバーを入れる映像翻訳ではないのですが、よくテレビのバラエティ番組などで、海外でこんな事件がありましたという紹介映像を流しますよね。炭鉱に大量に水が流れ込んだという事故があったときに作業員を救出したエピソードとか、人間に育てられたワニの話とか。それを全部訳してくださいという仕事を何度か受けたことがあります。

加賀山 :英語のスクリプトを訳したのですか?

岡村 :そうです。誰かが書き起こしたものもありますし、映像からそのまま訳したこともありました。そうしてできた日本語のスクリプトから、テレビ局の人たちが編集して番組に取り入れるようです。

加賀山 :短いドキュメンタリーのようなものですね。

岡村 :はい。ある日、ナショナルジオグラフィック・チャンネルを見ていたときに、「これ、私が訳した飛行機事故のドキュメンタリー番組だ」ということがあって、ちょっと感動しました。

加賀山 :訳したときには、いつどこで放送されるかわからないのですか?

岡村 :わかりません。ぜんぜん使われないこともあるでしょうし。
 あと、『バリューマーチャント』(サウザンブックス社)というマーケティングの本を訳したのですが、それはクラウドファンディングで100万円集まったら翻訳書を出版するというプロジェクトでした。出版されてもされなくても最後まで訳さなければいけなかったので、翻訳料は出版されたらいくら、出版されなかったらいくらというふうに決まっていて、記憶に残っています。

加賀山 :そういう報酬の支払い方もあるのですか。これから増える形態かもしれませんね。フリーランスになってトライアルをたくさん受けたということですが、出版翻訳の仕事もトライアルで開拓されたのですか?

岡村 :翻訳会社のトランネットさんに紹介してもらいました。そのあとも何度か依頼があって、そこから出版翻訳の仕事が広がっていきました。

加賀山 :いまは翻訳会社から来る仕事が多いのですか?

岡村 :そうですね。翻訳会社を通さないのは2社ぐらいで、あとは3〜4社の翻訳会社からいただいています

知らない分野の勉強も楽しい

加賀山 :そもそも翻訳の仕事を始めようと思ったきっかけは何でしょう。

岡村 :企業の翻訳部で働くまえのことですが、ロサンゼルスに住んでいた時期があって、そのとき知り合いの女性が翻訳のアルバイトをしていたんです。各国の文化や歴史を1冊の百科事典のようなものにまとめる仕事で、そのかたが忙しくなったので、私があとを引き継ぎました。それが初めての翻訳の仕事でしたね。

加賀山 :それまで翻訳を仕事にしようとは思わなかった?

岡村 :まったく思いませんでした。翻訳との出会いは行き当たりばったりでした(笑)。昔から英語は好きでよく勉強していましたし、学生時代の専攻は国際金融でしたが、翻訳のために特別な勉強や活動はしませんでした。

加賀山 :専攻が国際金融なら、その後は国際金融の仕事についていた可能性もあるとか?

岡村 :いいえ、仕事にしようとは思いませんでした。最初の就職先は金融会社でしたが、国際とは関係なくて。

加賀山 :でもやっぱり翻訳を始めて20年ということは、この仕事がお好きなんですね。

岡村 :そうです。とても楽しいですね。

加賀山 :どのへんが気に入ったんでしょう。

岡村 :訳している分野にかかわらず、どんどんことばが湧いてくるときや、ぴたっとことばがはまったときがいいですね。クイズが解けたみたいな感じで。解けないと、それこそ夢にまで出てきますから。

加賀山 :集中するタイプなんですね。

岡村 :ええ。たとえば、脳のことなどまったく知りませんでしたが、訳すことになったので、脳科学の本をいろいろ読んで猛勉強しました。投資関係の本を訳したときにも、かなり専門用語を学ばなければなりませんでした。新聞を読んでいても本を読んでいても、そのとき訳している分野の話題から離れられません。
 翻訳者は皆さんそうでしょうけど、調べ物がたくさんあって、新しいお仕事をいただくと、バックグラウンドを調べることから入ります。翻訳そのものよりもほかの勉強をする時間が多くて、それも楽しいのです。

加賀山 :そうですね。世界が広がるというか。いままでのお仕事はすべてノンフィクションですか?

岡村 :はい。フィクションはありません。これまで訳したなかでいちばん物語に近いのは、スポーツ選手の伝記ですね。
 それと似た仕事で、たぶんもとは本ではなくてポッドキャストだと思うんですが、アメリカのさまざまな分野での成功者、100人以上にインタビューしたものも訳したことがあります。知らない人ばかりだったのでたいへんでしたが、おもしろい仕事でした。

みずから理解するために徹底的に調べる

加賀山 :今後取り組んでみたい分野などありますか?

岡村 :日頃の生活でもスポーツと旅行が好きなので、そういうお仕事があればうれしいです。旅行については、『ロンリープラネット』(メディアファクトリー)を何冊か訳しましたが。たとえば『地球の歩き方』などと比べて、日本人のセンスとちがうところが興味深いです。

加賀山 :そうですね。ご趣味はテニスとゴルフということですが、昔からスポーツをされていたのですか?

岡村 :はい、大好きです。とくにテニスは一生懸命やっていたので、試合に出る時間も欲しいというのが、フリーランスになりたいと思った理由のひとつです。

加賀山 :なるほど。実際にフリーランスになってから、時間の使い方は変わりましたか?

岡村 :自分で時間を管理できるというメリットもありますが、すべて自己責任ですので、試合に出て1日つぶれたら翌日は早朝から深夜まで仕事……ということもあります。ちょっと煮詰まったときに軽くジョギングに出かけることもよくあります。

加賀山 :自由だからこそ時間の管理はむずかしいですね。これから翻訳の仕事につきたいというかたにアドバイスがあれば……。

岡村 :地味な仕事ですから、好きかどうかというのは重要だと思います。映画でもいいし、ノンフィクションでもいい。好きな分野があれば続けられます。それと、調べ物が多くて先に進めなくことがよくあります。私の場合、マーケティングの本を訳すときには、脚注に出ている引用元や資料もすべて目を通すので、ものすごく時間がかかります。そういうことを続けられるかどうかも大切ですね。

加賀山 :つまり、巻末によく載っているBibliography(参考文献)を全部読むということですか?

岡村 :まずぜったいに、入手できるかどうかは確かめます。入手できれば目を通しますし、論文などでも最低限、アブストラクト(要旨)は読みます。まず自分がきちんと理解しなければいけませんので。
 たとえば、いま訳している本は、おそらく広告業界にくわしい読者を前提に書かれています。ですが、業界人だけでなく私みたいにくわしくない人でも読めるように訳さなければと思うので、その点を注意しています。

加賀山 :忙しいときなんか、原文に書いてあるとおりに訳しておけばいいんじゃないかと思いがちですからね。

岡村 :私自身が理解できていないと、あとで読み返したときに何を書いているのか自分でもわからなくなりますから。これは自分の文なの? これでいいの? と思ってしまう。そういう地道な仕事を好きになれるかどうかですね。
 私が訳す分野の本は、あまり知人に読まれることがないんですが、クラウドファンディングの本を訳したときに、たまたま高校の同級生でアメリカの大学院を卒業して、現在も海外に住んでいる友だちから、こんな本を訳したのねと久しぶりに連絡がありまして、恥ずかしくない仕事をしなければいけないなという気持ちを新たにしました。

■判例用語集までおもしろそうと思って訳してしまう好奇心と、スポーツで培った(?)集中力がとても印象的でした。まじめに取り組むことの大切さも教えられました。これからもぜひ新しい分野や仕事にチャレンジしてください。

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